第627話「この人いちばんアホです」
──コモドドラゴンならぬ、笑顔のコドモドラゴンが突っ込んでくる。
ここが荒野だからか? 自然の猛威というのは文明人にも容赦なく牙を剥くな。
「婿殿ぉ~~~♡ ようやく会え──」
「ん……」
とりあえず闘牛士が如く横に避け、くり貫かれた服の腰部分から伸びる巨大な尻尾をすれ違い様にがっしりと掴み……、
「うぉううぉううぉううぉううぉううぉ~う!!」
「なんなのだこのトカゲは」
「相変わらずお前、興味ない女への扱いひでーな……」
円を描くようにブンブン振り回しながら集団の方へと歩いていけば、こちらに声をかけるのは山賊めいた風貌の海パン男。誰だこの変態は?
「なぜ狩り場に変態がいる」
「変態じゃねぇよ。このジーク=ゲオルクラート様を忘れたとは言わせねぇぜ」
……分からん、誰だ。
ひとまず「なははははは!!」と楽しんでいる様子のコドモドラゴンを"鉄壁"の方へポイっと放り、なにやら思い出してほしそうな男をためつすがめつ見る。せめてもう多少特徴でもあればな。
「……得物は」
「バルムンク。今は質……信頼の置けるトコに預けてある」
「俺と接点でも?」
「お前と昔、悪竜しばき合い対決して負けた。家宝も取られた」
「ああ……あの"竜殺し"か。享楽に耽るその生き様には、多少の好感を持ったものだ」
思い出していれば、しかし件の竜殺しが唐突にダンと額を土に擦り付けた。
「頼むっ! あん時の家宝……指輪を返してくれ!!」
「素寒貧のおじさんが土下座してる姿は心に来るものがありますね~……」
修道服の裾と先端のカールした白金の髪を揺らして、ティアがその無情を嘆いている。そういえば挨拶がまだだったと思いさり気なく手を小さく振れば、ティアはパァっと顔を輝かせ、豊かな腰回りの陰に隠した手をシャカシャカと小刻みに振って返してくれた。
「ふむ……?」
相変わらず仕草の可愛いアラサー聖女から、視線をむさ苦しいおっさんに戻し首を捻る。
しかし指輪……? ああ、先日に袖の底で眠っていたのを発掘したな。
ごそごそと袖を漁り、目当ての物を摘まんで出す。
「これか?」
「マジで頼む! いや来週に固いレースがあってよ! それと今回の賞金合わせりゃ、これまでの負けなんざ全部チャラどころか一発大逆転ってわけ!」
「ジャンヌちゃん、見てはいけませんよ。これが博打で脳を破壊した者の末路なのです……主よ、この方を天にお迎えください。エイメン」
「よくその歳まで生きてこられたねジーク殿は……」
大剣を背負った少女にすら哀れまれる大男、ジーク。
この黄金の指輪は曰く付きのため換金もできず、蔵で腐らせるだけだったため手放してもよいが……しかし一方で、これは俺が正当な報酬として得たものだ。
ゆえに『返せ』とは、少々言い方が正しくないのではないか?
試すように眉をピクリと上げれば、それで全てを察したのかジークは一転して不敵な笑みを浮かべる。
ああそうだとも。欲するならば、勝ち取れ。
「どうする? コインか?」
「貴様は博徒だろう。鬼から宝を得んとする場で、貴様はその勝敗をたかが硬貨一枚で決めるのか?」
「おっしゃ。じゃあ来いよ」
「ク、ハハハ……」
黄ばんだ歯を見せ、挑発を多分に含んだ笑みを見せる男。
──その首に向け、遠慮なく刀を叩き込んだ。
神速の一太刀は防御する暇を与えず、仮に防御したとて生半可なものであれば即座に切り捨てる絶死の一太刀だ。
「……」
「……」
だが、音も無く。衝撃すら無く。
──俺の振るった刃は、その者の首の皮一枚でピタリと止められていた。
それを認め、ジークがニヤリと笑う。
「俺の勝ちだな」
「クク、もっていけ」
指輪を放れば、賭けに勝ったジークは「いよっしゃあ!」と快哉を上げてなどいる。
いやはや、人間というのはここまで賭博に狂えるものなのだな……と感心していれば、傍にいたティアも青ざめた顔で「ひえ~」と漏らしている。
「いつ見てもヒヤヒヤしますね、ジーク様の賭けは。というか普段から何食べてたら"致命傷クラスの攻撃を無防備で受けた時にだけ、半分の確率でそれを無効化する"って能力を思い付くんです?」
「骨の髄からギャンブラーってだけさ。俺達が剣を持ちゃ、そんなの勝って当たり前。そうだろ?」
だが生粋の博徒はそこまで言い、黒い瞳に飢えすら孕んだ笑みを浮かべるのだ。
「──俺達みてぇな輩に、平等に勝敗をもたらしてくれんのは博打だけよ。勝った時に脳汁がドバドバ出る感覚も好きだが……俺は負けそうになった時の、ケツの穴がひりつく感覚もたまんなく好きなんだよ。そっから逆転した時のブッ飛んだ快感なんざ、どんな美人を抱いたとしても味わえねぇ。聖女様もやってみな? トブぞ」
「引きます~」
「ったく、これだから聖職者は」
ドン引きするティアに、ケラケラと笑い飛ばす竜殺し。ティアとて充分に破戒僧だが、この男に比べれば可愛いものよ。
己の生命すら、軽々しくその天秤に乗せる。その潔さと剛毅さは……そう嫌いではない。
「ククク……」
ちなみにだが、この大男は"相手へ致命傷に及ぶ攻撃を与えた際にも、半分の確率でそれを無効化されてしまう"という一面も持っていたはずだ。
まさしく賭け狂いの男よ。"半死半生"の名は伊達ではないということだ。恐らくこの世界で最も生を謳歌している人間の一人だろう。見ている分には退屈せんが、教育には大層悪いだろうな。
「いや良い見世物だった。やはり衆生から逸脱した者には、たとえ海パン一丁であろうとキラリと光る何かがある。顔を出してみるものだ」
「半分の確率とはいえギロチン・ショーを躊躇なくやるお前も大概だけどなっ! ……どうよ、飲むか?」
「酒を断る鬼などおらん。もらおう……ほほう、本場の黒ビールか。たまにはこうした刺激のある酒も悪くない。どれ、摘まみは俺が出そう」
「んほぉ~薫製肉たぁ豪勢じゃねぇか! おい、ボブもこっち来い! いつまでそのチビドラ抱えてんだ」
「私がヒーローキャッチで受け止めなければ、この子は地平の彼方だったよ? ミスター・サカガミ? 彼女に何か言うことがあるのでは?」
「椅子がないな。鉄壁、貴様の合金装備を椅子にしていいか」
「いつもながらのヴィランっぷりだな君は!」
展開時には身体にピッタリ装着される"鉄壁"の鎧だが、今は収斂されスーツケース大の大きさとなって地に転がっている。椅子として丁度よいサイズ感だ。
「貴様は暑苦しいな、鉄の英雄。爬虫類とはいえ子どもを守らんとする、その気概は見上げたものだが」
「私は民衆のヒーローだからね!」
「妾はもう子どもではないぞ婿殿?」
遠慮なく鎧に座ろうとすれば、しかし爽やかな笑みの鉄壁に掠め取られ、代わりに満面の笑みを浮かべるトカゲを押し付けられた。先の蛮行に全く堪えた様子もない。正面からヒシっとこちらの胴へコアラのように抱き付き、変わらず「婿殿~~~♡」と意味の分からぬ言葉を放っている。
(ひそひそ……ティア殿。あなたを聖女と見込んで、ひいては日々迷える子羊を導くお姉さんと見込んでお願いが……)
「この邪竜はいったいな~にして……あ、はいはい。なんでしょう、ジャンヌちゃん? 可愛い女の子のお願いならなんでも──」
(ぼ……ボクの初恋を、応援してほしい……!)
「え゛っっっ。い、いや、やめた方が~……い、いいようなぁ~……?」
ところであの二人は何をコソコソ喋っておるのだ。ティアなどダラダラと汗を流し、苦悩しているようだが。ビール飲むか?
「そ、そもそもせんせ……こほん、酒上様には既に──」
「あ、あのっ、刃殿……いや、刃、さん……?」
「む?」
「ちょーい!」
共に座るのにどこか良い岩場などないものかと探していれば、そんな俺にまたも声をかける者……金髪の少女だ。緊張気味なその背にある大剣を見れば、名も窺い知れるというもの。
「い、椅子とかテーブルなら、キャンプ用のをボクが持って来てるから。それを使ってほしい」
「ああ。気を利かせてすまないな、ジャンヌ」
「あ、ぼ、ボクのこと、覚えて……?」
名を呼べば、テキパキと椅子を準備する少女の動きがピタリと止まる。
そのまま上目遣いで問う少女に、俺は「うむ」と頷いた。
「幼少の妹によくしてもらったからな……最近、話題にも出ていた。共に怪しい宗教団体を壊滅させた仲ではないか? 妹も会いたがっていたぞ」
「わ、わぁ……嬉しいな、刀花殿も元気?」
「地球を平らにするくらい元気だぞ」
「ふふ、さすがは無双の戦鬼殿。比喩もスケールが違うね」
「果たして比喩なのでしょうか……」
「え?」
クスリと笑うジャンヌに、ティアは戦々恐々な様子でボソッと言っている。うむ、比喩ではないな。うちの妹は今日も大変に元気だ。本日はクラスメイトと先約があるとのことで、ここにはいないが。
そうしている内にも、ジャンヌは人数分の椅子を組み立て、笑顔でこちらにも勧めてくれる。
「はい、どうぞ? 多分壊れてはない……と思う。運が良ければ」
「感謝する。貴様もいい加減離れて座れ、トカゲ」
「あ、あっ、先生の両サイドが~……」
赤トカゲをひっぺがし、右隣の椅子に座らせる。左を見れば、その席にはさりげなくジャンヌがスカートを整えつつ座っていた。ティアはいつまで立っているのだ?
「クチャクチャ……この状況どう見る、ボブ? いや、誰に賭ける?」
「私は昔から正義の味方同士、ミス・ペルフェクティオとは懇意にしていてね。応援という意味でも、彼女に賭けたい。いやはやミスター・サカガミはプレイボーイだね。私の妹も候補に入れてくれないだろうか」
「あ? 大企業の社長の妹? おいおいそういう話は俺をまず通してから──」
「今年で四十五を超えるが器量良し、性格良し、見る人によってはふくよかかもしれないがワガママボディの、どこに出しても恥ずかしくない女性なのだが……」
「さーて、俺は順当にフランスのお嬢ちゃんに賭けるか。若いし。なんか健気っぽいし」
「ところでミスター・ジーク? 今私の妹を紹介──」
「チビドラは何か無邪気すぎんな? 何したらああなっちまうのか興味はあるが……」
「ミスター・ジーク? これが妹の写真……ジーク?」
男衆が酒を片手に何やら密談を交わしている。
そんな雑音を横に流していれば……椅子にちょこんと座るジャンヌが「そ、そうだっ」と何かに気付いたかのような声を出した。
「け、軽食にパンを焼いてきたんだけど……刃さんも、どう?」
「わざわざ焼いてきたのか」
「う、うんっ。ほら、ボク実家がパン屋で。大学に通いながら修行してるんだけど……食べてみてくれない?」
「味の違いなど分からんかもしれんぞ」
「いいよいいよ! その……食べてくれるだけで、嬉しい、から……」
「ほう」
食べてくれる者の喜びを願う、パン職人の鑑だな。
茶色い紙袋を差し出され、中の一つを無造作に掴み取る。固く、飾り気の無いパンだ。
「ふむふむ……」
「ドキドキ……」
だが鼻を近付けてみれば、バターの芳醇な香りと、ベーコンの焼けた香ばしそうな香りが優しく鼻を掠めていく。食欲をそそる、よい香りだ。
「どれ……ガブリ」
大きく口を開け、食い千切る。
予想通り、中にはたっぷりのベーコンが詰め込まれており、食べ応えがある。パンもカリカリと固く焼かれ、俺好みだ。
ムシャムシャと咀嚼し、ビールで胃に流し込む。そんな俺の様子をジャンヌが胸を押さえて見るものだから、思わず笑ってしまった。
「そう緊張せずともよい。実に美味だった」
「あ──よ、よかったぁ……うん……」
心底ホッとした様子だ。修行中の身と言ったが、決して馬鹿にできぬ味であった。
「俺も将来は喫茶店を開くつもりでな。このパンならば、毎日俺の店で出したいと思えるほどだ」
「え……えっ!? そそそそそれって……ぼ、ボクと……? もしかしてプロポポポポポ──!?」
「じ~……」
俺は今一度、隣に座る金髪の少女を見る。
蜂蜜色の長い金髪は腰辺りまで伸び、日の光を反射する青い瞳は、平らかなる空を思わせる。顔は少々赤いようだが。
「いやはや、見違えたものだ。あれだけ己の不運を嘆いていた少女が、こうして夢を抱き邁進しているというのだからな」
「あっ──も、もう、やめてよ昔の話は」
「昔会った時より髪も伸び、より女性らしくなった」
「う、うん……『綺麗だ』って、言ってくれた、から……伸ばしてみたんだけど、どう?」
「今言った通りだが」
「じゃ、じゃなくてっ。その……綺麗?」
「む? ククク、今の俺は金髪に少々うるさいぞ?」
「そ、そうなんだ……? ふわっ」
不思議そうに聞き返すジャンヌに対し、俺は片手でサラリとその金髪を掬ってみる。白い三角巾を通って垂れるそれは、風に靡いてサラサラと流れた。
「ふむふむ……キチンと手入れをされているな」
「ふわわわわわわ」
「だが“とりぃとめんと”はもう多少高めの物を使った方が良さそうだ。睡眠はちゃんと取っているか? 不規則な生活は美という宝を損なう。今度、俺がお前に合う洗髪料を見繕ってやろう」
「は、はひ……よ、よろしく、お願いします……♡」
端正な顔を手で覆って、ボソボソと漏らすジャンヌ。フランスでは感謝する時には顔を隠すのか? 貞淑な民族なのだな。ところでティアはなぜ「あちゃ~」と額に手を当てて天を仰いでいるのだ?
不可思議な光景に眉を寄せていれば、そんな俺達の様子に牙を見せる者が一人。
「ぶー……妾の婿殿に気安く触れるでない!」
「いい加減、その『婿殿』というのはなんなのだトカゲ……いや、竜皇妃」
俺は爬虫類を嫁に迎え入れたつもりはない。ましてや見るからに幼女など……。
睨めば、竜皇妃はますます膨れっ面となり、長い尻尾でペシペシと地を叩いた。そんな仕草がますます幼女らしく見える。
「竜皇妃などと余所余所しい。シャオと呼んでくりゃれ、婿殿♡」
「だからなぜ俺が婿なのだ」
「昔、妾から一族の証たる宝玉を奪ったであろ?」
「ん……ああ」
それも先日、袖の底で眠っていたのを見つけた。刀花に「まだ返してなかったんですか?」と怒られたものだ。複数ある様子だったため、いいだろうと。
ジークと同じく、返して欲しいのか。そう思っていれば竜皇妃……シャオは、喜色満面にニパッと笑った。
「妾から力尽くで一族の宝を奪った、強いオス……妾はあの時から、うぬのことを思うたび胸の鼓動が止まらぬのじゃ! これぞまさしく恋! それに一族の証たる宝玉の所持者ゆえ、婿殿はまさしく妾の婿なのじゃ! あの時、そう決まったのじゃ!」
「…………ほう」
「じ、刃さん……?」
「せんせ……酒上様……?」
なにやら女性陣から非難っぽい目を向けられている。どうやら宝かと思えば、曰く付きのものを引き当てていたらしい。それも時限式のな。
赤いツインテールをフリフリさせ、こちらの腕に頬擦りをするシャオ。俺は「ぬう……」と唸り、一つ提案する。
「……返品しよう」
「ダメじゃ♡ 妾がそう決めたのじゃ♡ 責任を持って……妾と、子作りしてくりゃれ♡」
「げほっ……!? しゃ、暁麗殿!?」
「酒上様引くわ~、そんな幼女にまで手にかけるなんて……」
「妾は百歳を超えておる、立派なレディじゃぞ?」
取り乱すジャンヌとティアに、シャオが無駄にでかい胸を張る。角と翼と胸と尻尾は確かに立派であった。
だが……長命種の宣う年齢ほどあやふやなものもない。その言葉の意味を、どれだけ理解しておるのか怪しいものだ。
「さ、さ、婿殿? 子作りじゃ♡」
「ほう。どうするのか知っているのか?」
「当然じゃ!」
試しに聞いてみれば、シャオはドヤッとした顔で宣言した。
「赤ちゃんはの……男女がキスすることで、できるのじゃ!」
「え、それって下の口でって意味で──」
「ティア殿!!」
破戒僧の口をジャンヌが塞ぐ。このムチムチシスターは青少年の育成によろしくない。
俺はため息を吐く。まぁ、そんなところだろうよ。だが幼女の夢を壊すというのも後味が悪い。
「分かった。目を瞑れ、シャオ」
「っ♡ んんう~……」
唇を突き出し、若干ぶちゃいくな顔を晒すシャオ。
そんないたいけな幼女に──、
「──っ?」
「「あーーー!?」」
そのツルンとした額に、一つ口付けを落とした。幼女にはこれで充分だろう。
「? ……?」
燃えるほどに赤い瞳を不思議そうにパチクリとさせ、額を押さえるシャオ。
だが、額に口付けをされたのだと気付き……おや?
「っっっ~~~~~/////////」
先程までの強気な態度はどこへ行ったのか。
その髪よりも真っ赤に頬をポフッと染め……椅子に小さく縮こまってしまった。
「ぁ、あにょ……あ、ぁりがとぅ……なのじゃ……♡」
「……あぁ」
モジモジと前髪で顔を隠し、小さく礼を言う竜の娘。
うぅむ……幼女相手と思い、失敗したかもしれん。所詮児戯と割り切っていたが……竜の心臓に、今度こそ火を点けてしまったのやもしれんな。
「ちっ、大穴だったか~」
「いけ、ミス・ペルフェクティオ! そこだ!」
「どこですか!?」
悔しがるジークに、ティアを唆すボブ。
前に出たティアだったが「え、え~っと?」と必死に話題を探している。あくまでここは外交的な場ゆえ、立場のある彼女としては悪鬼とは話しにくいようだ。真面目だな。
「あ、そ、そうです。酒上様にしては、このような場にいらっしゃるのは珍しいな~って」
「ん? ああ」
あせあせとしたティアに、当然の疑問を問われた。
「栄誉になど興味はない……ただの金策だ」
「あ、もしかして刀花殿の進学代とか?」
「金策ぅ? おいおいそういうのは俺に任せなって。なにがいい? 馬? 船? サイコロ?」
「ヒーローアームロック!」
「ギブギブギブ!」
教育に悪い竜殺しを、鉄の英雄が黙らせている。
そんなアホどもを横目に、俺は尊敬の眼差しでこちらを見るジャンヌへ首を横に振った。
「そういった費用も含めてだが……大きくは、遊び代だ。遊ぶ金が欲しいのだ」
「そ、そうなんだ? まぁそういうお金も大事だよね。ボクも一般の出だから、気持ちは分かるよ。なんならボクだって、今日はお金目当てだからね。将来、お店を構えるためにも」
「なんじゃ婿殿ぉ。金が欲しいなら妾に言ってくれればよいというに。妾の宝物庫から、好きなだけ持っていくがよいぞ♡」
「いらん。施されるのは趣味ではない」
「え、で、でも、財宝……妾は、これくらいしか……」
「暁麗ちゃまが物でしか興味を引けないダメな子になってしまっています……」
青い顔でオロオロするシャオに、ティアが涙を流す。子どもの情緒であれば、そんなものだろう。
鼻を鳴らし、まとめる。
「ああ、そうだ。俺は今、金が欲しい。なぜならば……」
「あ、酒上様それは──!」
ティアが何か言いそうになっていたが、構わず続けた。
「──この一年で、嫁を五人ほど迎えてな。甲斐性を見せるため、こうしてコソコソと金策しに来たというわけだ。笑ってくれて構わんぞ」
「「ガーーーーーーーーーン」」
「あぁ~~~~~~~……」
「だ~~~~ひゃっひゃっひゃっひゃ! 最初っから賭けなんざ成立してなかったってわけか!!」
「う~ん、まさかそれほどのプレイボーイだったとはミスター・サカガミ……。ところでここに私がお勧めするとても可愛い女性がいてね?」
ジャンヌとシャオは大口を開けてショックを受け、それを見たティアが嘆く。ジークは大笑いして、鉄壁はなぜか女を紹介し始めた。
「さて……」
頃合いか。
残っていたビールを飲み干し、立ち上がる。
「え、さ、酒上様……?」
そうして──刀を抜いた俺を、不思議そうに見るティア。どうした。
「ど、どうして今、刀を……?」
「む? 金策しに来たと言ったであろう?」
「は、はぁ……予言にあった外敵とやらはまだ来ていませんが……」
「そうだな」
外敵を追い払えば、一億。この場には俺を含め六人いるため、運営は最低でも六億の用意をしているはず。
その事実を前に……無双の戦鬼は、こうも思うのだ。
俺は牙を剥きながら──刀の切っ先を、この場にいる全員にゆっくりと向けた。
「貴様等全員をぶちのめし、外敵も殺す。そうすれば……俺が六億を総取りできるのではないだろうか?」
「こ、この人いちばんアホですーーーー!!??」
「じ、刃さん!?」
「い、嫌じゃ……あの時みたいに痛いのはもう嫌じゃ……」
「絶対負けると分かってる勝負は博打じゃねぇんだよクソが!!」
「う~ん、困った……彼の攻撃は、私でも荷が重い……」
さて。我が王達のため、金を稼ぐとしよう……。
ククク、ハハハハハハ……!!
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