第621話「教えて姉上!激情版~房中術編~」
「して、その房中術なるものとは?」
「う……」
くすぐりから解放され、座布団の上に戻った姉上。呼吸も落ち着いてきた頃にそう問えば、しかし彼女は再び恥じらうと共に視線を下げた。言いにくそうにモジモジと身体を揺らしてなどいる。
それほど彼女にとって、言葉にするには恥ずかしい事柄なのだろうか。そういえばガーネットが何か知っているような素振りだったが……彼女は先程からワクワクした様子で、姉上を見るのみだ。
「何か知っているのか、ガーネット?」
「はいそれセクハラ。ジ○ロからの沙汰を神妙に待て」
房中術について聞くことはセクハラらしい。俺はまたしても姉上にセクハラしているのか……いつもすまないな。
しかし、それも道理かと思う。俺と刀花がなぜ争うことになったのか。それは俺達の目標を同時に叶える術が無かったからだ。
俺は姉上のますますの健やかな成長を望み、そして妹は即座に姉の不老不死を望んだ。
この二つを、同時に叶える夢のような術。それが房中術だというのなら……確かに、それは少々色欲めいた術になるのかもしれん。姉上も恥じらうというものだ。それは理解できる。
「──」
だが、俺もまたできうる限りの不老不死を求める者。
彼女達と永遠を歩むためならば、セクハラとて敢行する……!
「姉上」
「は、はい」
「残念ながら、説明してくれるまでこの場は解散せんぞ。皆も知りたがっている」
「うぅ……」
「教えてくれ、姉上。我が姉の肉体的成長と、不老不死とを両立する術を!」
「私も知りたいです……そして見たいです。姉さんがKカップになるのを。そんな姉さんが永遠になる姿を……!!」
「何回聞いても不純すぎるわね……」
「あはは……」
リゼットがじっとりとした目を、そして綾女が苦笑を俺達兄妹に向けてくるが構わない。俺達は知りたいのだ! 美しい姉上が大好きなのだ!
そんな俺達弟妹の期待に輝く視線を向けられ続け……姉上はますます頬の赤みを増しながらも、ポツポツと言の葉を漏らした。
「あの、えっと……ですね。ぼ、房中術とは即ち、古代中国から続く養生術であり……そう、医術の一種と申しますか……」
「ほほう、医術」
その口振りからして、なにやら歴史ある医術っぽいぞ。果たして俺のように粗野な悪鬼に理解できるだろうか。せめて一言も聞き漏らさぬよう、前のめりになった。
「どのような術なのだ?」
「う……ち、中国における陰陽五行思想によるところ、太極とは即ち世界の根源を指し、それは陰の気と陽の気の交わりによって成り立つとされております」
「ふむふむ」
「その二つの気は、我等人間の身体の内にも宿っております。陰が女、陽が男。つまりこの二つを交わらせることが、房中術の基本となるわけですね」
「ふむふむ……!」
「この二つの気を循環させることにより天地万物……"世界そのもの"となる。世界というものは、決して消え去ることはありませんね? 即ちこれこそが房中術の基礎にして奥義。人の身ながら森羅万象を体現し、不老不死となる……その術の名こそ──房中術」
「ほうほう!」
「つまり、そういうことです」
なるほど……!
「……」
「……」
……なる、ほど?
「姉上」
「はい?」
「この愚弟にも分かるよう、もう多少噛み砕いて頼む」
「う……そう、ですね。中国の宇宙観を示す書物によると、易という字は日と月を組み合わせた会意文字であり、これも男女の持つ陰陽が──」
「姉上」
「はい」
「つまり、何をどうするのだ」
「……」
なぜそこで小さくなって黙る。そしてなぜガーネットは笑いをこらえているのか。
痺れを切らしたのか、リゼットが指で机をトントンと叩きながら言う。
「それが厨房でやってたキスなんじゃないの」
「ああ……つまりただの口付けではなく、そうした気の操作を意図した口付けだったのだと」
そういうことだな? と姉上に目で聞けば、なんとも曖昧な笑みを返された。なんだその笑みは?
「ふぅむ?」
概要は知れた。
しかし疑問が残る。そうした口付けのみで、今さら姉上がこれほどまでに恥ずかしがるものか?
……まだ何かあるのではないか? 直感的にそう悟り、姉上をじぃと見る。
「……っ」
目を逸らされてしまった。何かあるなっ!
「ダーリン、ダーリン♪」
「ガーネット」
するとニマニマといやらしい笑みを浮かべるガーネットが、こちらに身を寄せ耳打ちをする。
「ほら、キスだけじゃなくてまだあんじゃん? 男女の気を巡らせる手法が♡」
「というと……触診などか?」
「ばっか、オメー。男女の交わりっつったら、もっとこう、あるだろっ!! 特に夜のなっっ!!」
「む」
夜における男女の交わり。
その語句から連想される行為は、およそ一つしかない。昨夜にも……しかし、いや、まさか……?
「……姉上?」
「っっっ」
まさかと思いつつ姉上を見れば、それはもう真っ赤になっている……!
これは、つまり──!!
「──性行か」
「ぴっっっ」
姉上が肩を跳ね上げる。
その反応を認め、ガーネットが俺から言葉を継いだ。
「それもただの性行じゃねぇぞ……」
ただの性行であれば、この世界ならば多くの者がしておる。そうして人類は相続しているのだから。
そして聞くところによると、房中術は男女の性行によりあくまで"不老長寿"を得ることを念頭に置いた養生術らしい。不老とはいえ、不死とまではいかん。
以上を踏まえ、姉上の提案する房中術とは──!
「本来節度を保ち、己の内包する気を漏らさないようにして調和を果たすのが従来の房中術。だがこれで得られるのは、あくまで不老長寿! それじゃあ足りねぇ! 足りないなら足せばいい!」
更なる不死性、不老不死を得るには……そう!
「求めるのは! 女がメチャクチャ感じて、男もメチャクチャ感じながら、メチャクチャ激しく気持ちのいい
それこそが──!
「ド級のセックス──"ドセックス"だ!!」
「んなっ!?」
「むふー! むふー!」
「ふわぁ~~~~~!!」
「ぴえぇ……」
その結論に、皆が様々な反応を見せる。
リゼットは怒りと羞恥で髪を逆立て。刀花は興奮で鼻息を荒くし。綾女は感激でもしたかのように目を真ん丸にして口許を押さえる。姉上は泣いた。
そして俺は……神へ祈るかのように、天を仰いだ。
「なるほどな……」
そういうことだったか……戦鬼は、全て理解した。
「諸人であれば、長寿を得るための養生術程度にしかなるまい。だが姉上と俺の内包する莫大な霊力さえあれば……」
姉上の陰気と俺の陽気を熱く激しく循環させれば……!
「──不老不死の術、足り得るというわけか!」
「~~~っ」
姉上が伏し目がちになって縮こまり、頭から湯気を出す。その様子で、俺は確信した。
なるほどなっ! 性交がその術ならば、先刻に姉上が言っていた“えすとろげん”なるホルモンも分泌され、姉上の女性的体躯を更に磨くことも可能となる。
その上、不老不死になるというのだから、まさに一挙両得の策! まさかこのような術があろうとは!
感心していれば、刀花が「はっ」として自分の両手をワナワナとして見る。
「まさか、先程の戦闘で私がほとんど傷を負わなかったのも、昨夜の兄さんとのエッチが図らずも房中術となっていたからでは……? いっぱい気持ち良かったですしっ」
「いえ、それは刀花ちゃんの素のフィジカルだと思います……」
「むしろその方が怖いんだけど?」
姉上のやんわりとした否定に、リゼットがツッコミを入れている。まぁ昨夜は初戦に加え、避妊具も装着しておったからな。不老不死を得る房中術には足らんだろう。
「まとめるぞ」
つまり、こういうことか。
「姉上を不老不死にする術、弩級の房中術。それは互いに内包する莫大な霊力を循環させることが肝要であり……昨夜のものより、更に激しく──」
「ぴっ」
「更に熱く──!」
「ぴぇっ」
「何も隔てることのない……本気の子作りを! 想定した性行為! それをするということだな!? デキるまで何度も、何度も!!」
「ぴえぇぇぇ……」
姉上が顔を覆って泣いた。そういうことだな!?
「はいっ、姉さん!」
「しくしく……なんでしょう……」
さめざめと泣く姉上に、刀花がキリッとして問う。
「──素晴らしいと思います。私もその手法で不老不死になれないでしょうか」
「あなた学生でしょうが」
リゼットの一瞥もなんのその。刀花は期待に胸を躍らせている。なんなら綾女も頬を染めつつ聞き耳を立てていた。
しかし、その意に反して姉上はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、それは無理かと……」
「わ、私が学生だからですかっ!?」
「そういうわけでは……いえ、それもあるのですが。しかし大きくは、保有する霊力量とその質でしょう」
必要なものは男の陽気と、女の陰気。
そして姉上の霊力の量と質は……この中で最も黒く、そして莫大だ。黄泉路から還ったこともあり、今の姉上ならば一歩も動かずとも、その霊力のみで世界を闇に染め上げることができるだろう。
刀花の霊力総量とて申し分ないが、そこに黒さは足りぬ。こればかりは、どうしようもない。
それを聞いた刀花は悔しそうに「くっ」と歯噛みする。しかしそれも束の間のことで、姉上にニッコリと笑いかけた。
「少々悔しいですが……でも、やっぱり嬉しいです。キチンと姉さんが不老不死になれる術があって」
「ま、まぁ、まだ分かりませんが……昨夜のことを踏まえ、思い浮かんだだけですので……」
「それでもです。是非、この手法で研究を進めてくださいね!」
「『研究』って。ねぇそれって……」
リゼットの視線が鋭くなるが、刀花は構わず「はいっ」と眩しい笑顔で頷く。
「姉さんにだけ許されたド級の房中術……そう、本気の子作りエッチを! 不老不死になれるまで、いっぱいいっぱい兄さんと試してください! 毎晩でも私は気にしませんので! 是非是非!」
「私が気にするんだけど」
「い、いいなぁ~……せ、先輩。その、霊力? の量とか質とかって鍛えられないんですか?」
「ん~、コツコツと微量なら? いうてサヤちゃんの域になりたいってなら、それこそ不老不死にならないと時間なんて足りないわなぁ」
少女達が各々言う中、いたたまれなさそうにする姉上。
そんな姉上に、俺は安心させるように微笑みかけた。
「安心しろ、姉上」
「じ、刃や……」
「──今後の性交で、避妊具はつけない。あらゆる性技を身に付け……必ず俺が姉上を、不老不死の絶頂へと導いてみせる……!!」
責任も必ず取る──!!
「この眷属メチャクチャサイテーなこと言ってるんだけど」
「そんなことないですよう。まさに愛の力が成せる技ですっ! むふー、素敵です兄さん……私も練習、いくらでもお付き合いしますからね♡」
「私の知らないところで、刃君のエッチなテクニックが磨かれていくんだね……な、なんかドキドキするカモ……」
「薄野ちゃんの脳が順調に焼かれてってるな……あ、術が完成したら教えて? 論文書いて発表すっから。プライバシーは守れん!」
「ぴえぇぇぇぇぇ……!」
わいわいする少女達を前に、俺は決意するように拳を握る。今後の方針は定まった。
これまではごり押しで事を進めてきがちだった無双の戦鬼だが……これからは、技術面も精進せねばっ!
姉上の不老不死のために。
そう、あくまで姉上の不老不死のためにな──!!
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