第491話「なんたる聖女大砲!」



「えっと…ペ、ペルフェクティオ、さん? お昼休みだけど、一緒にご飯食べる?」


 午前の授業が全て終わり、多少の解放感に包まれるこの時間。

 俺との語らいで緊張感も抜けたのか、親しげな空気を放つティアに他の女生徒達が声をかけていた。

 青空が背景の窓際に座り、その透き通る青をそのまま嵌め込んだかのような瞳の色を湛える聖女。そんな彼女の白金色ツインテールが陽光に反射しキラキラと輝く様は、その美貌も相まって見る者が見れば神の降臨を思わせることだろう。

 最初の自己紹介で大事故を起こしたティアだが、こんなでも自国では聖女として崇められ、信者の相談にもよく応えているという。その清涼な佇まいに、諸人が引き寄せられるのは時間の問題であった。声をかける側が遠慮がちなのは、初対面ということもあるだろうが……まぁ、どう足掻いても埋められぬ、そして滲み出る年輪というのがな……。

 だがそんな悲しき事実には敢えて目を瞑るティアは、豊かな胸元にそっと手を置き、申し訳なさそうに眉を八の字にしてみせた。


「ありがとうございます、気を遣っていただいて。ですが私は既にせんせ──こほん、酒上君と薄野さんに誘われていまして。それと私のことは親愛を込めて"ティアちゃん"でいいですよ。同年代ですので。同年代ですので」

「あ、そうなんだ。じゃあまた次の時にでも、ペルフェクティオさん」

「アッ、ハイ」


 ちゃん付け希望を無情に流されたティアは、死んだ目で女生徒達に手を振る。無理するな、色々な意味で。

 俺が無表情でその一連の流れを横目に見ていれば、ティアが油のさしていない鉄人形のようにギギギとぎこちなくこちらを向く。


「……実際」

「ああ」

「実際ほんのちょっと……昨夜に着てみて『アリでは?』って思ってたんですよね。エリィも『お似合いですティア!』って言ってくれてたんですよね」

「……」


 これは刀剣あるあるなのだが……我々刀剣は所有者が大大大好きなので、所有者を全肯定する機械になりがちである。

 ゆえ、あまりそういったことの判断を委ねるのはおすすめしない。大事故に繋がるからな。実際繋がった。


「そんなに……ダメ、ですかね……」

「……」


 うるうると上目遣いで、こちらを見上げるユースティア=ペルフェクティオ推定二十◼️歳。

 その待遇には同情しよう。朝の挨拶とて、上司の入れ知恵でそうなったに過ぎぬ……いやあれが素というのも考えられるが。


「……」

「せ、先生?」


 俺は無言で席を立ち、彼女の背後に回る。

 そうしてその煌めく白金の髪……それを両端で結ぶド派手なピンクのリボンをシュルリとほどいた。


「そのような出で立ちでいつまでもいるからだろう。真面目か?」

「ふぉぉ……」


 装飾品とはいえ、身に付けているものを異性に外されることに緊張するのか、ティアは妙な鳴き声を上げて身を固くする。その真白の肌は少々赤い。


「今時の女子高生で二つ結びなど、している方が少ない。周囲を見て理解できただろう」

「ふぉぉぉぉぉ……」


 常備しているブラシを胸ポケットから取り出し、乱れた髪を軽く整えてやる。か細く、艶のある髪だ。ソーメンのようだな。

 そんな腰ほどまである見事な長髪を、一旦背に流す。そこから側頭部あたりの髪を一房手のひらに乗せ、ひたすら編み編み……逆側もまた編み編み……。


「……うむ」


 そうして頭の後ろで交叉させ、再びリボンで留める。この際、子どもっぽい色は仕方がない。この白金色の髪であれば、寒色系などで揃えたかったが贅沢は言うまいよ。


「上の期待に応え続けるのも良いが、あまり四角張るな。お前は道具ではないのだからな」


 そうして左を向けさせ、窓ガラスに映る己の姿を見せた。

 長髪はやはりいじり甲斐があってよいな、様々な表現を取ることができる。

 髪型一つで、女性という生き物は万華鏡のようにその雰囲気を変えてしまう。たとえ編み込まずとも背に流すだけで、ぐっと清楚感と女性らしさが増す。

 ちなみにこれは橘の髪型を参考にしている。その背をみる機会が、位置関係上多いのでな。彼女もセミロングの後頭部で、スカイブルーの紐リボンが楽しげに揺れる髪型を取っている。

 編み込みも含めたこれは確か……"くらうんはーふあっぷ"と言ったか。二つ結びより大人しめだが華やかであり、こちらの方がティアの容姿には合致しているため仮装感は薄れている。まぁこれでも幾分かはマシといった具合ではあるが。


「……」


 窓ガラスに向かい忙しなく首を傾け、覗き込むようにしたりしてティアはその具合を確かめている。

 しばらくそうして、納得がいったのかティアはこちらを見上げ──、


「……でへ」


 また、だらしのない笑みを浮かべるのだった。修道院や教会でよくパンでも焼いているのか、その髪からほのかに焼きたてのパンのような香りが鼻を掠めていく。


「さすが、いつも頼れるお兄さんですね」

「確かに俺は誇り高き酒上家の兄であるが、俺を頼っていいのは俺が認めた少女達のみ。所詮は気まぐれよ」

「照れ隠しです? ハニー♪」

「──お前を殺す」

「アイアンクローは! 聖女にアイアンクローは神罰が!!」


 多少マシな髪型になった聖女の、その頭を破壊せんと頭頂部からガッシリと掴み締め上げる。お花畑な貴様の脳みそ、リンゴのように割ってくれるわ。パァンとな。


「ま、まぁまぁ刃君落ち着いて……」


 ティアのデカ尻が椅子から浮き始めたところで、隣の綾女から待ったがかかる。ちなみに橘は昼休みに入って早々、面倒事の気配を感じ取ったのかそそくさと去っていた。

 こちらの腕をポンポンと叩く綾女に、俺はしかし首を横に振る。


「止めてくれるな綾女。この戦鬼、只人に使われるなど我慢ならんのだ」

「ユースティアさんってただ者じゃないと思うケド……」

「い~だ~い~~~~でもこういうじゃれ合いもちょっと青春っぽい~~~~……!」


 確かにただ者ではないようだな。頭蓋を万力で締め上げられながらその思考に至るというのは。

 手を離せば、ティアのデカ尻と白ストッキングに包まれた太股が再び椅子に着陸し、ぶにゅっと横に広がる。丈の長い修道服が普段着だからか、なかなかに油断した肉付きである。鍛練はしておるはずなのにな。

 そんな乳尻太股ムチムチ聖女は、頭を押さえながら綾女へ感謝を述べている。


「おぉ薄野様……先生への戒め、ありがとうございます。それと授業中にもさりげなくノートを差し入れてくれたり教科書を見せてくれたりと、さすがは最も新しき神刀使いでいらっしゃいます」

「あはは、普通ですよ普通」

「ふふ、ご謙遜を。その普通を進んでこなせる方の、どれほど少ないことか。薄野様はご立派ですよ」

「あう……ど、どうも……」


 照れ臭そうに頭をかく綾女に、ティアは瑠璃色の瞳を輝かせる。


「まさしく聖女の器! 絶対バチカンでも楽しくやれますよ!」

「じゃあダンデライオンの三号店あたりは、バチカンに建てさせてもらおうかな?」

「最悪それでもいいです!」


 いいのか。貴様最早、勧誘より学生生活を"えんじょい"する方向へ舵を切っていないか? やはり超越者は基本的に部下に向いていない種族……いや俺に限っては向いているがな!

 そう湿っぽい目で俺が邪推していれば、ティアは綾女の手を取りつつ「はっ」と息を漏らす。

 その視線は昼休みに入って幾何もない時刻を指し示す、壁時計へと向けられていた。


「そういえばお昼! 私、購買の焼きそばパンっていうの食べてみたいです!」


 もう終わりだなバチカン及び教皇庁秘蹟編纂省は。

 透き通る青の瞳を更に輝かせ、ワクワクして言うティア。だがそれに対し綾女が、残念そうに言う。


「あー……結構な人気商品だから、もうあんまり残ってないかも……?」

「や、やはり! チャイムが鳴ると同時にスタートダッシュをきめ、教師に怒られながら廊下を走らないと手に入らない代物なのですね!」


 ティアはむしろその想像に合致した情報を知り、興奮しているらしい。いったい学園生活の情報を何から摂取したのかは知らんが。


「ちなみにユースティアさん、お昼ごはんは?」

「お金は持ってます! この地区の司教様が渡してくれました!」

「買わないと無いんですね……美味しいのまだ残ってるかなぁ……?」

「コッペパンでもいいですよ! でも焼きそばパンもやっぱり捨てがたく……ダッシュで間に合いませんかねぇ?」


 よく分からぬ拘りを見せるティアに鼻を鳴らして、俺は机横に下げていた弁当箱を取る。


「さて、行くぞ綾女。マスターや刀花と合流し──おや」


 と、下級生組と合流すべく綾女を連れていこうとしたところ……俺の携帯がポケット内で震えた。

 弁当箱を机に置き、画面を確認する。するとそこには我がご主人様からの伝言が記されていた。


『悪いけど、急に焼きそばパン食べたくなってきちゃったから、買ってからこっちに来て』


 ………………ふむ。

 こういったことは、たまにある。お昼の時間が近付くたびに、刀花が食べ物の話をよくリゼットに振るためだ。

 それに触発され、こうしてご主人様は"さいどめにゅー"を眷属にご所望することがあるのだ。

 しかし──、


「焼きそばパンか……」

「え?」


 話の流れゆえ、つい口に出た単語をティアに聞かれてしまった。


「……」

「……」


 見つめ合う、聖女と戦鬼。

 聖女は焼きそばパンという青春の味を求め、戦鬼もまた主命によりそれを求める。


「…………」


 ──ゆえに。


「「っ!!!」」

「ちょっ!? 二人ともー!?」


 獣のように姿勢を低くし、全力で駆ける──!!

 教室の扉から弾丸のように飛び出す二つの影。それらが求めるは……購買の焼きそばパンである!!


「きゃあ!?」

「なになになに!?」


 黒と白の軌跡が廊下を縦横無尽に走り、あまりの速さにその風圧によって道行く女生徒のスカートも上がる。窓ガラスが割れぬほどには速度を抑えているのでそれで勘弁してほしい。我等の姿を目視はできんだろうがな。

 我等三年の教室は三階にあり、購買部は一階にある。階段を降りてすぐ正面だ。リゼットの教室は二年ゆえ二階にあるが、構造上購買部とは正反対の位置にあるため俺に頼む方が早い。


「ちぃ……!」


 ご主人様が焼きそばパンをハムハムと食べて浮かべる笑顔のため……この競争に負けるわけにはいかない……!!

 俺は勢いを殺さぬようそのまま壁や天井を足場にジグザグと稲妻のように疾駆し、ティアは照らす光のように真っ直ぐひた走る。


「ほっ」

「むっ!」


 廊下の端に差し掛かり、階段へと続く一つ目の曲がり角。

 曲がる時には制動のため多少は止まるものだが、この聖女に至ってはそのまま直角に曲がり全く速さに衰えがない。本当に光のようだ!


「えぇい小癪な! 諦めろティア! 焼きそばパンの味は、我がマスターにこそ相応しい!」

「横で独占されちゃうくらいなら、私が手に入れて半分こします! 私も食べたい青春の味!」

「ちっ……!」


 完全に焼きそばパンの口になっているらしい、厄介な。

 走る速度は互角。校内の見取り図もティアの頭には入っているらしく、その足の動きに迷いはない。


「──っ」


 ならばこういった場合、"らいん取り"が物を言う! マスターが"れーすげーむ"をする時ドヤ顔でそう言っていた! 姉上もそう言っていた!


「はっ!」

「ちょ……!?」


 その教えに従い、俺は階段の手すりから身を踊らせ、そのまま頭を下に向けて落下する。これが俺の最短経路だ!!

 ズドン、と……些末な曲線や階段を経ることなく一階の床へ着地。廊下の奥まった場のため、見咎められる心配もない。

 そうしてこの一瞬に過ぎないが大きな優位性を保ったまま、正面にある購買へ……なにっ。


「ぬぅっ、人が……!」

「うっ、これは……」


 購買に群がる生徒達の多さに足を止めてしまえば、貴重な一歩が失われる。だが追い付いてきたティアもまた、目の前の蠢く人塊に足を止め呻く。

 我等超越者は、強いて弱点を上げるならば"加減が下手"という点が上げられる。

 先程の速度で飛び込めば、さぞボウリングのピンが如く人が宙を舞うだろうよ。各所の骨を複雑に折りながらな。


「あっ、先生! あの棚に!」

「ぬっ!?」


 隣のティアが指差す先。

 その棚に、燦然と煌めく(ように見える)焼きそばパンの袋が! 他のパンの袋で隠れるようにひっそりといるため、まだ手付かずである!

 だが……それも残り一つ! 猶予は無い!


「だがこの人混み……蹴散らすわけにも……!」

「うぅ……火力技ばかりじゃなく、受け流しの技にも時間を取っていればスルスル行けたのに……! 先生っ、先生はそういうのどうなんですかっ! ジュードーとか日本にはありますよね!?」

「そのような小細工、俺ができるものかっ」


 俺はまさしく剛の者。

 柔の技など、これまで圧倒的な力で押し潰してきた側である!

 そして受け流しに関して言うならば、柔道ではなく合気道だ。合気道など特に習熟が困難とされている武術の類い。心得のある者でも十年単位の修行がいる手前、我等超越者とてこの土壇場で使えるべくもない。

 ならば自然と、早急な状況における解決法も似通ってくる。


「──先生、私を撃ち出してください。掠め取ります」

「いいだろう。成果無しよりかは余程いい」


 右腕を真横に伸ばせば、脚を畳んだティアがピョンとそこへ飛び乗る。


「タイミングは任せます」

「しくじるなよ」


 鋭い視線で見つめる先は棚とレジ、そして人混みが途切れた瞬間に現れる直線……まさしく、黄金の経路!!


「まだだ……まだ……」

「……!」


 好機は一瞬。失敗は許されぬ。

 そう思うと……互いの相貌に、不敵な笑みが浮かび上がる。

 機会は一度きり? 失敗は許されぬ? 一瞬のみの好機?


「……クク」

「ふふ♪」


 超越者にとって、

 一瞬のみの好機など、十二分に過ぎるのよ──!!


 張りつめた弦が如く腕を引き絞り、不安定な足場に対し僅かにも揺るがぬティアを乗せ──、


「──今だ」

「っ」


 一息に、振り抜く──!!

 これぞ我流・酒上流……なんたる聖女大砲!!

 白の閃光と化したティアの向かう先は棚、そしてレジだ!


「ふ──」


 完璧な仕事だった。

 この一瞬の間隙において、最早待つのは成功のみ。射出したティアはそのまま人混みを突っ切り、棚からパンを掠め取り、その勢いのままレジへと辿り着くだろう。姿勢の関係上、スカートの奥がこちらから見えてしまうのは許せ。


「……」


 それにしても白ストッキングに覆われた奥にある、あの黒い布地のなんたる小さいことか。あれで何を守っているのだ? その形は"あるふぁべっと"のTに似て──、


「こほん」


 思考が逸れたが、いよいよティアの伸ばす手が棚に届きそうだ。

 ご主人様には悪いが、ティアの恩情に寄り添い半分こで手を打ってもらうしかない。なに、これも一つの異種族間交流と思えば──、


「とーう!」

「!?」


 しかし。

 しかしここで、その光差す道を塞ぐように……黒く可憐な稲妻が舞い降りてきた!

 一階廊下奥から走ってきた様子のそれは、そのままダンッと床を踏みしめたかと思えば……見事な月面宙返りをしながら人垣を飛び越し、焼きそばパンのある棚の前へと軽く着地してみせたのだ。

 この俺ですら機会をジッと窺い続けたというのに、たった一目で幾重にも塞がる壁よりも、上から点を穿った方が効率が良いと看破する瞳。好機を逃さぬその嗅覚。驚異的な身のこなし。そしてしっかりとミニプリーツスカートを片手で押さえて下着を隠す貞淑さ!

 その者は、まさしく──!!


「むふー、いただき──」

「刀花! 避けろ!」

「あ、兄さん♡」


 こちらの声に気付き、幸せそうな笑顔で手を振る我が妹……酒上刀花である! いけない!

 咄嗟に名を呼んで危険を知らせるが、しかしこのままではティアとぶつか──、


「おっとと?」

「ふぉぉぉぉぉ!!??」

「な──」


 ……る、ことはなかった。

 なぜならば。妹がにこやかに振るその右手、その甲で……とんでもない速度で向かい来るティアを、ぺしりと別方向へと受け流したからだ。


「……」


 ──合気道。

 それは合理的な体捌きを用い、相手の攻撃線に臆さず踏み込むことを代償に、まるで円を描くようにして相手を捌ききる守りの武術。

 それを会得するには、特に永い年月を必要とする。

 独自の呼吸。向かい来る攻撃に対し飛び込む勇気。相手の重心や姿勢を瞬時に看破する目。武術にありながら勝負を否定し、宇宙との和合すら図るその精神性。

 それらいくつもの天賦の才を更に磨き続けることにより、たとえ一瞬の交錯であろうと己と相手をしっかりと結び、導き……そのまま崩すことができるようになる。合気道の秘奥とは、無意識の内にそれらを繰り出すことと定められているのだ。


「むふー、焼きそばパンゲットですぅ~♪」


 そんなあらゆる者が夢見る武の極地を、まるで散歩にでも行くかのような気軽さでやってのけるのが……我が妹、酒上刀花なのであった。ちなみに我が妹は当然、これまでで合気道など一度も囓ったことは無い。

 無意識下のことゆえ、捌いたティアより焼きそばパンに夢中な様子である。……おかげで、受け流されたティアは人混みを抜け、その勢いのまま一階廊下の奥へと消えていった。"かーりんぐ"で見た光景だな……。

 俺が目の前で起きた惨劇に瞠目していれば、会計を終えた刀花がスキップで近付いてくる。蕩けるような微笑みを浮かべて。


「に~い~さ~ん♡ リゼットさんが兄さんに頼んだって聞いて、私も食べたくなっちゃいました! 移動教室で近かったのでそのまま私も来て……あれ、兄さんまだ買えてませんでしたか? むふー、なら仲良くわけわけしましょう!」

「……」

「? どうしました~?」


 短いスカートをフワッと舞わせ絶対領域を晒しつつ、刀花は無邪気に首をこてりと傾げる。楽しげに尾を引くポニーテールと胸が追従して大きく揺れた。

 そんな幼気いたいけで可愛い妹に、俺は──、


「いや、なんでもない。さすがは俺の妹だと、幸せと誇らしさを噛み締めていた」

「むふー、よく分かりませんが褒められちゃいました!」


 モフモフと頭を撫でれば、ポニーテールが大型犬の尻尾のようにブンブンと振られる。

 ──最強種とは。天衣無縫な笑顔のままに、欲するもの全てを手中に収める者のことを言う。


「まったく。勝てんなどうにも」

「なんですなんです? 楽しいことですか? 兄さんが楽しいなら、私も楽しいです!」

「ああ、とても楽しい」

「むふー、やったぁ!♡」


 そんな最強な妹の柔らかな手を引いて。

 とりあえず、廊下の端にまで"すらいでぃんぐ"する羽目になって、しくしくと泣く聖女を迎えに行くのだった。

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