終話 サウォルのため息
────後から考えて見ると、あの日のカナンは確かに様子がおかしかった。
無理に明るく笑って、キースと長いこと話をしていた。
トゥラン皇子と別れた後だったし、キースも間もなく船に戻るという時だったから、別れを惜しんでいるのだろうと、その時は気にも留めなかった。
夕食の時間になっても戻って来ないカナンとトールを探してサウォルが港まで行くと、翌朝出航だと言っていたキースの船は港から消えていた。
どうやら、出航を早めたらしい。
まさか、という思いを胸に押し込めて、サウォルは彼らが行きそうな場所をいくつか探し回ったが、そのどこにも二人はいなかった。
不安な気持ちのまま家へ戻ると、カナンの部屋から置手紙が見つかったと母から手紙を渡された。
手紙を一番初めに見つけるだろうと思われていたのか、手紙はサウォル宛だった。
『サウォル兄さまへ
しばらく旅行してきます。
出来ればナガル兄さまには知らせないで。心配させたくないの(もちろんシオン様にもね)
それから、くれぐれも、トゥラン皇子には知らせないでね(彼の配下に知られるような騒ぎにしないでねってことよ!)
用心のために、旅の間は男装して名前も変える予定です。危ない事はしないし、ものすごく用心するし、必ず無事に帰って来ると約束するから、父さまと母さまのこと、よろしくね。
我がまま娘の最後の我がままを、どうか許してね────カナンより』
『カナン一人じゃ心配だから俺もついていく。一番いい剣と短剣も借りたから。トール』
トールの手紙は走り書きのようで、明らかに、後からカナンの手紙の封筒の中にねじ込んだようだった。
「父上……」
サウォルは、答えを求めるように父を見つめた。
カナンの手紙はサウォル宛になっていたけれど、どう対処すれば良いのか、まだ若輩のサウォルにはとても判断がつかなかった。
「しばらくは……様子を見るとしよう。ただ友人を訪ねるのに、黙って家を出て行くカナンではない。あの子がそうしなくてはならない、何か理由があるのだろう。トールもついて行ったのだし、大丈夫だろう。あいつはあれで、この家の誰よりも腕が立つ。命がけでカナンを守ってくれるだろう。それに、キースは心根のまっすぐな青年だ。彼のことは信用してもいいだろう」
冷静な父の言葉に、サウォルはただ小さくうなずくだけだった。
その日から、サウォルは日々平静を装った。
誰が訪ねて来ても、カナンとトールは東にいる親戚の家に遊びに行ったと笑って答え、冬中滞在する予定だと付け加えた。
カナンたちが出奔して、そろそろ十日が経つ。
近頃では自分でも、嘘が上手くなったような気がしている。
「我がまま娘の、最後の我がままか……。兄ちゃんは何だか寂しいよ」
シン家の執務室で、父の代わりに書類の整理をしながら、サウォルはひとりため息をつくのだった。
おわり
(
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※ここまで読んで下さった皆さま、どうもありがとうございました(≧▽≦)
南部編はここで終わりとなりますが、話はこのまま次の
完結編となる予定ですので、引き続き読んで頂けたら嬉しいですm(__)m
(少しだけお休みをいただいた後、連載を開始する予定です。宜しくお願い致します!)
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