一緒にゲームしてみる
「ごちそうさま」
無事……と言って良いのか分からないけど、その後は何事も起きずにカラオケ合コンは終わった。何も起きなかったのは俺と一織を基準にした話で、萩井達はそうでもない。
まぁ、いつも通りのドタバタだ。コチラに被害がなければ構わない。俺の精神へのダメージはともかく。
それで、解散した後は一織と一緒にまっすぐ家に帰ったのだが、その間の記憶が曖昧になっている。理由は分かる。恥ずかしさのせいだ。
それもそのはずで、俺と一織は、カラオケルームにいる間、ほとんどずっと手を繋いでいたのである。
それを思い返す度に恥ずかしさで悶え、気がつけば家にたどり着いていた。
そこからは元々予定していた通り、母さんと一織が夕飯を作り、そのまま一緒に食べた。ちなみに、親父は帰りが遅いらしい。
「それで、一織は帰るの? 送ってくけど」
すぐ近くとはいえ、女子を一人家から放り出しては男が廃る。廃るほどの男気なんて持ち合わせちゃいないんだけどな。
「んー、まだ時間あるし、千利君の部屋に行こっかな」
ちょっとコンビニでも寄ろうかみたいな感覚で俺の部屋に入ろうとするなよ。
あと、母さんがキッチンからニヤニヤしながら見てるのが絶妙にうざい。
「俺の部屋なんか来てもゲームくらいで、一織が楽しめる物なんて何もないけど」
それともまた俺がゲームするのを横で見ているんだろうか。一織がそれで楽しいなら別にいいんだけど。
「へへーん、それは大丈夫」
「何が大丈夫?」
「いいから」
一織に背中を押されて階段を上る。やけに楽しそうというか、怪しいというか……。
そういや、似たようなことが昔あった気がする。あれはいつのことだったっけ。
朧気な記憶を思い出そうとするが、部屋に入るのと同時にやめた。
「千利君は最近、ゲーム買った?」
「いや、最後に買ったのは先々月くらいかな。でも一人用だよ。やってみる?」
「ううん、そーれーよーりーもー」
持っていた鞄をゴソゴソとまさぐる。
あぁ、思い出した。
さっき思い出そうとしたのは小学校の頃で、俺の誕生日にサプライズプレゼントをくれた日だった。あの時もプレゼントを鞄の中に入れていたのだが、箱が少し潰れて泣きそうになっていたのを覚えている。
「じゃじゃん」
効果音を口で言って取り出したのはゲームのディスクパッケージだった。
「今日ね、電気屋さんに行って買ってきたのです」
「一織が?」
「うん。どのゲームがいいか分からなかったから店員さんに超聞きまくったんだよ。そしたら、このゲームが二人で出来て人気だって。それに、最近出たから持ってない確率大!」
「ま、まぁ、持ってないけど……」
「ストーリーが面白いらしいから千利君好みかもって思ったんだけど……どう?」
少し不安げに聞いてくる。
今日の予定ってもしかしなくてもコレを買いに行っていたのか。
言ってくれればアイツらとカラオケなんて行かずに済んだのだけど……って、アレは自業自得だな。
「実はそれ気になってた」
「本当!?」
「最近じゃ発売前に体験プレイの動画配信とか多いからさ、見かけて面白そうだなって」
「じゃあ一緒にやろ!」
「うん、まぁ、いいけど……」
「ん?」
「や、なんでもない」
このゲーム、確かに世界観が変わっているし、ストーリーも謎解きみたいな感じになっていて面白そうではある。
だけど、買ってきた当の本人は……まぁ、いいか。
「いやあぁぁぁぁ!助けて!助けて千利君!」
ゲーム開始数分間は楽しそうに話ながらプレイしていたのだが、化け物に襲われ、追い回され、一織は叫んでいた。
「落ち着け一織!こっちに走るんだよ」
「やだやだ無理無理殺されるぅ!」
「あ、危ないって」
「あれ包丁だよ!でっかいって!真っ二つにされるって!」
「真っ直ぐ走れば間に合うから」
「絶対!?」
「た、たぶん……」
「じゃあ行かないもん!」
「行かなきゃ進まないだろ!?」
実はこのゲーム、ホラー要素があるのだ。
そして、一織はホラーが苦手。
ただし、夏の心霊番組とか怖がるくせに観てしまうタイプの面倒な怖がり方をする。
しかも、一織の母親もまったく同じタイプの人間で、心霊番組を見た夜は一緒に寝ているとか。最後に聞いたのは中学三年の頃だったが、今もまだ一緒に寝ているのだろうか。
「ゆ、ゆっくりバレないように」
「いや、だから……」
「あ、死んだ」
画面にゲームオーバーの文字。めちゃくちゃビビり散らかしていたくせに最後だけ冷静になるのなんなんだろうな。
「ちゃんとパッケージにアクションホラーって書いてあったろうが」
「見てなかった」
「それくらい見とけ……」
「今度からそうする」
ちょっとだけ涙目になっている一織。初めて買ったであろうゲームが苦手なホラーって正気の沙汰ではないな。
「別のゲームやるか?」
「ううん、これやる」
ふるふると小さく首を横に振る一織。もう既にグロッキーだろうに。
「でも、まともに進まない気がするんだけど……」
「大丈夫」
何をもって大丈夫と言えるんだろう……と思っていたらモソモソと動き出した一織が俺の胡座の中に入って来て、すっぽりと収まる。
「あの、何してんの?」
「後ろが怖いので千利君ガード」
「なるほど」
まったく分からん。ってか、この体勢はヤバすぎでしょ。
「げ、ゲームしよ」
「この、まま?」
「ダメ……?」
「じゃないけど……」
けどけどとけどが多いぞ俺。
これ、ドキドキしてんの一織に伝わってるよなぁ。
「一織、ちょっと画面見えない」
「あ、ごめん。これで見える?肩に頭乗せていいよ?」
「見えたからいい」
目の前でふわっと髪が揺れる。
これだけ近いと髪の艶とか、匂いとか、嫌でも意識してしまう。
……何してんだろうな俺。
ラブコメに負けた君には私がいる 米俵 好 @ti-suri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラブコメに負けた君には私がいるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます