匿名性を覆した匿名コン作品についての一考察

KEN

匿名性を覆した匿名コン作品についての一考察

*スマートフォン等の小さめの画面、及び横組みで読んで頂く事を推奨する形式の作品です。ご了承ください。


 私は頭を抱えた。板野さんがグループ

のメッセージにこんな内容を書いたのだ。

「名前を隠す条件の匿名コンで、匿名性の

前提を覆す物が出てきたら、少なくとも私

は面白いと思います」

 板野さんは頭の良い方だ。自分のように

のらりくらりと駄文を書き殴っている人間

からすれば超すごい存在。そんな存在から

もたらされた課題。これは受けねばならぬ。


   ◇◇◇


 と言うわけで書き始めてみたは良いが、

ここで一つの問題が生じる。即ちそれは、

ロマン溢れるこの試みに立ちはだかる障壁

であり、最大の課題。「過去」「未来」を

この作品でどう絡めるのか、だ。

 レモンティーを飲みながらゆっくり考え

を纏めよう。そうすればきっと苦しくても

千手観音のように慈悲深い心を持った方に

文学作品として認められるコメントを残……

字数稼ぐのが辛くなってきました板野さん、

書くの止めても良いですかね? ダメです?

くそっ、どうしたら良いんだ。後退出来ず

のこる道は前進のみ。そう言えばまだそこ

はかとなくテーマ入れてないや……。字数

かせぎが露骨だなぁ。

 なんとか五百字程度は進んだか? それよ

り早くテーマを入れろ! なに、無理!?

大馬鹿野郎、だったら最初からこんな企てを

変に練り込むんじゃねぇ! 板野さんをう

ならせる作品を作れる人間がいたかもしれ

んのだぞ! そのネタを潰しかねないこの

ダメ作品をせめて形にするんだよ!

 がんばってみます、板野さん。バッテリー

残量が僅かになっても、スマホを手離した

りしません。あっ、いい事思いついた。

 何故こんな事に気づかなかった! これ

を書いてるのは投稿より前、つまり過去!

 書く事に悩まずとも、既に「過去」を

クリアする作品として成立している!

 かった! かった! 夕飯はドン勝だ!

と思っていた時期が私にもありました。

 考えてみたらさ、こんなに苦心してても

「えー何この駄文、何故こんなの出したの」

て言われるのが目に見えてる。絶望した。

 いや、まだだ、まだ諦めない! 絶望す

る暇があったら残り字数で何とかするんだ!

 間を持たせようとするんじゃない! 既

に八百文字を超えているんだ、何とか書き

終わる前に中身のある作品を……! そうか

わかった! 一旦区切って、詩的な作品を作

るのだ! そうすれば形になるかも!

 ――やってみよう!


   ◇◇◇


 あぁ、そこは天国のようだった。

 りんごの花が芳しく咲き誇っている。

 が、どう言うわけか人がいない。

 とうに過ぎた記憶の光景だからだろうか。

 うしろに気配を感じて振り返る。

 ござが敷かれている芝生。

 ざっと風が吹き抜けて。

 いちどの過ちを思い出す。

 また、あの人に会えないだろうか。

 しあわせなどいらないから。

 ただ、あの人と、この景色を。


   ◇◇◇


 ここまで書いてから漸く気づいた。板野さんが匿名性の話をしていたの、未来のグループじゃないか……。

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