500円玉の生き方

【銀行】

全ての価値は電子化され、近頃は財布を持たない人々もいるだろう。

この世の中が私を嫌いにされそうな時、私が生まれた。

東京生まれ、竹を背負う兵士の胸に令和2年の勲章を添えられた。

それからというものの、私は常に眠ったままだった。

同期はとうに出兵したよ、私を置いて。

ここ最近の大きなイベントとしては私が福島の銀行に飛ばされたということだけだった。

それからも私は眠ったままだった。


【デビュー】

私を最初に受け取った人は凛とした女性だった。

身なりからするに会社員だろう会計か総務に違いない。

私を受け取った後、彼女はプラスチックの小袋に入れられた。

数日後、小袋は少し若い男に渡された。

彼は受け取ると、デスクの引き出しにしまった。

翌日、彼は何人かのチームと一緒に出張に行った。

夕方に彼らが帰る際私はコインパーキングの自販機に私は入れられた。

自販機の中はたくさんの兵士たちでいっぱいだった。

そんな中で彼らと談笑したのだった。

100円玉のある兵士は4ヵ月間貯金箱で飼われていたと言う。

500円玉の同志はずっと100円玉と交換されていくのをみたと言う。

しかし、私たちの中で10円玉や1円玉は見当たらなかった。

彼らの話をしようとしたが、あまり話は進まなかった。

数日後、私たちは一人の男にまとめて詰め込まれて配送された。


【野宿】

ある日のことであった。私を身に着けていた者が咄嗟に自販機の前に立ち止まった。

そして、私と丁度同じ型に私が放り込まれたのだった。

すると、100円玉や10円玉が喜びの声を上げ、私は落下した

落下して、落下して、辿り着いたゴミ箱は何世紀後繰り上げた未来のごみ処理場みたいだった。

穢れた100円玉達は悲しみ、息を切らした10円玉は希望が消えていた。

話しかけようが白羽の矢が立つので明日を祈るばかりだった。

翌朝、幸運にもその日は回収日だったようだ。

回収業者が私を拾い上げた、その時だった。

私は落下した。

落下して、落下して、転がった先は自販機の下

私は独りぼっちになってしまった。


【意味】

私を拾う者は誰だろう、私はいつ拾われるのだろう、そんなことを考えていた時間は生まれた意味を考えされられた。

私は500円玉であり、この国では500という価値がある。

しかし、私を拾った者は皆1万という価値を14も18も1ヵ月で得ているのだ。

その人々が皆3万や5万の家を借り、3000の水道代、4000の電気、5000のガスを支払っている。

そう考えると私の価値は一日一善の食を補うだけの力しかないことに失望する。

でも、私は凄い価値があるというが、私だけでは世界は変えられない。

生まれる価値なんてあったのだろうか。

そもそも、私たちが電子になる世の中で紙幣や硬貨の価値はあるのだろうか。

自販機の下はそんな気持ちにさせてくれるものだった。

朝は暗い影から隙間の光が出て、私を照らし見つけてくれないだろうか。

夜は何も待ち望んでなく、蛍光灯の光が不気味にこちらを覗こうとしている。

このまま、永遠と見つからないまま錆びてしまうのだろうか。

その答えは私が野宿をしてから5日後のことだった。


【私を救ったみすぼらしい者】

朝日が昇る中、私をずっと諦めていた。

自販機の隙間からコンクリートが太陽に照らされているのを見るばかり、

何も思わないままただ彼らを羨ましいと思っていた。

そんな時だった。私の前を影が照らし、光の隙間から随分汚れた汚い手がぶつかった。

拾われたのだった。拾った男は随分とみすぼらしい男であった。

男は喜んでいた。彼はすぐさまコンビニに行くと私と等価交換でパンとジュースを買っていったのだった。

鳥にさらわれるように私の孤独が終わってしまった。

なんだろう、あっけなかったな。でも、あの時の男の顔は服に似合わず喜んでいた。

コンビニのレジの一室で価値について答えがでたような気がする。

私は幸運を運ぶことができる。

私は不幸を運ぶことができる。

空腹で死にそうな人間を生き返らせるのは私だけである。




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区切り詩(Breaked poem) 奏熊ととと @kanadekumattt

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