第2話終わりから始まりへ

気づいたら僕は真っ白な空間にいた。

『ここどこだろう……僕って死んだはずじゃ…

 体は、動かないや…』


本当にここはどこなんだろうか、死んだはずだし一度は意識もなくなったはず

そんなこと考えていたら、音は聞こえないはずなのに誰かが僕を呼んでいる気がする。

わけがわからないけど、行かなくちゃ、僕はそんな気がした。


いつもどおり動かそうとしても動かなかった体は頭で念じるだけで簡単に動いた。


『不思議な感覚だなぁ。』


謎の感覚の導くまま体を動かすと真っ白の世界にポツンとひとつだけ扉が立っている。見た感じ某アニメの「どこでも扉」みたいだけど、それよりも豪華で厳かな雰囲気だ。


何の躊躇もなく僕はその扉を開き中へ入る。生きていた頃の僕ならこんな躊躇もなく行動できなかっただろうと笑ってしまう。扉の中に入るとそこは「僕の部屋」だった。一歩ずつ確かめるように僕は部屋の中に入っていく。何一つ変わっているものはなかった。ただ一つあるとしたら僕の机の上に僕の写真と花が飾ってあることだけ。


『そうか、やっぱり僕は死んだんだ。』

こんな奇妙な体験をしてるんだから、もしかしたらって気持ちが少しあったがそれも打ち砕かれた。何でこんなところに僕は来たんだろうそんなこと考えながらベットの上に座った。


すると、ガチャっという音が聞こえ、急に扉が開いた。

入ってきたのは、母さんだ。


『母さん!!!』

反射的にそう叫んだけど僕の声や姿が母さんには気づけないみたいだった。


「柚木……」

母さんはそれだけ言って泣いた。

しゃべることも触ることもできない僕は何もできないまま、母さんを見つめることしかできなかった。


少ししてまた扉の開く音がした。

誰が入ってきたのだろうっと扉を見るとそこには妹の「祭」がいた。

そういえば祭とは喧嘩ばっかだったな、俺って嫌われてたのかな。


「……ばか、本当にばか。下校中に地割れに巻き込まれて死ぬなんて本当に情けない。」


『返す言葉もないよ』

会話はできないけど笑いながら僕は妹に返事をした。

それにしても死んでるってのに小言ばっかだなぁ。そんなに僕のこと嫌いなのかな。昔は仲よかったのになぁ。


「いつもあんたはそうなのよ。鈍臭くて、とろくて、だからいつも怪我するのはあんたなんだから。あの時だって……このばか!!!」


何か言ってやりたいけど何もいえない僕は黙って聞いていた。


「………なんで、なんで、……なんで、おにぃが死ななくちゃいけないのぉ……!

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!」


目を見張った。まさか祭がこんなに泣いてくれるなんて思いもしなかった。それに昔、小さい頃しか呼んでくれなかった呼び方を、僕のことを「おにぃ」といってくれた。


『ごめんな。祭……』

触れることはできないけど、祭の頭を撫でながら僕はかあさんと祭の側に立ち続けた。


それからどのくらい二人は泣いてくれていたのだろう。気づけば窓から見た空は暗がりを見せ、心配した父さんが母さんと祭を連れて夕食を食べに僕の部屋を出て行った。そのとき見た父さんもかなりやつれていた。ついて行きたかったけど、どうやら僕はこの部屋から出られないみたいだ。僕は扉の前でただ呆然と立ち尽くした。


『みんなにかなり悲しい思いさせてたんだ。そりゃそうだよな。いきなり息子と兄が死んだって伝えられるもんな…』


死を覚悟した僕だったけど、この時ばかりは後悔の気持ちが僕を包んで離さなかった。


『どうじゃ、お前が死んだ後の家族を見てどう思う?』


この部屋にはもう僕しかいないはずなのに、急に後ろから誰かに話しかけられて驚きのまま振り向いた。見ると、机の前にあった椅子に座った老人と、ベットに腰掛けている男性がこちらを向いていた。


『…あなたたちは誰なんですか?』


『我らは、まぁお前さんたちの中でいう神と呼ばれているもんじゃな。』


『…はぁ?神様?…えっどうゆうことですか?わけわからなんだけど…』


『まぁそうじゃろうなぁ、でもその前にお主に言わねばならぬことがあるのじゃ。のぅ、ベアテルよ。』


神様?たちが僕に言わなければならないことがあると言ってようやく若い男性の神様が口を開いた。


『お前が死んだ原因となったのはわたしのせいだ。地球の人間よ、すまなかった』


どういうことだ、僕が死んだのはこの神のせい?どうして僕が死ななくちゃいけなかったんだ。わけがわからない。そんな黒い感情がどんどん芽生えてくる。


『しかし理由が…『ふざけるなぁぁ!!!何が理由があるだ!理由があれば神なら人間を殺していいのか!ふざけるなこのクソ野郎!お前が僕を殺したんなら…お前のせいで…どんだけ僕の大事な人たちが傷ついたと思っている……!!!』


気づけば僕は泣きながら叫んでいた。神にこんな口を聞いてこの後どうなるかわからないけど、この時の僕はこいつに言ってやらないと気が済まない気持ちでいっぱいだった。


『すまなかった……』


『何がすまなかっただよ……!もう、もう元に戻れないんだよ。取り返しがつかないんだよ。』


『そんなことはないぞぉ、そのために我らがこうしてお前さんの所に来たんだからな。』


『えっ…?』


『とりあえず、我らの話を聞いてみんか?そうじゃまだ名乗ってなかったな、わしは地球の神、「ゼウス」じゃよ。流石に聞いたことあるじゃろ?』


『わたしの名前は、さっきも聞いた通り「ベアテル」という。君たちの世界の外側の世界「ニーベルンゲン」の神をしているものだ。』


『ちょっ、ちょっと待ってください。地球の神ゼウス?異世界の神ベアテル?ニーベルンゲン?話について行けませんよ。』


『まぁまぁ、とりあえず聞くのじゃ、ベアテルよろしくのぅ』


『わかりました、ではまずこのような原因となったところから始めましょう…………』



たくさんのことを説明された。説明の内容を要約してみると、

まずこの地球の外側にあるニーベルンゲンと呼ばれる世界は科学が全くなく魔法があり、魔物がいる所謂ファンタジーの世界らしい。その世界には魔法やスキル、レベルを駆使して魔物を倒して、魔物が落とす道具や武器、魔石と言ったものを活用して生きているらしい。その世界では数千年に一度の周期で発生する魔王と呼ばれるものが出現するということなのだが。今までならこのベアテルという神がその世界でたった一人に「勇者」という称号を与えて、その魔王を退治していたらしいけど、今回の魔王は今までの魔王の中で最強最悪らしく、その勇者が戦いに挑んだが負けて殺されてしまったみたいだ。そのため、その世界は今、魔物が支配しているらしく、人間たちは蹂躙されている真っ只中ということらしい。それに困ったベアテルが神同士の交流で仲が良かった地球の神に相談したところ、地球にダンジョンを作って、ダンジョン間で世界を繋げて地球のダンジョンに魔物を追いやって地球の人間に倒してもらおうとしたらしい。本当は人のいないところでダンジョンを作ろうとしたが地球に魔力が全くないことから失敗して、その第一発目のダンジョンの制作中に僕が巻き込まれてしまったということが今までの経緯らしい。


『なんて傍迷惑な話なんだ。確かにその世界の人たちはかわいそうだとは思うけど、そんなことのために僕の家族がどれだけ苦しい思いしたのかわかりますか?』


『本当にすまないことをしたのぅ、わしからも謝罪する。』

『すまなかった』


『……もういいです。っでこの後僕はどうなるんですか?迷惑かけたってことで最後に家族の姿を見せてくれたんだと思いますけど、死んで天国か地獄に行くんですか?』


『……いや、それなんじゃが、我らから一つ君に相談があってこの場を設けたんじゃ。そなた…生き返ってみたいと思わないか?』


『……!? 僕生き返れるんですか!?』


『こちらの不手際だからのぅ、本当は今すぐにでも生き返って欲しいんじゃが、今そなたに命を吹き込むことはできないんじゃ。魂にも器というものがありの、普通はもっと下級の神が命を吹き込むんじゃが、あいにく生き返らすにはわし自らやらねばならんのじゃ。しかし、わし自身がやるとしたらお主の器では耐えられぬ。力ずくでやるならば、それこそ魂の器が爆発してお主という存在が消えてしまうんじゃ。だから主にこのダンジョンの攻略をしてもらいたい。ダンジョンの攻略を行い、レベルをあげてお主の器を大きくすれば生き返らせれるはずじゃ。そのついでといえばなんじゃが、ダンジョンでたくさんの魔物を倒して欲しいのじゃ。どうじゃ、やるか?』


『当たり前です!絶対やります!』


『おぉそうか、そうか。じゃあよろしく頼むぞ。あとはベアテルが説明してくれるからちゃんと聞くんじゃぞ、わしは少し神界に戻らなくてはならなくなったからのぅ。…そうじゃ、「主の旅に幸多からんことを」我からの少しした贈り物じゃ。……死ぬんじゃないぞ。」


地球の神、ゼウスはそう言って僕に金色の光の粉をかけて消えてしまった。金色の光は僕に吸収されていく。


『では、君にダンジョンについて説明する。ダンジョンは全階層で300階層に別れている。10階層ごとにボスがいる階層があるから気をつけて欲しい。』


『300!?…流石に多くないですか?』


『それはすまない、一番最初のダンジョンということで難しくし過ぎてしまった。それにあの人の魂を吹き込むにはそれぐらいないといけないというのも事実なのだ。』


『まぁそれじゃ仕方ないですね。逆にそれだけなかったら僕は生き返れなかったってことは不幸中の幸いですね。』


『そう言ってもらえるとこちらも助かる。そしてだ、このままではなんの力もない人間があのダンジョンに入れば、確実に無駄死にする。だから君だけ特別に我から三つだけ魔法とスキルを送らせてもらう。』


『それはどうやって確認できますか?』


『これはお主の心のタイプによって自ずと決まるから、ダンジョンに入ったらステータスオープンと念じてくれたらわかるはずだ』


『わかりました。他に何かありますか』


『いやあとはもうない、この扉をくぐってくれればダンジョンに出るはずだ。』


そう言ってベアテルさんは、僕の目の前にいつかに見たあの扉を出した。


『よし、じゃあ言ってきますね。』

僕が扉に手をかけた時ベアテルさんに呼び止められた。


『何故君はそんなに迷いのなくダンジョンに入ろうとできる?私たちは君を不注意に殺してしまったんだぞ。どうしてそんなやつのいうことを真面目に聞くことができるのだ?』


ベアテルさんはとても悲しそうに僕の目を見てそう言った。


『そうですね、……僕にはもう一度合わなくちゃいけない人がいるんです。家族も勿論そうなんですけど、その人は僕の大事な人で最愛の人です。多分一番、彼女が辛い思いをしてるはずです。なんたって目の前で僕が死んじゃったんだから。だから絶対に僕は生き返ります。もう一度彼女に好きって伝えるために。

…それにそんな悲しい顔してるベアテルさんが僕のこと騙してるなんて僕には考えられない。違う世界の人たちも困ってるんだ。だから僕は頑張りますよ。どんだけしんどいダンジョンでも絶対乗り越えて見せますね。』


『…君は本当に強い子だね。…本当にありがとう。

 …そうだ、君にこれを渡しておこう。

 私ベアテルの名において、勇敢なる少年「柚木」に大いなる加護があらんことを。』


ベアテルさんの言葉とともに銀色に光る粉が僕にまとわりついて吸収される。


『それじゃあ…行ってきます!』


『あぁ、また君に会えることを楽しみにしてるよ。きをつけて。』


僕は扉に向かい、ドアノブをひねって一歩踏み出した。絶対に生きてあの子に会うんだともう一度心に込めて。

そしてここから僕の日常は終わり、英雄への一歩が始まった。




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ダンジョンを越えてもう一度君に好きだと伝えたい @habanero0213

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