ダンジョンを越えてもう一度君に好きだと伝えたい
@habanero0213
第1話 あの子との記憶
なんでこんなことになってんだろう、仰向けのまま浮遊間に身を包まれながら、
視界に映る光が小さくなっていくのを力なく見続けるしかなかった。
いつも通りの毎日なはずだったのに。
大好きな人との変わらない通学路が急に姿を変えたんだ。
「さゆみ! さゆみぃぃぃぃぃ!」
僕はその名を呼ぶことしかできなかった。
「いやぁぁ、ゆずき!ゆずきーーーーーー!!」
あぁ、あの子の声が聞こえる。やっと君にこの思いを伝えることができたのになぁ。
君とデートしたかったな、他愛のない会話に一喜一憂して、喧嘩して仲直りして、
たったそれだけのことがこんな簡単に失われるなんて
ぐちゃっと鈍い音が聞こえた。僕が地面に衝突した音だとすぐにわかった。
何も感じないことから、もうダメなんだということだけはわかる。
ふっと体が軽くなる感覚に包まれ、気づいたら自分で自分の体を眺めていた。
僕の体は片腕と片足がちぎれており、頭は半分潰れていた。
即死のおかげで痛みを感じなかったことだけが救いだったように感じる。
僕はこういうグロいことは苦手だったはずなのにと思ったが、何も感じなかった。
『そうか、死の直前だから、感覚が薄れてるのか、』
そんな自己完結をしていると、今までの生きてきた僕の記憶が映画のフィルムのように流れてきた。
これが走馬灯なんだろう。感情もどんどん薄れていく中、僕は走馬灯を眺めていた。
赤ん坊だった頃の僕ですら忘れていた記憶が流れる。
家族や友人、学校での思い出が次々と流れていくけど何も感じないし、少しずつ誰か分からなくなっていく。
『僕の人生こんなにつまらない人生だったんだろうか』
そんなことを思いながら見ていると、もうすぐ終わりなんだろう、フィルムが少なくなっている。
もう僕は走馬灯を見ながら、違う人間の人生を見ているような感覚だった。
そして、最後には一人の女性が現れた。
ボブカットの本当に可愛い女性だった。
『この人は誰だろう?』
場面が映る。
窓辺の教室に座るこの女性に僕が話しかけている。
ぎこちない様子だ。不思議と僕にも気恥ずかしい気持ちがする。
場面が変わる。
ここは僕の部屋みたいだ、僕はだれかに電話をかけているらしい。
嬉しいような楽しいようなそんな感情が流れてくる。
電話の相手はあの女の子だろう。
また場面が変わる。
なぜだろう、すぐに辛いようなそんな感情を感じた。
よく見ると男の子と女の子が喧嘩しているようだ。
多分、僕とあの女の子だろう。何があったか分からないけど悲しい。
思念体であるはずなのに気づいたら目から涙が出ていた。
不思議とこの女の子との記憶を見ていると心が踊るような気がした。
僕は夢中にその子との記憶を見続けた。
気づいたら最後のフィルムだった。
最後の場面が映る。
放課後の教室で二組の男女が向かい合っていた。
「さゆみちゃん、ずっと好きでした。付き合ってください!」
男性が意を決して告白したようだ。
「ゆずき、言うの遅いよぉ、・・・もちろん。私も大好きだったよ」
女性が泣いている。男性も泣いていた。
気づいたら二人は寄り添うように立っていた。
『あぁ、思い出した。あれは僕だ。僕自身だ。
ごめんね、さゆみ、やっと付き合えたと思ったらこんな形で離れてしまって。
でもありがとう、さゆみのおかげで、全て思い出せたよ。
全てを忘れたまま、そんな悲しいまま死ななくてよかった。
ありがとう、大好きだったよ。』
僕はこの日死んだんだ。
最愛の人と離れ離れになって、人生で一番最悪な日になった。
しかし、この日僕の人生と同じように世界が変わった。
世界に「ダンジョン」が現れて異世界と道が繋がった。
これは僕が最愛の君にもう一度会うために、これからをともに歩むために
そんな小さくて大きな願いを叶えるために駆け上がる物語である。
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