絶滅までもう少し
「それで、どう動くの?」
セカイからの疑問だが、それはこっちが聞きたいことだ。
「正面から、叩き潰したいけど」
「それは、無理。勝てるわけがないよね」
ピンチになっても凄い力は目覚めない。怒りに燃えても、力が湧き出てこない。
現実に沿った行動で、ルシルを攻撃するしかないのか。つまらないな。
「ルシルを止める。出来ないなら、滅ぼすのが最終目的だ」
「止める方法は?」
「どうして、あんな風になったか」
それを考えてみると……。
「悪いのはエキトだ。奴に責任を取らせよう」
「あの細胞が悪いの?」
「もちろん」
覚えている限り、原因はルシルにあるが。奴を歪めたのは、エキトで間違いない。
「魔道具がなんとかって聞いた気がする。あいつなら便利なものを持っているから、ルシルぐらいは治せるだろうさ」
駄目なら、エキトにルシルを仕留めてもらうか。強いんだから、なんとかなるだろう。
「あいつは自分の店にいるだろう。そこに送ってくれ」
「……あはっ、無理だよ」
力ない声は、ぼくの言葉に否と答える。
その理由はわからないが、それでは困るのだ。
「なんで?」
「むげんが気絶して、既に二日以上が経過しているんだけどね」
そんなに経つのか、体感的には一時間も過ぎていないのに。
「既に、蒼き星の生命は。三分の一ほどに、減少したよ」
「へ?」
「あの細胞は、優秀らしいね。星魔法によって、いっぱい死んじゃった。星の景観も、変わってしまったよ」
ルシルがそんなことを……。思い切ったものだ。
「強かったんだなあ」
「あはっ。星魔法だからね、凄いに決まっているよ。何十億の細胞たちを乗せて、本当に長い時を生きてきた蒼い星。それと似たようなものが、墜ちてきたりする」
「凄そうだ」
「同じだけのエネルギーを、魔法と言う形でぶつけてきたり。力に変換して殴ってきたり」
こうやって聞くと、出鱈目な力だ。むしろ今まで、よく耐えてきたな。
「アメリカ大陸を含め、更地になった場所は数知れず。無傷なのは日本ぐらいで、生き残りはそこに集まっているね」
「なんで、まだ二日だろう?」
「急な攻撃だったからね、態勢を整えたいんだよ。世界を見渡して、明らかに無傷な場所だから」
日本ねえ、なにか縁でもあったかな? 聞いたこともない、忘れているだけかもしれないけど。
「案外、むげんが生まれた国だからかもね?」
「まさか」
本当に生まれただけの国だ、思い入れの欠片もない。
もしそんな理由なら、頭が悪いにもほどがある。感謝どころか、怒りすら覚えるほどに。
「エキトは、そこに逃げているかな?」
「生きているなら、そうだと思うよ。むげんの義父も死んじゃったしね」
「はあ!? なに、あいつ死んだの?」
これは本当に驚いた。ぼくが知る限り、一番強い魔法使いだったのに。
ルシルごときに、殺されたんだ。
「楽しそうに死んでいったよ。気持ち悪いぐらいに、嬉しそうな顔をしていたね」
「ワンコは?」
「一緒に」
最後まで戦闘狂だったな。……まあ幸せそうで何よりだ。もう帰ってこないことを祈ろう。
「もう真っ当に戦える戦力はないと思っていいよ。むげんの知り合いは、ほとんど死んだからね」
「エキトは生きているのか?」
「もちろん。あの変わり者の細胞は、強い割には戦いを嫌っている。理由がなければ、直ぐに逃げるよ」
そうだった、あいつは商人だ。戦いの才能があるくせに、一切鍛えることをしないほどに。
逃げない方が、有り得ない話だ。
「でもこれで、世界の未来は決定した」
「どんなふうに?」
「もうすぐ人類は滅びる。そして、流れ星が現れるよ」
流れ星。ちらほらと名前を聞いてきたが、ついにご対面か。
人類が滅びると現れて、元凶を滅ぼした後に全てを再生する化け物たち。
いつもは異世界で遊んでいるらしい。全てが滅んだあとに現れる、ろくでもない奴らだ。
なんでも、ぼくに縁がある奴がいるという話だったな。なにも知らないけど。
「だからむげんは、何もしなくていいんだよ。数日待てば、また平和な世界が戻ってくる」
「それがわかっているから、学院長たちは笑って死んだのか」
なんの憂いもなく死ねたのだろう。
自分たちが死ねば人類が滅び、全てが駄目になる。そんな未来なら、必死に生き延びたかもしれない。
でも全てが元に戻るなら、みんなが幸せな終わりが約束されているのなら。
ただ楽しい思いをして、力いっぱい遊んで終われる。
「……いや、あいつらは変わらないか」
どっちにしても、最後は楽しんで死ぬのだろう。後に残るものが、不幸になるとしても。
「どうする?」
「エキトを探す。流れ星が来るってことは、ルシルは倒されて消えるってことだろう」
全てが再生されても、ルシルは再生されない。それは困る。
「あいつには借りを返さなければならない。消えるなら、その後に消えてもらわないと」
ルシルのことは、一から十までどうでもいい。でも自分のことは大切だ。
勝ったと勘違いして、死んでもらっては困る。きっちりとやり返して、ぼくが満足してから消えてもらおう。
その後になら、ルシルがどうなっても構わないのだから。
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