がんじからめ
話は途中だが、送迎の車が別荘に辿り着く。疲れたと言いながらフェリエが自室に戻ることで、ぼくたちも解散だ。
用意された部屋に戻り、ベッドに寝転がると浮かんだ疑問を口にしてみた。
「なんで、お前たちまでこの部屋にいる?」
理由は全くわからないのだが、ファングと爺さんがついてきた。
なんなんだよ、こいつらは。
「さっきの説明に、補足が必要だと思ったんだよ」
「まあのう。あのままでは、物足りんじゃろう?」
椅子に座ったり、床に座り込んだり。くつろぐのが、早すぎる。
「何の話だ?」
「フェリエの話じゃよ」
それはそうだろうが、一応は内容が完結していたと思う。
「あいつの夢は、人類の平和だろう。だが、そんなもんが叶うわけがねえ」
「そのフォロー役として、ワシらがいるんじゃよ」
魔法剣士の国なのに、フェリエの周りに魔法使いが固められていることが疑問ではあったんだ。
「フェリエの理想が叶うことはねえ。叶ってもらっても困るのさ、おれっちの目標は戦争でこそ達成できるからな」
「それ以前じゃよ、この世界に平和が訪れることなどない。人類以外に、脅威が多すぎるからのう」
この二人は現実が見えているのか。フェリエよりは、話が通じそうだ。
「やっぱりか」
「ほう、おぬしは現実が見えておるのか。賢いようじゃな」
「だから言ったろ? こいつは只者じゃねえって」
二人が感心しているようで、何度も頷いている。
どうやらぼくの評価が上がったらしい。いいことだ。
「理想を追う小僧を破滅させないことが、ワシらの仕事なんじゃ。死なれても、困るしのう」
「爺さんは、副大統領からの命令で。おれっちは自分の目的のために、フェリエには生きてもらう必要があるのさ」
露悪的な言葉に納得がいかない。印象に過ぎないが、こいつらは冷徹に見えないからだ。
「本心か?」
単刀直入に聞いてみると、苦笑しながら応えてくれる。
「……古い付き合いだし、友達だ。心配もするさ」
「あの子が赤ん坊のころから、見ているからのう。情も湧くわい」
何かを思いだすような目をして、気持ちのこもった言葉を吐きだしている。
ぼくにはわからないことだが、感情とは制御できないものなんだろう。
「でもさ、なんでフェリエは極端な考えになったんだ? 情報を集めれば、それが間違いだと気づけるだろうよ」
「それが、気づけないのさ」
ファングがバカにしながら、呆れている。なんだこいつは。
「この世界は、お主が思うよりも少ない人数で支えられておる。本当の意味で戦ってるのは、百人にも満たないのじゃよ」
「百人かあ……」
少ない。本当に少ない。この世界に、どれだけの数の人間が存在していると思ってんだ。
「異種族との小競り合いで、多くの人は死ぬ。強者の戦いに巻き込まれて、多くの人が死ぬ。じゃが、そやつらは戦ってもいないんじゃよ」
「もちろん内乱みたいな人間同士の戦いは、また別のことだぜ。それは生存競争ですらない、本当は必要のない娯楽としての殺し合いだからな」
唾を吐きそうな顔で、ファングは声を出した。
その気持ちを、理解だけは出来る。今の世界に不足しているものがないのなら、その争いは余分なものだ。
必要以上のものを手に入れるための戦いなんて、娯楽以外の何物でもない。
そいつらは殺しいから殺して、奪いたいから奪っているのだ。純粋に、醜い欲望だけで生きている。
「頂点を争うほどの強さの奴らが、日頃から睨み合って削り合っている。小競り合いはあっても、その膠着状態が今の平和を生んでるんだ」
「そいつらだけが、戦っているんじゃ。他の全ては、平和の中で生きている。依頼や戦争をしている魔法使いや、国を守る軍隊に所属している奴らなど。ごっこ遊びをしているだけなんじゃよ」
学院を卒業して、一人前になった魔法使い。しっかりと訓練を積んで、国を守るために頑張っている騎士たち。
そんな奴らは、遊んでいるだけだと。戦いにすらなっていない、無邪気な子供と同レベルなんだと。
百人の強者が強い異種族たちと戦い、その強さを見せつける。その結果、弱い異種族たちが人間に恐れを抱き、襲われなくなる。
弱者にとっての平和な世界が、出来上がっているな。
「そんな奴らを基準に考えていれば、フェリエのような考えになってもおかしくねえだろう?」
……そうかもしれない。戦争も平和も、人によって価値が違う。
国の中で、平和で生きていれば。戦う相手は人間になり、会話で世界が平和になると思うかもしれない。
副大統領の孫と言う立場でありながら、異種族に遭ったこともない可能性もあるだろう。
「だがな、おれっちたちはフェリエにぬるま湯で生きていて欲しいのさ。それが一番、平和だからな」
本当に様々な思惑が絡み合っている、客観的に見るとよくわかる。
困った、本当に困った。ぼくが手を出せる余地がありすぎて、どうやって関わっていこうかな。
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