ビジョン
「ま、話はわかった」
ようは二流か三流の魔法使いの集まりが、魔法剣士と言うわけで。この国にいる魔法使いは、全てそいつらで構成されていると。
……話にならないな。
「でも、お前たちは魔法剣士じゃないよな?」
「メディはそうだぜ、フェリエもな。おれっちと爺さんは、確かに違う。ちまちまと戦うのは、性に合わねえんだよ」
「そうじゃのう。やはり大技を放つことが、一番スカッとするからのう」
この二人は、変わり者ということか。それも悪くないな、同じものばかり見ていても、飽きるだけだから。
あとは、フィアやつぼみも魔法剣士か。
「なんで優秀な魔法使いは、みんな他国に行くんだ?」
「理由はいくつかあるが、世界的に有名な魔法使いが他国にいるからだな」
「まあな。人類最強の男が、学院長をやっていたり」
「それだけじゃないわい。この国には昔から、神秘が少ない。ダンジョンでこつこつと修行するよりも、他国で化け物たちと研鑽する方が強くなれるんじゃ」
それは、薄々と感じていた。この国には、化け物が少ない。強い奴、という意味ではなく。別の種族、理解できない存在の話だ。
イギリスでは学院長が推奨していたせいもあるが、そもそもの数が多かった。それは、街を歩くとすぐに分かるほどに。
よく言えば、文明が進んでいる。悪く言えば、平和の代わりに牙を失っている。
こんな光景を目にしていると、イギリスの学院長のやり方が正しいものだと思えてくる。
「優秀な者たちは、あのイギリスに希望を持って空を飛んでいき。そして躯になって、塵に帰る。……無残なものじゃよ、夢や希望は死に繋がっておる」
「たくさん、死んだのか?」
「いや、他国に比べれば微々たるものじゃよ。それほど才能がある物が少なく、魔法剣士の道を選ぶものも多い」
魔法剣士に成る道は、一つの救済になっているのか。
国に合っているから、称賛をされる。最強に成れなくても、使い道には困らない。
才能がないと見下されていたものから、世界最強の剣士が現れたこともその一つ。
その安全な道は、平和であり美しい。だが大きな目で見れば、国の力はどんどんと下がっている。
そこに口を出すのは無粋でしかなく、だからといって無条件な称賛も出来ない。
「……それで、他国からの侵略がないと?」
「そうだとも。魔法剣士の人口は増えて、その教育も研鑽されていく。世界的に見ても、この国の魔法使いの割合はトップクラスだ」
ああ、そうだな。そこに意味があるのなら、とても素晴らしいことだろう。
だが、本当に分かっているのか。有象無象が何億と集まったところで、唯一無二の一に滅ぼされるのだと。
「僕が大統領に成ったら、もっと力を入れるつもりだ。国民の三分の一ほどが、魔法使いになることが理想なんだ」
金が力、数が力、意思が力。すべて正しく、真っ当な言葉だ。
でもそれは、あまりにも普通に寄りすぎている。魔法社会には、とても適応できないものだろう。
聞けば聞くほど、フィアたちが正しく感じてしまう。聞くに堪えなくて、話をそらしてしまう。
「それが、外敵から襲われない理由か?」
「ああ、その通りだ。他国は魔法使いの数に恐れ、化け物たちはその実力に何も出来ない!」
なるほど、そういうことか。誰かに聞いたことがある、強い魔力を持つものは化け物に襲われやすいのだと。
確かにこの国は、理想的な平和な国かもしれない。
異種族たちも、化け物たちも。魔力の低いこの国の人間は襲われにくく、他国の魔法使いたちは化け物たちとの戦いに明け暮れている。だから、この国に目を付ける暇がない。
それでも、破滅は目に見えている。この国は、いつか必ず……。
「いつか必ず、魔法政府に大きな影響力を持つようになる。世界平和に否定的な国に攻撃を仕掛けて、領土を増やすことにもなるだろう」
そういうことだ。平和が約束され、戦力が増大すれば行きつく先は欲望に決まっている。
他国に侵略して、一夜にして滅ぶ。それがこの国の行き先になるだろう。
フェリエが、勝利したらな。それでも、これだけは聞いておきたい。
「なんでその必要があるんだ? 平和が一番だろう、もう戦う必要なんてない」
「……いや、今の言葉は忘れてくれ。少しばかり、大きなことを言ってしまった。どれだけ上手くいっても、僕にはそこまでのことは出来ないだろう」
「それでも、他国と戦うとしたら何のためだ?」
「決まっている、平和のためだ。幸いにして、我が国は平和だが。人類は脅威に晒されている、これは他人事ではないんだ」
言っていることだけは正しい、イギリスでのクーデター派の奴らと同じだ。
「もっと協力し合わなければいけないんだ。一つにまとまって、異種族たちを倒す。その先にこそ、人類の繁栄が待っているのだから!」
困ったことに、ビジョンだけは定まっている。言っていることも、決して間違ってはいない。
人類の危機も、この期に及んで争っているのも問題だ。
そして人類は、一つの答えを出している。争い強くならなければ、異種族たちに滅ぼされるのだと。
本当に分かっているのか? フェリエの言うように協力し合えば、争いがない平和な世界になれば。
……あっと言う間に、全てが終わってしまうのだと。
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