魔法剣士

 


「今度はこちらが話を聞く番だ。お前たちはなにをしていた?」


 まだ聞きたいことがあったのだが、フェリエに話を変えられる。


 不満はあったが、最低限の情報は手に入れたので、大人しく付き合うことにした。


「なにを?」

「大統領選挙まで、あと二年だぞ。なにもしていないわけがないんだ。次の候補者は五人だと言われているが、僕とフィア以外は動機も理念も実力も話にもならない」


 人数が多いのか少ないのか、ぼくにはわからないが。五分の一なら、充分に可能性があると言えるだろう。


「だから、ライバルはフィアなんだ。その動向が知りたい」

「話してやってもいいが、なんでぼくに聞くんだよ。本人に直接聞くか、サクリに聞けばいい」


 はっきり言ってぼくは、あいつらの事情に詳しくはない。


 余計なことを言って、場を混乱させたくはないのだが。なんか、話が明後日の方向に飛んでいきそうな気がする。


「それが出来たら、こんなことを言わない。……フィアたちは、昨日から消息不明になっているんだ」


 ……ん?


「サクリにも連絡が付かない。ファングが生命を探知できているので、身の危険はなさそうだが。探索魔法を使っても、居場所すらわからない」


 どこかのエキトが、何かを言っていた気がする。


「まあ、無限がいるからな。サクリに身の危険はないだろうが、好奇心は抑えられない。知っていることがあるのなら、教えてほしい」


 ぼくがいるからサクリが安全と言う考えは、今すぐに捨てたほうがいいと思うが。


 あいつらがその気になったら。サクリを亡き者にして、ぼくを無傷で取り返すことぐらい簡単だろうさ。


 これは黙っておこう。


「フィアたちは、ダンジョン巡りをしていたな。実績作りだとさ」

「実績だと? ……なんでダンジョン巡りが実績になる?」

「そりゃ、あれだろ」


 ぼくたちの会話に、ファングが口を挟む。


「大統領派は、力こそが全てだと公言しているからな。フェリエにわからないだろうが、圧倒的な力を見せつける事こそが、勝利へとつながると思っているんだろうぜ」

「……くだらん。力は素質に過ぎないだろう? 民の支持を集めるには、地道な活動こそが近道のはずだ」


 言葉を分析すると、フィアとの一騎打ちでは力が必要だと思っても。真っ当な選挙には、関係がないと思っているらしい。


 平和主義と言えばいいのか、幸せな頭をしていると言えばいいのか。


「なあ、この国には外敵の脅威とかないのか?」

「五百年ほどは、まったくなかったな。あるのは絶え間ない内乱と、どこかの学院長の暴走ぐらいだ。これは全て、他国に比べて発達した科学と、魔法剣士たちの努力によるものだ」


 科学と、魔法剣士ねえ。そういえば、まだ詳しく聞いてなかったか。


「この国は、魔法剣士が多いらしいが。どうしてだ?」

「そういう国風であり、進化の結果だと言える」


 フェリエの分かりやすい説明にため息を吐きながら、若い見た目をした爺さんが話を引きつぐ。


「この国はダンジョン大国じゃからのう。狭い場所で戦う技術が、重宝される。強力な魔法使いでは、ダンジョンごと破壊してしまうからのう」


 いちど経験したことだが。ダンジョンを壊したり魔物を倒すことは、ボスを強くすることになる。


 そして、百パーセントの力を使うボスには、ほとんどの魔法使いでは勝てないのだ。


 超一流の魔法使い以外には、ダンジョンへの破壊行為などマイナスにしかならないから。


「それに優秀な魔法使いは、みんな他の国に行ってしまうからのう。魔法を覚えなくてもいい魔法剣士は、この国にピッタリなんじゃ」

「なんで?」

「魔法剣士が扱うのは、魔法ではなく魔術。おまけに魔力消費の少ない補助魔術が、一般的に使われるんじゃよ」


 大したことがないものが魔術。凄いものが魔法。簡単に言って、そういう区別だった気がする。


「剣の切れ味を良くしたり、折れにくくするものじゃ。この五十年ほどは、剣そのものを自分で作ることが流行っておるのう」

「なんで昔は違ったんだよ」

「昔は優秀な魔法使いが多くて、優秀な剣を作る者も多かったんじゃ。自分で作る三流の剣よりも、他人の作った二流の剣の方がマシじゃろう?」


 どうしても、一流には手が届かないらしいな。


「近頃では、有史以来の最強の剣士が現れたおかげで、剣を自作するものも少し減ったがのう。それがよかったかは、まだわからん」

「最強の剣士?」

「聞いたことがないかのう? 魔法の使えない一般人でありながら、星をも切り裂くほどの剣士がおると」


 どうだったっけ。聞いたことがあるような、ないような。


 また忘れると思うから、別にいいけど。

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