先の道

 


 トワを先頭に、ぼくたちは薄暗いダンジョンを進んでいく。


 いい加減に飽き飽きしていると、目の前に大きな扉が一つ現れた。その前で立ち止まったトワが、面白そうな声を上げる。


「あはっ。なんだか怖そうな扉が現れたね」


 それは鉄の扉であり、白い文字で何かが書かれていた。


『衰退と繁栄。勝者に訪れる未来はどちらだ?』


 意味不明な言葉であり、フルーツたちも首を傾げている。


「なんですの、これは?」

「……わかりませんね。ですが、無意味だとも思えません」


 この二人は、役に立たないと。


 弱気になって、鋭くなったフィアはどうだろうか?


「うう、汚れがとれないよう」


 そもそも扉などは見ておらず、服の汚れだけを気にしていた。


 どいつもこいつも役に立たず、こちらを見ているトワは口を出す気がないようだ。


 あくまでも、案内役だと。


「衰退と、繁栄ねえ」


 その二つは連鎖するものだ。究極的に同じものでしかないと言える。


 衰退が訪れると、必ず繁栄につながる。繁栄が極まると、必ず衰退してしまう。


 その繰り返しを、歴史と呼ぶのだ。


「考えるだけ無駄だな」


 ぼくは何も考えず、扉を押してみる。だが、びくともしないようだった。


「お前ら、やれ」

「「了解!」」


 フルーツとつぼみが、扉を攻撃する。それは拳であり剣であり、魔道具だったが。


「効果は、ないな。お前たち、弱すぎるぞ」


 扉の破壊に失敗し、疲れ果てて座り込んだ二人にそう言ってみた。


 だが、反論する気力もないらしく。肩で息をしている。


「ああ、ダメダメ。言ったでしょ、破壊なんて出来ないよ」

「あん?」


 バカにするようなトワの言葉に、疑問が溢れる。


 それなら、どうすればいいのか。


「もう。むげんはリーダーじゃないんだから、扉を開けることは出来ないよ。あくまでも、フィアが決めなくちゃね」

「フィア」

「……う、うん」


 フィアが扉に力を籠めるが、何一つ動かない。


「質問の答えもね、どちらを選んでも構わないよ」

「ひっ、でも失敗したら?」

「何が起こるかわからないね。でも、ここにずっといたくないでしょ?」


 少し前に気づいたことだが、今まで進んできた道が消えているのだ。


 本当に、後戻りは許されない。ぼくたちが生き残るには、進むしかないのである。


「ジ、ジブンが決めるの?」

「そうだよ」


 突然の展開に混乱するフィアに、容赦なく現実を突きつけるトワ。


 正直に言って楽だな。ぼくの仕事をトワがこなしている。


「……決められないよ。先生が決めて」


 縋るようなその言葉。だが、ハッキリと断っておく。


「駄目だな。フィアが決めるんだ」

「し、失敗したらどうするの?」

「みんなで死ぬだけだ。文句はないさ、ぼくたちは危ない場所に来ているんだから」


 死ぬ可能性だってもちろんあるし、全滅の一歩手前の被害を経験したばかりだ。


 成果を求めれば、リスクがついてくるだけの話。


「いつまでだって悩めばいい。ゆっくりと待つよ」


 ぼくの意志を伝えて、少し距離をとる。不満はありそうだが、つぼみやフルーツも距離を取って、自由な行動を始めた。


 つぼみは剣を磨きだし、フルーツは休息をとるために眠る。


 そして……。


「いやあ、むげんは厳しいなあ」


 隣にいるトワが、好き勝手に喋り出した。


「お前に言われたくはない。十二分に、厳しい言葉だったぞ」

「あはっ。そうかなあ」


 弱気で何も決められないものに、大きな決断を迫る。一見すると厳しく聞こえるが、当たり前のことに間違いはない。


 フィアの様子を窺うと、扉を叩いてみたり、耳を近づけたりしている。


 その先に何があるか、調べようとしているのだろう。


「あはっ。あんなことをしても無駄なのに。その先には、まだ何もないのだから」


 その言葉には合点がいった。繁栄と衰退。決断をすることで、その言葉に相応しい道が出来るのだ。


 楽観的に考えれば、どちらを選んでも命の危険はないだろう。


「教えてあげないの?」

「教える意味がない。これから先も、選択が待っているだろうさ。安全なうちに、決断力を身に着けてもらわないと」


 リーダーはフィアで、変更する気などないからな。


「それより、お前には聞きたいことがたくさんある」

「本当に?」


 ……うん?


「……よく考えてみれば、そんなに多くないかもな」

「あはっ。そうだろうね、むげんは答えなんて必要ないタイプでしょう。道が間違っていても、気にしないんだから」


 まあ、その通りだ。道が間違っていても、前に進んでいけばいいから。


 今とは違う風景が見えれば、それはそれで楽しい。


「いいよ、わかった。何でも聞いてね」


 その寛大な言葉に、質問を始める。


 でも重要な質問なんて一つもなくて、全てが世間話と変わらない気がした。


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