懲りない奴ら
「しかし、一週間の足止めか……」
かなりの重症と、深い魔力汚染。
予約が多すぎて、検査ができる日が五日後。治療と経過観察に、二日の見込みらしい。
一人でダンジョンに行く意味もないし、せっかくの大きな町だ。毎日遊び歩くかな。
「あはっ。大丈夫だよ、明日には退院できる」
明日からの楽しみを呟くと、隣にいる看護師姿のセカイが返事をした。
「今のあたしは看護師だから。色々と融通が利くし、腕のいい医者を用意してあげるね」
気を利かせたのだろうが、余計なことを。ぼくの休暇は、簡単に潰されてしまったようだ。
「それとも、一か月ぐらいに入院を伸ばした方がいいかな?」
あたしはどちらでもいい。そんな表情をして、セカイはぼくに問いかける。
それも悪くないが、やはり却下だな。
「それはやめとくよ、あの姿は痛そうだ。……それに、早く依頼を済ませたいからな」
遊びたければ、堂々と遊ぶことにしよう。奴らが入院して暇だからなんて、そんな言い訳は必要ない。
文句を言われても、追いかけまわされても。元気になった奴らを、振り払って遊びまわるさ。
「よくわからないけど、変なことを考えていそうだね。一時間後には、検査を始めるから」
言いたいことを言って、セカイは建物に戻っていく。
今から頑張って、何かをするんだろう。言葉にしない方がいい、何かを。
その姿をぼんやりと見送って、ぼくも病室に戻ることにした。完治しているので、ぼくはそろそろ退院だろうか。
色々と考えていると、病室から話し声が聞こえてきた。三人とも、目が覚めたのかもしれない。
「……今度は、ワタクシが勝ちますわ!」
「それよりも、早く怪我を治しましょう。お兄ちゃんのことです。どうせ怪我人に、優しくなんてしてくれませんからね」
「はい。自分も、覚悟を決めたでありますよ! もう、遅れは取らないであります」
三人ともやる気に満ちているようだ。次のダンジョンへの期待に満ちているらしい。
その気持ちは買うけど、無駄になりそうな予感もする。だって、セカイが戻ってきたからなあ。
「元気そうだなあ。よかったよかった」
元気があるに越したことはない。これからどうするにしても、だ。
「兄上、無事でしたのね」
「だからそう言ったでしょう。お兄ちゃんなら大丈夫だと」
目を覚ました時にぼくの姿がなかったので、不安を覚えたらしいな。
自分のことだけ心配していればいいのに。
「お前たちとは違うんだ。ほとんど見ていただけだからな」
真正面から戦っていたこいつらの方が、怪我が酷いのは当たり前だ。
ぼくは時間を稼いだだけで、直接的な勝利を目指してはいなかったからな。
「そうですわね。兄上は戦わなかったのですから、怪我をするわけもありませんわ」
勝手に納得しているつぼみを横目に、フルーツとフィアに視線を向ける。
二人とも首を横に振っているが、何も教えてはいないようだ。
それにフルーツはともかく、フィアもわかっているのか。実は意識があったのかもしれない。
「それより兄上、怪我が治ったらすぐにリベンジですわ! 今度こそ、ワタクシが勝つのです」
酷い目にあっても、一欠けらの恐怖もないらしい。
一撃で負けていたので、実感がないのかもしれないな。
「勝手に行けばいいさ、ぼくとの契約は終わったんだ」
「……は?」
とぼけた返事を返すつぼみに、丁寧に説明をしてやる。こいつは人の話を聞いていなかったのか。
「言っただろう。初めてのダンジョンだから、手伝いが欲しかったと。二回目には必要がないさ」
どんなものか経験できたし、ボスとの戦いにつぼみは戦力にならない。
もう必要がないのである。
「そ、そんな一方的な!?」
「なんでだよ、そういう約束だっただろうが」
初めからな。いきなりケンカを売られた迷惑料には、相応しい値段だった。
これ以上は貰いすぎだし。約束は正確に守らなければ、大統領に無茶振りされても文句を言う資格がなくなる。
それは嫌だ。自分が約束を守るからこそ、約束を破る人間に文句を言う資格があるのだ。
「ワタクシがいなければ、戦力が落ちてしまいますわよ。ただでさえ、負けたばかりなのに!」
「なんとか頑張るよ。気にしなくてもいい」
戦力の当てはある。なければ今のままで、もっと頑張るだけだ。
「それはどうかと思いますが。些細でも、戦力は戦力ですよ」
「そうであります。共に戦った仲でありますよ」
フルーツとフィアが文句を言うが、約束は約束だ。
「それなら、今度はワタクシから。強くなるために、連れて行ってください。このままでは、終われませんわよ!」
新たな約束、それなら確かに問題はない。
でも、大丈夫なのか。これから先の戦いは、もっと厳しくなるだろう。今度は上級者のダンジョンにも挑戦するし、上があるのなら、どこまでも目指さなければならない。
そんなレベルについてこれるのか。約束の終わりとして、学院に返してやるほうがいいのではないか。
「……まあ、いいか」
そこまでぼくが考える必要はないな、自分の意志でついてくるのなら、死んでも自分の責任だ。
「わかったよ。これからは頑張ってくれ、もうお客さんではないからな」
もっと厳しい世界、もっと絶望に溢れた世界にようこそ。
痛みも恐怖も天井知らずに上がっていくけど、なんとか頑張ってくれよ。
ぼくには縁のない話だがな。
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