休みが終わる

 


「フルーツは、言うまでもありませんね」


 つぼみの話が終わった後に、当然のような言葉をぶつけてきた。


 まあ便利だからいいけど、お前はルシルのホムンクルスだからな。


「はいは~い、検査の時間だよ」


 話が一段落したあたりで、お気楽な声が病室に響いた。


 その正体は語るまでもないだろう。ぼくを見てウインクしているし。


「検査の時間、ですの? 流石に早すぎるのでは」


「あはっ。何を言っているの、大統領のお孫さんだよ。優先や忖度なんて当たり前さ。ちょっと大きいけど、この程度の病院に来てくれたことを、感謝しているんだよ」


 黒いことを言いながら、テキパキと検査の準備を進めている。


 体を動かすことが出来ない三人のために、負担がないようにしているらしい。


「じゃあ、元気な人は外に出ていてね。時間がたったら、戻って来るんだよ!」


 一応は入院患者なのに、病室を追い出されてしまった。ぼくと入れ替わるように、数人の医者が中に入っていく。



 ★



 街で楽しんだ後に、悲しくも病室に戻ってきた。


 三人の元気になった姿が目に入り、本当に休暇が終わったことを実感する。


 検査が終わってしまえば、治療なんて魔法であっという間だ。


「……ああ」


 つい言葉が出てしまう。それを耳ざとく聞きつける三人の健康体。


「なんですの、そのため息は!」


「自分たちが完治したことが、気に入らないのでありますか?」


「そうでしょうね、どうせ楽しい時間が終わったと考えているんでしょう」


 なんだこいつらは、人に文句を言い出したぞ。


「そんなことはどうでもいい。それよりも、次の予定を決めよう」


 話をそらすために、真面目なことを提案してみる。


 ぼくとしては目についたダンジョンに、片っ端から乗り込んでいけばいいと思うのだが。


「まずはリベンジですわ! 直ぐに行きましょう」


 やる気が溢れているつぼみだが、その希望は叶わない。


「あのダンジョンは、攻略済みだよ。行く必要はないな」


 その言葉に三人が驚いた顔をする。ぼくは簡単に説明することにした。


「カードを見たら、攻略済みになっていた。一つ目の功績だね、ぼくたちは勝利したのさ」


 自慢げに語ると、胡散臭そうな目で見られてしまう。ケンカを売っているのなら、買ってやろうか。


「どういうことですの? 負けて逃げ帰ったのでしょう」


「その通りですね。壊れた騎士を利用して逃げたんですよ」


 その辺りまでの情報は共有したらしい、説明は短くて済みそうだ。


「壊れた騎士も、同じパーティーだと判断されたみたいだね。あれがボスを倒してくれたから、ぼくたち全員の勝利なのさ」


 漁夫の利を得たのだろう、よかったね。


「……確かにそうでありますね。どこのダンジョンでも、ボスを攻略した時に、中にいた全てのパーティーが勝利したと判断されるであります」


 納得したようなフィアの言葉。なかなか優しいルールだが、どこかにリスクもありそうだ。


「ボスを討伐した人数も記録されるでありますから、それも評価に直結するでありますよ」


 なるほどね、ぼくたちは五人で討伐したということだ。十人も二十人も戦力を集めて戦うと、評価は格段に下がるんだろうな。


 でもそのルールを利用して、他人の評価を下げることも可能だろう。情報を集めることも大事になるな、出来るだけ誰もいないダンジョンに向かいたい。


「一度、学院に戻りませんか? やはり、戦力を増やす必要があるでありますよ」


「断る!」


 そんなことをしたら、ルシルに捕まる。それに、せっかくの旅行気分が盛り下がるだろう。


「し、しかし今のままでは、勝ち目がないでありますよ。これからも、完全なボスを倒すのでありますよね?」


「当たり前だ」


 最高の評価を狙うのだ。塵も積もれば山となるなんて、ぼくには関係のない理屈だ。


 山を集めて、空よりも高く積み上げたいのだから。


「それなら、手立てはありますの? もしくは玉砕して、全滅するのがお好みですの?」


「戦力の当てならあるさ」


 大きいのがな。


「そのうち、いい感じの奴がパーティーに入って来るさ。この世には、偶然と必然が溢れているからな」


「またそんな、適当なことを」


 どいつもこいつも、呆れた顔でぼくを見ている。本当に、どうしてくれようか。


「ねえ看護師さん、どう思う?」


 目立たないように病室に入り、片づけをするふりをして会話を聞いている看護師に、話しかけてみる。


 さっきからニヤニヤしているようで、笑いを堪えているのがよくわかった。


「あはっ、そうだね。世の中には不思議が一杯だと思うよ。奇跡みたいな存在が、誰にも気づかれないで近くにいるしね」


 それは誰のことを言っているのか、フルーツだって奇跡的な存在だと言えるからな。


 つぼみやフィアだって、ぼくが知らないだけで凄い人物かもしれない。


「大丈夫だと思うよ。その男の子は、いい子みたいだからね。みんな協力してあげたくなるんじゃないかな?」


「……見る目がない人ですわね」


 セカイの言葉に、つぼみが文句をつける。フィアは苦笑をして、フルーツはため息を吐いているようだ。


 見る目がないのは誰なのか。この場にいるぼくたちの考えは全てがバラバラで、誰一人として意見が揃わない。


 これからセカイがどんな行動をして、どんな結果が訪れるのか。


 面白そうな、少し先の話。明日が来ることが、楽しみになった。

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