初めてのダンジョン

 


「よし、ダンジョンに遊びに行くぞ」


 意気揚々と、車から降りる。


 綺麗な青空に、気分が高揚していく。でも、今からダンジョンに潜るので、青空には意味がないな。


 まあ、それはそれ。


 後を追うように、フィアも車から降りてきた。


「待ってください。二人を呼ぶでありますよ」


「二人?」


 誰のことだろう。


「……つぼみと、フルーツでありますよ」


 ああ、そうだった。この場にいない奴なんて、どうでもよくなっていたなあ。


「放っておこ……」


「ワタクシたちも行きますわよ!」


 ぼくが何かを言いかけると、二人は近くまで戻っていたようだ。


「フルーツたちを、置いていかないで下さいね」


 強気なつぼみの声と、笑顔で圧を掛けてくるフルーツ。


 なんだか責められている気分だ。



 ★



 案内されたのは、一軒の民家だ。何の変哲もない、村はずれの小さな一軒家に過ぎない。


「ここであります」


 鍵はかかっていないようで、ぼくらは無遠慮に中に入っていく。


 玄関を抜けると、そこには大きな階段だけが視界に映る。


 民家はカモフラージュでしかなく、その中身は一つの階段だけなのだ。


「なにこれ」


「一般人に入られても困るし、ずっと魔力で迷彩するのも手間がかかるであります。これが一番簡単な対策でありますよ」


 確かにな、他人の家に勝手に入るやつは少ない。


 村長にでも話を通して、一般人は入れない仕組みにしておけば、これが一番手軽な迷彩か。


「もちろん、ダンジョンによってその在り方は千差万別でありますが」


 それはそうだろう、どこにだって都合と言うものがある。


「では、行きますわよ。一番槍として、ワタクシが先行しますわ!」


 そういえばそうだった、危険な時に真っ先に犠牲になってもらうために、つぼみを連れてきたのだ。


 勇敢に階段を下りていくつぼみを追って、ぼくたちも初めてのダンジョンに侵入するのであった。



 ★



「へえ、こんな風になっているんだ」


 あまりにも広く、大きな空間。想像とはだいぶ違った。


 分かりやすく説明すると、どこかの大きな地下鉄の線路を歩いているようだ。


「綺麗なものだな」


「ダンジョンの中も、色々と個性が出るでありますが。基本はこんな形だと思ってほしいであります。おそらくは、ダンジョンを作る魔法に関係があるのでしょう」


 魔法を作った人間にとって、ダンジョンとはこんなイメージだったのか。


 それとも、教科書に載るようなダンジョンづくりの基本があるのか。


 しばらく歩いていると、立ち尽くすつぼみの姿が見つかった。その周辺には、緑色の光が溢れていて、何かがあったのだと連想させる。


「どうですの、ワタクシの実力を見ましたか!?」


 なんだか自慢げな姿だが、何があったのかもわからない。


 どうやら、ぼくたちがしっかりと目撃したと勘違いしているようだ。


「魔物を倒したのでありますな。この光の規模からいって、十体以上は……」


 なるほど、倒した魔物は魔力に戻り、ダンジョンマスターに還元されるんだった。


 この光は、還元される前に魔力に戻った状態か。


 少し経つと、緑色の光は消えた。おそらくだが、この光はダンジョンマスターの魔力の色だろうな。


「先生、お婆様から頂いた剣は?」


「……あ。車に忘れたな」


 借り物だから、忘れやすい。自分のものだという意識がないからだろうな。


「あれは魔力で作られた件なので、先生が念じれば呼べるでありますよ」


「魔法なんて使えないが」


 そう返すと、フィアは首を振った。


「関係ないであります。あれは魔道具に近い、剣に魔力が宿っているのでありますよ」


 軽く念じてみると、確かにその右手には剣が握られていた。


「これは便利だな。これからは、剣を無くしても問題がないみたいだ」


「……確かにそうであります。その剣の持ち主は、先生になっていますので。でも、それを聞いたらお婆様が怒りそうでありますよ」


 そんなこと知ったことか。剣を大事にする約束なんてしていない。


 と、いうよりだ。


「なんですか、その剣は?」


「お婆様との契約で、先生には一つの魔法を覚えてもらうのでありますよ。この剣で千体の魔物を斬ることが、習得の条件であります」


 ああ、そうだった。そんな約束だったな。フルーツが代わりに尋ねてくれて、助かったな。


 最近は物忘れがひどくて困る。何か原因でもあるのだろうか。


 ……いや、元々だな。興味の薄いことは、どんどんと消えていく。


「そうなんですね。お兄ちゃんは、何も話してくれないんですよ。でも、お姉ちゃんが怒りますよ。また師匠が増えるんですから」


「知らん」


 だったら魔法を覚えると、弟子になるというシステムを無くしてほしい。


 報酬が目当てなだけなのに、余計なものがどんどんと増えていく。


 今では三十人を超える師匠がいる。ぼくに危害を加えたら、理事長を筆頭にそいつらが復讐をしてくれるのだ。


 魔法使いには、弟子を家族と同じぐらいに大事にする考え方があるからな。


 もっと師匠が増えて行ったら、ぼくのために戦争が起きるのかもしれない、

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