ダンジョンの仕組み

 


 おっと、意識が飛んでいた。ぼくは何をしていたんだっけ?


「ふう。これで一通りの説明は、終わりましたわね」


 知らないうちに、何かが終わっている。何か重要な話だった気が……。


「とても参考になりました。ダンジョンとは、そんな構造になっているのですね。つぼみもたまには、役に立つようです」


「……ねえアナタ。言葉にトゲがありませんこと? ケンカなら買いますわよ」


 つぼみとフルーツが、どんどん険悪になっていく。


 面白そうな話なので、もう一度説明してほしいのに。それを言い出せる空気じゃない。


「まさか。お兄ちゃんに向かって、偉そうな態度をとるような見る目がない人に、ケンカなんて売りませんよ」


「見る目がなくて、悪かったですわね! それよりも、なんでこの人をお兄ちゃんと呼んでいるのですか。アナタのような妹はいませんわよ!?」


「フルーツも、貴女のような姉はいりません。なんというか、苦労しそうなので」


「よく言いましたわ、表に出なさい!」


 二人はぎゃーぎゃーと騒ぎながら、車を出ていく。


 人目につかないところで、取っ組み合いのけんかをするのだろう。


 取り残されたぼくとフィアは、茫然としながら残ったサンドイッチをつまんでいる。


「……僭越ながら」


「うん?」


 途方に暮れていると、フィアが声をかけてきた。


「先生は、先ほどの会話を聞いていなかったとお見受けします。よければ、もう一度説明をしたいのでありますよ」


「お前は、空気が読めるなあ」


 今までにいなかったタイプだ。こんな気配りができる人間は、周りにはいない。


 そもそも説明をする気がない奴らか、全てを自分でやるからと説明してくれない奴らばかりだ。


「では」


 一つ咳ばらいをすると、フィアの説明が始まった。


「ダンジョンとは元々、強いものがより強くなろうとする場所でありますよ。才能の行き詰った者が、その限界を超えようとする場所であります」


 何を言っているのかよくわからないが、どうやらこの説明はダンジョンに挑むものの話ではない。


 ダンジョンをを作った側の話だ。


「洞窟でも、地下でもかまわない。魔力が蓄積している場所を見つけ、そこで長年を過ごす。ただそれだけで、時間と共に魔力が増えていくのでありますよ」


 理屈はよくわかる。弱いものが、強いものに縋るようなものだろう。


 そんな修行方法があると聞いたこともある。ようは自然の魔力を奪って、自分の魔力にしているのだ。


 もっと詳しい説明があった気もするが、完全に忘れたな。なんだっけ、オドとかマナとか。


「強い奴が魔力の多い場所にいるだけ? それはダンジョンとは呼ばないだろう」


「それでは時間の無駄、ということでありますよ。敵がいなければ、発展は生まれない。戦いこそが、強くなる早道でありますから」


 自分を襲ってきてほしいのか。それを返り討ちにすることで、強くなると。


「自分の魔力で空洞を迷路にしたり、罠を仕掛けたり、魔物を作るのでありますよ。エサの代わりに、宝物を置いたり」


 ようやく納得できた。確かにダンジョンは、作った人間が修行する場所だ。


「しかし、それだけのものを作るのは大変だなあ。ただでさえ、覚えることが出来る魔法は限られるのに」


 魔法を覚えるには、命をかける必要がある。高い確率で、失敗して死ぬからだ。


 限界も、直ぐに来る。優秀な魔法使いが生涯を懸けても、両手の指で数えることが出来るほどにしか、魔法を覚えることが出来ない。


「ダンジョンを作る、という限定的な魔法があるのでありますよ。人の身を超えた、膨大な魔力が必要でありますが」


 魔力の蓄積された場所だから使える、ということか。


 一つぐらいなら、変な魔法でも覚える価値があるだろう。強くなるためだ。


「注意点が一つ。ダンジョン内の全ては、マスターが自らの魔力で作っているであります。つまり、何かを壊したり、魔物を倒したりすると、使用した魔力がマスターに還元されるであります」


「へえ」


「壊せば壊すほど、殺せば殺すほど、マスターが強くなると言うことでありますな」


 何も壊さず、平和に奥まで辿り着くとダンジョンマスターは最弱になる。


 全てを壊し、破壊神のように進んでいくと、最強のダンジョンマスターと戦うことになると言うわけだ。


 これはいいことを聞いた。


「ところで、魔物ってなんだっけ?」


 異種族とは違うのか?


「……簡単に説明すると、知恵を持つ化け物が異種族。知恵を持たない化け物が魔物でありますよ」


「わかりやすいなあ」


 話しかけてみて、無視をされたら魔物だと思えばいいのか。


「参考になったよ、フィアは優秀だな」


「こ、光栄であります。とても嬉しいでありますよ」


 でも、これは一般常識レベルでありますよ……。


 そんな、小さい声が聞こえた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る