旅は道連れ自由へ道連れ

 


「さて……」


 フィアに連れられて、用意された男子寮に戻ってきた。


 入り口を開けて中に進むと、いつもはいたルームメイトがどこにもいない。


 どこかに外出しているのだろうか。都合がいいので、このまま顔を会わせないように。


「じゃあ、行くから」


 何故か中まで入ってきたフィアに、一応の挨拶をする。


「どうしたでありますか?」


「戻るんだよ。ぼくはこの寮に、住んでいないんだ」


 この部屋は、名前も知らないルームメイトが独占していればいい。


 二人用の部屋を一人で使えるんだから、文句はないだろう。


「し、しかし。お婆様は、この寮に住めと!」


「そこには頷いていない。ぼくが約束したのは、お前に成果をくれてやることと、魔法を覚えることだけだ」


 返事を聞かずに、出て行ったのが悪い。絶対に受け入れる気はなかったけど。


 許せることと、許せないことがある。


「では行くよ。そのうち連絡するから、呼び出したら集合するように」


「ま、待つであります!」


 躊躇わずに逃げようと思ったが、慌てて手を掴まれた。


「折衷案であります。この寮に住まなくてもいいから、自分を連れて行ってほしいであります!」


「ええ?」


 嫌だが。


「迷惑はかけません、お世話にもなりません。ただ傍に置いてくれれば、それでいいのであります!」


 それが嫌だと言うのだ。


「自分は、先生から学ぶ必要があります。少しでも、欠点を克服したいのであります」


 その向上心は立派だが、ぼくになんとか出来る問題とも思えない。


「ぼくの傍にいても、意味がないよ。役に立てるとは思えない」


「そんなことは、ないのであります! 少し接しただけでも、先生は凄いとわかるであります。自分に足りないものを、多く持っている」


 フィアに足りないもの。それが何かはわからないが、ぼくは持っているのか。


「本当に邪魔をしないか?」


「約束であります。このままではお婆様に怒られますし、職務怠慢になるでありますよ」


 それは知ったことではないが、こいつの欠点を治す手伝いになるのなら。


「では行くぞ。ルームメイトには、何も言わなくていいか」


 戻ってきた以上は、この部屋にぼくの痕跡が残る。


 なにがあったのかと、困惑しないといいが。一度戻ったと、書置きをしておこうか。


「大丈夫でありますよ。彼女なら、事情を理解しているでありますから」


「そう」


 何か手を打っているのか、関係者なのか。


 大丈夫と言うのなら、それ以上は踏み込むまい。


「じゃあ……」


「玄関から出るであります。窓から飛び出る必要はないでしょう」


 先に釘を刺されてしまう、せっかく窓から飛び出す楽しさを覚えたのに。


 しかし、よくわかったのものだ。フィアは鋭いのかもしれない。



 ★



「と、いうわけなんだよ」


 フィアと二人でエキトの店に戻ると、事情を聴かれたので説明をしている。


 一人で戻ってくると思っていたら、おまけが一人ついていたので気になったのだろう。


「そうか、まあそれは問題ないよ。それより……」


 エキトは、ぼくからフィアに視線を移す。


「大統領の孫娘か。俺も少しは、事情を知っている。個人的には協力したいと思っているよ。この店に住むことにも、文句は言わない:


「礼を言うであります。これから、お世話になりますね」


 思ったよりも、二人は友好的だ。少なくても、セカイよりは受け入れやすいのだろう。


 始めにあんなものを見てしまったら、小物なんてどうでもよくなったのかもしれない。


「協力したい? なんで?」


「偉大な先輩に挑む身として。あとは、副大統領の孫は未熟だからね。俺も一国の大統領には、相応しくないと感じているよ」


 その言い方だと、フィアは大統領に相応しい逸材のように聞こえる。


「フィアは逸材、いや傑物だよ。大きな欠点がなければ、確実に次期大統領に相応しい実力だ」


「へえ、大きな欠点とは?」


「それは……」


 エキトが軽くこたえようとして、フィアの声に止められる。


「待ってほしいであります。それは、いつか自分が伝えるでありますよ」


「……そうか、わかったよ。まあ、時間の問題だろうね。直ぐに分かると思うよ」


 含みを持たせたその言葉に、ぼくは納得するが。


 どいつもこいつも、ぼくに期待をさせて。


 どんな楽しい理由か、本当に楽しみになってきた。

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