見逃せない報酬
「なんで戦果を挙げる必要があるんだ?」
疑問はたくさんあるが、そこから聞く必要があるだろう。
大統領の孫が、名誉や称賛を必要とする理由。面倒な政治が絡んでいそうだな。
「アタシは、次の大統領にフィアを選びたいからさね。裏の大統領に選ばれる基準は一つだけ、圧倒的な強さだ。並ぶものがいないほどのね」
それには、年齢も性別も関係ない。
……成程ね。強さの証明がほしいわけだ。それには強い奴を倒す必要があるのだと。
「勿論、十年は先の話だ。欠点なんて長い目で見ればいいと思っていたが……」
「対抗馬が現れたってところか。副大統領とか?」
「ああ。フィアには圧倒的な強さがないから、自分の孫が相応しいと主張しているさね」
詳しいことは知らないが、欠点のある奴は大統領に相応しくないと思っているのだろう。
なにもおかしなことはない。より優れたものを、国の長にしたいのだろう。
「それじゃあ、駄目なのか?」
「駄目だね。最強じゃないのなら、アタシの座は譲れない。今のアメリカで、アタシより強いのはフィアだけだ」
そこまで断言できるのか。
それが事実なら、妥協はしたくないのだろう。
「それでもアタシには、孫の欠点を克服させることが出来なかった。その役目をあんたに頼みたい。それが無理なら、パーティーで大きな戦果を挙げてほしい」
フィアの欠点なんて治せる保証はないが、いざとなったら誰かになんとかしてもらおう。
強い人間には、たくさん心当たりがあるから。
「さっきも言ったが、時間はある。あんたがアメリカから出ていく時までに、果たしてくれればいい」
……成程な。無理な願いでは、ないか。
「見返りは?」
「ワールド・バンドに会わせるよ。アメリカのね」
ここでその名前が出るのか、確かに学院長の友人らしい。
その条件を出されてしまえば、断る理由はなくなる。
なにしろルシルが役に立たないのだ。自分で動かなければ、永遠に目的は果たされないだろう。
「わかった、約束しよう」
「そうかい、感謝するよ」
重荷を下ろせたような顔をしているが、それは結果が出てからにして欲しい。
いざとなったらエキトに魔道具を借りて、ダンジョンの全てを破壊しようかな。
「ここまでが一つ目の頼み事だ。二つ目は、あたしたちの魔法を覚えてほしい」
いつもの頼み事か、また師匠が増えるらしい。
「魔法を使うものの端くれとして、家の魔法を残しておきたい。それに、あんたを身内にしておけば、安心できるさね」
魔法社会では、師匠と弟子は家族のようになる。それが一般常識だが、ぼくはそれに当てはまらない。
魔法を覚えるだけのことに幻想を抱いてないので、必要とあれば簡単に裏切る。
でもそれは口に出さない。話がこじれそうだし。
「この剣を」
コーラスは魔法で一振りの剣を生み出し、机の上に置いた。
「この剣で、千匹の魔物を狩ること。それが習得条件さね。剣を作る魔法を、覚えることが出来る」
「見返りは?」
千匹も狩るのか……。面倒で嫌だなあ。
「残りのワールド・バンドのメンバーの居場所を教えるさね。案内は出来ないけどね」
「残りって、全員? どうやって知ったんだ」
「さあね、それは成功報酬さね。どうするんだい?」
成功報酬か、あまり信用できないな。
裏でも大統領の立場なら、簡単に約束を反故にはしないと思うが。
「……嘘だったら、学院長の力を借りるけど」
遠回しに、この国を滅ぼすと脅してみる。
「構わないさね、アタシは嘘なんてついていない」
そこまで自信満々に言われては仕方がない、信じてみるか。
「契約成立だ、この剣は借りるよ」
返さないと思うが。
「あげるよ、返さなくてもいい」
「そうかい」
なら返さない。
「大統領。そろそろ、お時間であります」
今まで黙っていたフィアが、終わりの時間を知らせる。
「そうかい、わかったよ。……今日からは寮の部屋に帰るんだよ、逃げないように孫に見張らせるからね」
「疑うんだな」
「あんたは油断ならないって聞いているからね。それにフィアのことを知ることで、欠点を治す糸口を見つけるかもしれないだろう?」
言いたいことだけを口にして、コーラスは指導室から姿を消した。
「迷惑をおかけして、申し訳ないであります。それでは、寮に戻りましょうか」
どうやら寮の部屋まで送ってくれるらしい、住んでいるルームメイトもびっくりするだろう。
もうどんな姿だったかもうろ覚えだが、小心者だったので気絶するかもしれない。
さて、楽しくも面倒になってきた。ダンジョンとは、どんな場所だろうか。
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