エピローグ3
「まあ、そんな話はどうでもいい」
語っていてもいい気分にはなれないし、わざわざこんなところで暇をつぶしている理由は、ちゃんとあるのだ。
「お前がくれたロザリオ、役に立ったよ」
「『滅魔のロザリオ』か、それはよかった」
あまりよくはない。
ロザリオを渡されたとき、これは気休めでしかなく、ほとんど効果もない、お守りのようなものだと言われた。
何故なら信仰心を力にするものだから。神のいない世界では、力を発揮できないものだと。
それなのに、リフィールに与えられた悪魔の血を浄化し、奴の攻撃からぼくを庇った。
とても役に立った、強力な魔道具だったのだ。
「なんでだ? お前の話から考えると、本当はどこかで神が生きているとか?」
「まあ戦いに関係のない神は、少しだけ生き残っているけどね」
気が乗らないと言いたげなエキト、あまり説明をしたくないらしい。
「このロザリオは、主神と呼ばれていた神への信仰心を力にする。他の神への信仰心なんて、全く関係がない。その主神は確実に滅んだから、ロザリオが効果を発揮するわけがない」
「結論を言え」
「『滅魔のロザリオ』は、本来とは違う発動の仕方をした。そして本来とは違う効果を発揮した」
「は」
なんだそれは、つまりは不良品か?
エキトにしては珍しい。こいつは危険なものを集めても、異常なものは集めない。
最もその二つを分ける境界は、とても曖昧なのだが。
「そもそもこのロザリオは、あくまでも悪を滅するものだ。攻撃や魔法を防ぐ力なんてないんだよ」
本来の用途は武器らしい。ナイフや拳銃と同じ、悪魔を攻撃する武器だと言う。
ロザリオを握り締めて悪魔を殴ることで、凄い威力を発揮する武器だと説明された。
「あの悪魔が色々とイレギュラーだったのは認めるけど、例えば悪魔の血を浄化する力なんてないんだよ」
攻撃もそうだ。魔力や魔法は、『悪』という分類ではないのだと。故に防いだりはしない、持ち主を庇いはしないのだ。
「じゃあなんだよ、言っておくが嘘はついていない」
「信じているし、実際に映像も見た。なによりも返してもらったロザリオから、ほとんど魔力が消えているんだ。無限を疑う余地はないよ」
さらっと言ったが、こいつも映像を見たのか。
「あくまでも仮説だけど、俺には一つだけ用意できる答えがある。幻想的な答えで、俺でも聞いたことがないようなおとぎ話だけど、聞くかな?」
「ああ」
「『滅魔のロザリオ』が、自分の意志で無限を助けたんじゃないかな?」
「何言ってんだ?」
物に意志があるとでも言うのか。そんなことは有り得な……、いこともないのか。似たような奴がケーキを買いに行っている。
「魔法にも意思があるように、魔道具にも意思がある。それを作り出した魔法使いの、ね。だからこそ魔法を覚える難易度も人によって違うし、魔道具を使える難易度も違う」
ああ、そんなことを聞いた覚えがある。
魔法に認められた人間だけが、習得できるとかなんとか。
そんな与太話のことか。
魔力量で決まるのは魔法を覚えられる数と、習得に失敗した時に死んでしまうかどうか。
そんな説を聞いた気がする。
「つまりロザリオが自分の意志でぼくを助けたと。面白い話だが、道具に勝手に動かれると困るんだが」
肝心な時に魔力切れになってもらっては困るし、次はもっと変なことをされるかもしれない。
「勿論、動くための力は必要だ。今回の場合は、信仰心だろう。これも仮説だけど、悪魔と戦った時を思い出してくれ」
思い出すか、もうほとんど忘れたんだよなあ。
「無限は悪魔に変わるのを拒絶して、自分は人間だと叫んでいた。つまりは、自分を信仰していたんじゃないのかな?」
「意味が分からない」
自分が人間だと思うことが信仰なのか、お手軽にも程があるだろう。
「神に祈ることも、自分に祈ることも大して変わらないよ。ようは信じる事なんだ」
「信じることが信仰心?」
「ちょっと違うか、狂的に何かを信じるのが信仰心だ。そうに決まっている、そうじゃなければならないと、心の底から思うことが信仰心だ」
「それは狂信者では?」
少なくてもぼくは、そんなに強く何かを思ったことはない。
「信者と狂信者の違いは、行動によって決まる。神への信心の話なら、狂っているほどの思いのほうが、素晴らしいに決まっているさ」
ただ祈るだけなら罪はなく、また狂うほどの思いのほうが強いものだと。
……そうかもしれない、いつだって思いこそが力だと思いたい。
意志の力が、全てを変えるのだ。いい意味でも悪い意味でも。
「そんな無限の自分を信じる意思が信仰心だと判断されて、その力でロザリオが動いた。どうかな、この仮説は?」
「さあ」
なんて言えばいいのだろうか。自分に狂っている愚か者だと言われた気分だ。
道具は道具であればいい、本来の使い方以外の行動はとらないで欲しい。混乱するから。
「ははっ。そのうち無限の覚えた魔法の数々も、自らの意志で行動するかもね」
「そうなったら、絶対に嫌だ」
まあ魔力がないんだから、勝手に動くことなんて出来ないだろうが。
……安心はできないな、覚えただけで毒が効かなくなる魔法もあったし。
一つ言えることがあるとすれば、エキトとの会話は全て想像であり空想だと言うことだ。
全く違う、順当な理屈がどこかにあると嬉しい。
もしもこの話が全て事実なら、さらに面倒ごとが増えそうだからなあ。
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