エピローグ1
早いもので、あれから一週間がたった。ぼくたちの周りはいま、大忙しで困っている。
今日も朝から、ルシルは学院中を飛び回り。ぼくとフルーツは、エキトの店でのんびりと過ごしている。
明日にはイギリスとお別れをしなければならないが、未練もなければ、やり残したこともない。
何が言いたいのかといえば、忙しいのはルシルだけだと言うことだ。ぼくとフルーツは暇をしている。
「お前は忙しそうだなあ」
さっきから眺めていると、エキトも忙しそうだ。
こいつにも、何かがあったのだろうか?
「そっちこそ、何で暇そうなんだよ? 明日にはアメリカだよね?」
そうなのだ。だからルシルを見習って忙しくてたまらない、というようにしたいのだが。
あいにく、なにもやることがない。暇だ。
「しばらくの別れを告げたい人とか、最後にもう一度食べたいものとかないのか?」
「ないな」
あるわけがないし、必要ならフルーツにでも用意させる。
そもそも魔法で戻ればいいだけだろう。そんな普通の人間みたいなことを言われても困る。
「だったら、なんでこの店に来たの」
「暇だからだ」
今は危うい状況だから、必要以上に外に出るなとか。
影響力がありすぎるから、絶対におかしな真似をするなとか。
とにかく今は制限が多すぎるのだ。
ルシルの家にいると、ストレスの溜まっている家主に何をされるかわからないし。
「これだけ状況が動いてしまったのに、暇だと断言できるとは凄いな」
「褒めるなよ、それよりも面白いものはないのか?」
「悪いが、俺は忙しいんだ。今から父上の所に行くんだよ」
本当に忙しそうだ、ぼくたちよりもエキトの方が気になる。
「留守番を頼むよ、客が来たら適当に相手をしてくれ」
「わかった、お前を見習うよ」
エキトの真似は簡単だ、何もしなければいい。
客は滅多に来ないし、たまに訪れても商品に驚いて逃げかえる。
その様子をニヤニヤと見ていればいいのだから。
「仕方ない。フルーツ、コーヒー」
「わかりました。それにしてもお兄ちゃん。そんなに退屈なら、最近のことを振り返ってはどうですか?」
「過去は振り返らない主義なんだ」
あんまり覚えてないし。
「少しでも振り返りましょう、本当に色々あったんですからね。フルーツも飲み物を用意したら、お手伝いします」
必要がないと言っているのに。フルーツは言いたいことを口にして、キッチンに向かってしまった。
仕方がない。無理をしない程度で、少しだけ振り返ってみるか。
★
そう。全てを諦めて、ルシルに連行された後の話だ。
戦場に戻った時には、全てが終わっていた。
全ての敵は気絶していて、無事だったのはシホだけ。学院長はどうなったかと、辺りを探してみる。
すると突然現れた血塗れの扉から、背中を押されるように現れた。
本人も一部の隙もないほどに赤く染まっていて、それが自分のものか返り血かもわからない。
直後に倒れてしまったことで、ようやく危険な状態だと気づいたほどだ。
魔法による回復の全てが意味をなさない、直ぐに医務室に運ばれて緊急治療に入った。
数日後に聞かされた話だと、手の施しようがないらしい。
あまりにも高密度、解析不能の魔力で攻撃された結果。
一切の治癒は不可能で、会話をすることも指先一本動かすことも出来ないらしい。
もちろん魔力もすべて失っていて、生きていることが有り得ないと、医者から太鼓判を押されたぐらいだ。
それでも本人の規格外すぎる実力のおかげで、ほんの僅かではあるが回復に向かっているらしい。
血縁であるルシルが、魔力を与えたとかなんとか。詳しいことはわからないし、興味もない。
大事なことは、なんとか生きていると言うこと。願わくば、ぼくの質問に答えられるぐらいには回復してほしいな。
「どこまで思い出せましたか?」
そこまで考えて、飲み物を持ったフルーツがやってきた。
考えていた内容を説明すると……。
「グリュークスも一役買ったみたいです。あの子は可愛いし、凄いんですね」
フルーツは嬉しそうに、グリュークスを褒めている。
なんだかこの二人は仲がいい。その理由を尋ねたら、なんだか気が合うのだと言われた。
似た部分があると言うか、お互いに気持ちが分かるらしい。深くは聞かなかった、面倒な予感がしたから。
「ならクーデターの話ですね」
「そうだな」
結局のところ、クーデター派の被害はゼロだった。ジャッジは含まれない、あれは雇われだから。
学院側の被害もゼロだ。ジャッジの被害もリフィールの被害も、奴らを倒すことで全てが解決し、元に戻った。
学院の外の被害だって、リフィールがどれだけ危険な悪魔だったか。学院の人間が責任をもって倒したことで、大きな問題にはならなかった。
力を持つ魔法使いや、暴走した異種族が襲ってくるのは日常茶飯事だからだ。
今回の件はむしろ、最終的な被害が少なくて評価されたほどらしい。
「あとは、なんだっけ?」
「クーデター派の人間は、どうなりましたか?」
教え導くような口調がムカつく。まさか、ぼくの姉にでもなったつもりか?
まあそれは後でいい。
クーデター派の主だった人間は、魔法政府に連行された。
奴らは奴らの主張をしていたが、その全ては却下された。
そもそも学院長のことも、イギリス校のことも魔法政府が認可しているわけだし。
クーデター派の行動も、異種族と手を組んだり生徒にまで被害を出したジャッジを雇ったこと。
なによりも、学院長たちに実力で負けたことによって、完全に全てを否定されたのだ。
その代償として、本来なら処刑まで有り得たらしいのだが、シホが止めた。
その結果、財産の没収と権力の減少。ついでに日本で行われている、異種族との戦争に参加させることで決着がついた。
「何でアイツなんだ、本当なら校長とか教頭が決めるんじゃないのか?」
「派閥が違いますからね、口を出せませんよ」
「まあ今回の件にも協力してなかったからな、弱すぎて協力できなかったんだろうが」
一番初めから、ジャッジに負けていた。役立たずにも程がある。
まだ主席くんたちの方が役に立ったぐらいだ。
……さて、あとはなにを思い出せばいいのかな?
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