味方同士で殺し合い

 


「いつまで見ているんだ、お前たちも行ってこい」


 ぼくの周りで観戦をしている、強い魔法使いどもを追い払う。


 まったく。こんな楽しいお祭りに、参加しないなんて罰が当たるぞ。


「わかりましたよ、行きますよフルーツ」


「嫌ですよ。フルーツは、お兄ちゃんを守るのですから」


「いいから来なさい!」


 本格的に反抗期に入っているフルーツを連れて、ルシルは戦いに向かった。


 敵はどいつもこいつも怯えているか、建物を破壊できないことに戸惑っているので狙い放題だ。


 ぼくは決して動こうとしないエキトに、目を向ける。


「お前は何故行かない?」


「行かないんじゃない、行けないんだよ。魔法の負荷が大きすぎてね、実は一歩も動けない」


 その言葉に納得する。確かにこれだけの範囲、これだけの人間が死なずに済むフィールドを作るのは、大変だろうと。


「そうか、なら一緒に見物しようか」


「そうしよう」


 ぼくらは二人並んで、戦場を見渡す。


 ルシルとフルーツは、まるで八つ当たりのように広範囲の敵を殲滅していて。


 学院長とシホの戦いは、どこまでも激化していく。


「ははっ、どうしたんだい? 一撃も当たらないなあ」


「ならば、これはどうだ!」


 学院長の挑発に、簡単にシホは答えた。


 少し距離を取り、エネルギー弾のようなものを、両手から無数に放つ。


 その攻撃を学院長は全て、両手で無差別の方向に弾いている。


「……あの男は魔力を使えないんだよな、何故簡単に魔法を弾けるんだ?」


「無傷なわけじゃないよ、一発ごとにかなりの魔力を削られている。平気そうに見えるのは魔力量が膨大なことと、鉄の精神力のおかげだね」


 なんて男だ。魔力が削られることへの激痛と虚脱感など、心一つで無効化しているのか。


 そして弾かれたエネルギー弾によって、周囲どころか敵全体の数がどんどんと減っていく。


 かなりの威力が込められているのだろう、エネルギー弾一つで数人以上が意識を失っている。


 既に全体の半分以上が、奴らの戦いの巻き添えで倒れていく。


 そして……。


「きゃあああ!」


 その一つが、フルーツに直撃した。


 一つなら問題はなかったのだろう。


 さらに二つ三つと増えていき、ついに意識を失ってしまう。わざと狙っているんじゃないだろうな?


「フルーツ、大丈夫ですか? ムゲン君、この子を頼みま……」


 倒れたフルーツに駆け寄ったルシルが、強張った顔をして何かに気づく。


「エキト、エキト! この子、死んでませんか?」


 フルーツの身体を連れて、ルシルがぼくたちの近くに転移して来た。


 その動揺は強く、エキトに詰め寄っている。


「うん? ああ、死んでるね」


「どういうことですか、気絶するだけで死ぬことはないのでしょう!」


 確かにそんな話だったはず。これでは事情が変わってくる。


「フルーツが特別なホムンクルスだったことが、災いしたみたいだね。体には別状がなくても、魂がどこかに行ってしまったみたいだ」


 やれやれと苦笑するエキト。


 確かにフルーツの身体は無傷のようだ。つまりはまた、キリの所に魂が帰ってしまったのだろう。


 あいつは里帰りが好きなようだ、これだけ頻繁だとキリは喜んでいるだろう。


「どうしてくれるんですか! フルーツも心配ですし、また私がキリの所に行くことになったじゃないですか! 責任を取る意味で、少しぐらい酷い目に遭ってもらいますよ」


 目を細め、剣呑な気配を漂わせてエキトを狙うルシル。


 そこにぼくが、仲裁の声をかける。


「まあ待て、エキトを責めても仕方がないだろう?」


 エキトに責がないとは言わない。でも今はもっと相応しい男(サンドバック)がいるじゃないか。


「いいか、間接的にフルーツを殺したのは、ぼくの義父だ。シホと二人で痛い目に遭わせるといい」


「……そうですかそうですか、ただでさえ少ないご先祖様への敬意を、更に減らしてくれたんですね。わかりました、私も行ってきます!」


 フルーツをその場に置き去りにして、ルシルが一直線に学院長の元へ向かう。


 これで戦いは更に激化するだろう。果たして怒り狂う一流の魔法使いを二人も相手にして、魔法を使わない学院長は勝利できるのだろうか。


「助かったよ無限。でもいいのかな?」


「何も問題はないし、あったとしても知らない。見るといい、あんなにも喜んでいる」


 ぼくが指さした方向で、奴らは暴れまわっている。


「ご先祖様、たまには私も構ってくださいね!」


「ははっ、もちろんだとも。君はいつも頑張っているからね、たまには私が構ってあげよう」


「待て。このわたしとの戦いは、まだ終わっていないぞ!」


「わかっているさ、二人同時で構わないよ。それでも私には勝てないと思うけどね」


 戦場は恐ろしいことになっている、敵の数は加速度敵に減っていく。


 三つ巴の戦いは、どんどんと規模を拡大しながらヒートアップする。


 燃える星を落としたり、光の速度の攻撃を使っても学院長には致命傷にならない。


 魔法を使わなくても、五分の戦いをしているようだが。でも実際には、少しずつ追い詰められていた。


 始めに比べて、確かに学院長の動きは鈍くなり。そしてルシルとシホは存外に仲がいい。


「行くぞルーシー、勝ち目はある!」


「勿論です。即興ですが、私たちの相性は悪くないみたいですね。私の妹の仇は取らせてもらいますよ!」


「ははっ、楽しいなあ。君たちがこんなにも強くて、私は本当に嬉しいよ。大好きだなあ、君たちが」


 疲労困憊になりながらも、朗らかに笑う学院長と。


 肩で息をしながら、目をギラギラと輝かせるルシルとシホ。


 突然乱入したら、今のぼくでも勝てるんじゃないかと夢を見る。そのぐらい楽しそうだ。


「それはさておき」


 魔法を使わない学院長が、この二人と互角に戦っているのが恐ろしいのか。


 それとも手加減しているとはいえ、最強の魔法使いを相手にして、有利に戦っているルシルとシホが凄いのか。


 その判断は難しいなあ、なんて考えているとそれは起こった。


 ぼくと学院長の二人を残して、この青き星の時間が止まったのだ。

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