魔力が作られる場所はどこなのかわかっていない

 


 ぼくは血液をとられて、それをキリは人形に染み込ませる。


 どうやって魂を定着させるのかと思っていたら、急にフルーツの魂が入っているフラスコを破壊した。


「おいおい」


「大丈夫さ、魂の行き先は作っただろう。これでフラスコから移動する」


 キリの言葉が正しかったようで、マネキン人形が急に白い光に包まれる。


 光が消えた時には、マネキンは今までのフルーツの外見に変わっていた。


 いや、少々違う。


「成長しましたね、今は十四歳ぐらいですかね?」


 顔の造形や、身長を中心として手足なども大きく長くなっている。


 そのうち身長を抜かされる日も来るのだろうかと考えていると、フルーツは目を開いた。


「お目覚めだね、具合はどうだい?」


「そうですね、少々体が重いですし、動きにくいので慣れが必要ですね」


 フルーツは立ち上がり、体を動かして状態を確認する。


「それは当然だね、いきなり体が成長してしまえば違和感は大きいさ。ついでに言うと魔力量も増大しているのでね、戦いにも違和感を感じるだろう」


 ほう、体が成長すると魔力も増えるのだろうか?


「それならもっと自爆してもらって、とっとと成長の限界まで……」


「残念ながらそういうわけじゃない、確かに年齢と魔力量は比例して上がっていくが。この子の場合は魂の成長が体に影響しただけに過ぎない」


「つまり?」


「例え体を成長させても、魂が成長していなければ魔力の量は増えたりしないのさ」


 なんだつまらない、急激な成長は出来ないと言うことだろう。


「でもそれだと、魔力は魂に宿ると言うことか?」


「ワタシの子供たちはそうだな。でもそれ以外の生物はそうとも言い切れない。単純にこの子たちは魂の存在だから肉体の影響が少ないだけなのだろう」


 つまり、元々体を持たず魂だけで生まれてきた存在だからこそ、様々なことが魂に依存するのだろう。


 人間のように体と魂を同時に持って生まれてくるのなら、魔力が体に宿っている可能性がある。


「だが、魂だけで生まれてきた存在に魔力が宿っているのなら、体ではなく魂に魔力が宿っている証明になるんじゃ?」


「そうとも言い切れない。ワタシの子供達には重大な欠陥があるからね」


 欠陥? それはつまり、早死にするとかか?


「本来人間などの生物は、持てる魔力量に限界などないんだ。理論的な話をすれば無限の魔力だって持てるだろう。だが、この子たちは一流の魔法使い、全盛期を迎えても超一流の魔法使いまでの魔力量しか持つことが出来ないのさ」


 十分な気がするが。


「それが何故なのかという推測はいくつかあるが、魂とは本来魔力を宿す場所ではないのでは? という説が有力だな」


「まあ、それもなんの確証もない暴論ですけどね。でも実際にあり得ない説ではありません。たとえば人間は基本的に心臓の辺りで魔力を生成していると判明していますが、私は全身の中で両手を含め八か所で魔力を生成しています」


 体のどこかで作られているのか、それとも魂で作られているのか。


「他にも無機物に魔力を作る機能を持たせることも出来る。魔道具なんてその典型だな、あとはどこかもわからない別世界から魔力が供給されている、なんてとんでも理論もあったな」


 つまり、魔法使いの魔力は自分で作っていると思い込んでいるだけで、実際は誰かに与えられていると言うことか。


「ま、そういうことだ。一面だけで判断できないほどに、魔力と言うものは不思議に満ちている。決めつけることは出来ないさ。他に質問はあるかな?」


 この話題はもういいが、もう一つ気になることがある。


「キリが錬金術師の中で異端と言うのは?」


「ああ、大したことじゃない。ただの方法論の話さ」


 くだらないというふうに、首を振った。


「普通の錬金術師は、人間と同じ体と魂を持ったホムンクルスを作ります。それは人間に近づけたいという意図もありますが、単純に技術が低いのが大きな理由です」


 まあ、フラスコから生まれてくるホムンクルスってそういうイメージだよな。


「でもキリは魔法によって、完璧な人間の体を作ることが出来ますので、その専門は魂の研究なんです。そのアプローチの違い、内容を問わなければホムンクルスを簡単に作れる才能、魔法使いとしての知名度、全てにおいて異端の錬金術師なんですよ」


 簡単に言うと、今の錬金術師はホムンクルスを簡単に作れているわけではないのか。


「それともう一つ、本来ホムンクルスとは短命ですし、とても人間だと認められる存在ではないのです。あくまでも人工生命体と考えられています」


 まだ欠陥品だと言うことか。


「ですが、キリのホムンクルスは完全に人間です。政府にも認められていますし、寿命の問題もありません。ムゲンくんはフルーツのことを人形と呼びますが、実際には本当に人間なんですよ」


 生物的な機能としても、感情的な問題としても人間そのものらしい。


 でもまあ、ぼくからすると実際の所なんてどうでもよくて、人が作っているのなら人形だろうという考え方からそう呼んでいるのだ。


 政府がどうとかなんてどうでもいい、ぼくはその事実を重要視しているのだから。


 だが別に人形を下に見ているわけではなく、人間と大きな違いがあるなんて思ってもいない。


 事実は、ただの事実だから。

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