やられたら、やりかえせ!
「では着いてきてくれたまえ、はぐれたら命の保証はできないよ」
戦いに参加していた、キリの作品たちやルシルの暴れっぷりによって壊れてしまった城の後始末を終わらせると、キリはぼくたちを案内することにした。
ちなみに、キリはなにもしなくて、大体が新しく現れた作品たちの活躍だ。
それはともかく……。
「待ってください、私はまだこの女に負けたなどと認めてはいませんよ!」
いつまでもやかましいやつで、いい加減鬱陶しさがぼくの許容量を超えた。
「……あ!」
ぼくはあらぬ方に向けて指を向けると、ルシルとキリの視線が釣られる。
そのとき、ぼくはルシルに持たされていたハンドバックを振り上げると、その角をルシルの頭に直撃させた。
「あいたあ!」
思ったより軽い音だった、不思議に思い中を確認すると重い物など全く入っていなかったようで、気絶するほどの威力など出なかった。
「あれ、なんで気絶しないんだ?」
「当たり前じゃないですか! そのカバンは私が魔力で強化したからこそ、あれだけの威力が出たのです」
ぼくの疑問に、光速の勢いでルシルが突っ込んだ。
「そうなのかい? それならワタシが強化してやろう」
横で聞いていたキリが、気を利かせてルシルのハンドバックを極めて強化してくれる。
「余計なことを! む、ムゲン君? まさか、もう一度なんて言いませんよね?」
ルシルが慌てているが、ぼくは一切の動揺をせずにもう一度カバンを振り上げる。
「わかりました、わかりましたから! 私は黙ります、だから止めてください!」
言い訳もやかましいのである。
「黙れ」
ぼくは無慈悲に、ルシルの頭に強化されたハンドバックの角を叩きつけた。
★
「いやあ、一切の容赦がないのだね。ワタシはオマエが大好きだよ」
数分間にも及ぶ大爆笑を終えると、シホは心底からぼくを称賛した。
ちなみに、気絶しているルシルのことはその場に放置した。
起きたら、頑張って追いかけてくるだろう。
「もしかして、オマエはミルトが嫌いなのかな?」
何を勘違いしたのか、キリがぼくのことを誤解している。
「まさか、好きでも嫌いでもない」
ぼくは本心を口にする。
「だが、オマエはあの女の弟子なのだろう? 何か惹かれる物でもあったのでは?」
「そんなものは一切ない。単純に、成り行きだよ」
同情とも言う。
「そうか。師弟関係になっても、同じ時を過ごしてもオマエの心は一切の変化をしないのだな。ますます好感を抱くよ」
「何故?」
「これでもワタシは心の専門家でね、オマエのような心の動きは初めて観測するのだよ。いい意味でも悪い意味でも、生物の心は環境によって変化する」
幸福な場所で生きていれば、善なる心に育つ。
不幸な場所で育ってしまえば、悪なる心に育つと言うこと。
「それなのに、オマエの心はどんな時どんな状況でも揺らぐことがない。悪い意味ではないが、本当に人間なのか、生物なのか疑わしいほどだ」
外から見るとそういう風に感じるのかもしれないが、ぼくの心は簡単に揺らぐ。
まあ、それが他者に向くわけではなく、自分に対してだけのものだが。
それは気まぐれな行動に直結する。
「だが、その何物にも揺らがない心と言うのは、ワタシにとっての一つの理想でね。我が子のマスターには是非持っていて欲しい素質なのだよ」
なにか、まずい流れだ。
今のところ、フルーツがどれだけ勝手なことを口にしても、本当のマスターはルシルだ。
それなのに、なにかがきっかけでキリ直々に変更されそうな雰囲気を感じる。
さっきから、城の中を会話しながらだらだらと歩いているが、いい加減無言になっておこう。
「うん? どうした少年、急に静かになってしまったじゃないか?」
「気にしなくていい、それよりまだ着かないのか?」
「ああ、そろそろだよ。それよりも、もっと気になるものが目の前に現れたよ」
「あ?」
ぼくは視線を合わせないように下を向いていたのだが、正面に向けてみる、
そこには、ぼくたちを追い越したのか、ルシルが先にいた。
「あなたたち、何故私を置いていくんですか!」
さっきまであんなに鬱陶しかったのに、今は少しだけありがたい。
キリの相手は、こいつに任せよう。
「うるさいぞ。無様に気絶していたくせに」
「ムゲンくんが気絶させたんでしょう! 傷は治しましたけど、すごく痛かったんですよ!」
ぼくもほとんど同じことをされているのだが。
何を自分だけ被害者面をしているのか。
「しかも、私を放置しましたね。起きた時、凄く寂しかったんですよ!」
本当にやかましい。
こんなことなら、気絶している間に天空城から叩き落しておくべきだったか……。
自分の甘い対応に、少しばかり後悔する。
「言い争いはその程度にしたまえ、今からワタシの玉座を自慢するのだからね」
自信ありげな顔をして、キリは辿り着いた大きな扉をゆっくりと開く。
その中は薄暗く、たとえ危険があってもぼくには察知できない。
でも、そんなことに恐怖など感じない。
今のぼくは好奇心と言う名の、無敵な外装を纏っているのだから。
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