十の星々
「さあ、もうつきますよ」
色々と諦めて、目をつぶり眠ろうとしていたぼくに、ルシルから声がかけられた。
「あっそう」
「見てください、なかなかに見事ですよ」
眼を開き、正面を見ると、そこにはあまりにも立派な城が空に浮かんでいた。
それはいいが、上を向くと、真っ黒な宇宙空間が視認できる距離なのだが。
もう夜のはずなのに、星々の光が近いせいで逆に明るい。
いや、これは違う理由か?
「凄いな」
勝手な印象だが、ワークワース城を連想する作りに感じる。
なんでこんなところに浮かんでいるのだろう。
「あの子は相変わらず、趣味だけはいいんですから」
ルシルは呆れたように、ため息を吐く。
「あの子?」
「フルーツの創造主、人形支配者キリング・レイダーです」
そんな名前だったんだねえ。
「さあ、それならとっとと中には入ろう」
「無理ですよ、こんなところにあるせいか、あの城は厳重な結界に守られています。近づいたところではじかれて終わります。原則的に、転移する以外で中には入れません」
へえ、でも転移するのなら何故、こんなところにまで来たのだろうか。
ルシルの家から転移すればいいのに。
「いえ、私はキリの城に転移先を作りたくないので」
「じゃあ、どうやって入るんだよ」
嫌とか言われても、それでは中に入れない。
「こうします」
ルシルは、右手を前に出す。よく見ると、人差し指が赤色に染まっていた。
「力を貸しなさい、マーズ! あの城を落とせ、星落とし!」
人差し指を上に向け、城に向けて下す。
すると、頭上から、宇宙から赤く光る恒星が城に向けて落ちてきた。
その大きさは直径が一キロ程度ではあるが、常に高温で燃えていて城を覆っていた結界など簡単に壊し、城の最上階を破壊した。
普通なら、全てが消滅していただろう威力だと思ったが、それだけの被害で済んだのは城自体も強化されていたからだろう。
「さあ、行きますよ無限くん」
建物に入るだけのために、星を落とすなんて止めてほしいと思った。
★
結界の内側に入り、壊した最上階から城の中に侵入した。
そこは真っ当な城と同じような構造であり、豪勢な部屋の一室と言う感じだった。
「キリは玉座の間にいます」
ルシルはそう言って、直ぐに廊下に出てそこに向かう。
ここまで来ると、ぼくの好奇心も刺激される。
「さっきの魔法はなんだ?」
色々と疑問があるが、まずはそこから。
幸いにもこの城はとても広く、お喋りの時間は十分だ。
「あれが、私の得意魔法で『十の星々』といいます」
名前から想像できる、楽しそうな魔法だ。
「名前の通り、十の星の力を使って、様々なことに利用します。さっきのは右手の人差し指に宿る火星の力を借りました」
「そうなんだ、でもさ、それって火星を落としたってこと?」
「確かに火星には火を象徴する力がありますが、実際には変哲のないただの星でしかありませんよ。私が使ったのは、星そのものではなく、その概念です」
火星には火の力が宿っている。
そんなものはただの思い込みでしかなく、ルシルの力はその思い込みを使えるということらしい。
本来は赤い星とだと言う意味でしかなくても、人間はそれ以上の意味を持たせる。
そんな現実ではなく、概念を利用する魔法なのだ。
「私の両手、十本の指にはそれぞれに星の力が宿っています。その力とは単純にエネルギーとして利用することも出来れば、星の光を攻撃手段として使うことも出来ます。その力が宿った攻撃、魔力で作った星を落とすことも出来るんです」
つまり、さっきの星落としはルシルが作った小さな星に火星のエネルギーを込めた一撃だった。
一つの星のエネルギーを一度の攻撃に使う。その種類にもよるだろうが、一回ごとに星を砕くぐらいの攻撃をしなければ相殺することも出来ないだろう。
流石に世界最高の魔法使いだな、スケールがでかい。
「一度に聞いても全部はわかりそうもないな、それならこの城のことを聞かせてくれ」
「……まあ、確かに私の能力は応用が利きますからね。全てを把握なんて出来ません。この城でしたか? 確かキリの奴がどこかの魔王が所持していた城を奪い取って利用しているんです。あ、魔王ってわかりますか?」
「ああ」
「そうですか、最近の魔王は本当に弱いですからね。キリごときに簡単に滅ぼされて、その財産を根こそぎに奪われたんです、その一つがこの城」
魔王とやらはこんな時代に城なんて持っているのか。
ぼくらは長すぎる廊下を歩きながら会話を弾ませる。
「キリは敵が多すぎますから、地上を避けてこんな場所で住んでいるんです」
「なんで?」
「あの女は世界中に存在する錬金術師の異端であり、天敵みたいな存在ですからね。煩わしいんでしょう」
自分も錬金術師でありながら、全ての錬金術師の天敵であるらしい。
一体、どういうことだろう?
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