幕間13

 


「恥じるところがないだって?」


「ああ、そもそもぼくは自分が神崎家の人間だと思っていない。強いて言えば分家の人間だがな」


 それも納得しているわけではないが、育てられたのは事実だから。


「党首殿、そもそも我々分家は神崎家と藤崎家に友好関係があるという事実を知りません。それゆえにこのわたしも手を打つことが出来ませんでした」


「何が言いたいんだい?」


「今回の件はこのわたしや無限に責があるのではなく、本家の情報伝達不足であると考えます」


 おお、流石にシホは言うなあ。さっきから委縮して何も言わないルシルとは大違いだ。


「君は、僕に逆らうのかい?」


「当然でしょう? こちらはまだ無限を学院に送った釈明を聞いていないのだから。あなたはこのわたしに約束したはずだろう。無限が大人になるまで、ちゃんと保護してくれると」


「……成程、君だったのか」


「電話越しでしたから、このわたしを知らないのは当然でしょうが、分家の人間と約束したことはご存じでしょう?」


 実はかなり怒っているのかもしれない、シホがここまで苛烈なのは久しぶりだ。


「状況は変わったんだよ、それは神崎一族全体の大きな問題だ」


「面子のために無限を見放すことが? 外の世界に出したら危険だとわからなかったと?」


「だからこそ、この学院を選んだんだ。危険と安全を両立させている……。いや、この話はまた今度だ」


 確かに話がどんどん脱線していたからな。


「とにかく、無限は本家の血を継いでいる。故にいつ、どこにいても本家のルールには従ってもらう。神崎家は藤崎家と盟友関係にあり、お互いに助け合うなかだ。それなのに藤崎の人間を見殺しにした無限にはペナルティを負ってももらう」


「一応聞いてやろう、何が望みだ?」


 あくまでも一応であり、何かをしてやる気などないが。


「その前に……」


 またもやノックの音が響き、一人の男が入ってくる。


 その男に見覚えはないが、目の前の男と同世代に見える。


「藤崎宗吾だ、愚息が世話になったな」


 そう言って男の隣に座った。


「さて無限、もう一度聞かせてもらおうか? 今回の件、言い分はあるかい?」


「ないな、ぼくには関係がない」


 宗次の親を連れてきたからなんだと言う。ぼくの言葉は変わらない。


「まあそうだろうな、子供を失って悲しんでいる父親を目の前にしたって、なにも思わないことはわかっていた」


 お互いさまだ、目の前の二人の男も感情的になるわけでもなく、冷たい目でこっちを睨んでいるだけだからな。


 それに、そもそもの話として、目の前の宗次の親は宗次を見捨てただろうが。


 そんな奴のことなんて考慮にも値しない。


「実はね、今回の件で神崎家と藤崎家は一つの約束をしたんだ」


「どんな?」


「その内容は、藤崎家は可愛い息子を一人失ったんだから、神崎家も息子を一人失わなければならないと言うことだ」


 男は偉そうに語りながら、指を鳴らす。


 すると十人ほどの人間が室内に流れ込む。


「無限、その命を支払ってもらおうか!」


 まったく、予想通りの展開すぎて退屈になる。


 入ってきた刺客たちの相手はフルーツがするようで、ルシルとシホはぼくを守ろうとするが動きを止める。


「動くな、もし動いたら我々が学院に施している寄付から協力の全てを停止する。それにこれはあくまでも身内の問題だよ。君たちが動くのは筋違いだ」


 その言葉にルシルは動きを遅くし、シホは気にするものかと攻撃を仕掛けようとするが。


「駄目押しはこれだ、俺と神崎無限は決闘をする」


 当然拒否権はあるが、この学院の決闘と言うシステムを盾にしている。


 正当性と言う意味では、しっかりと筋を通した上でぼくを殺す気らしい。


 ぼくの父親と名乗る男は、それでも行動を止めないシホに攻撃を仕掛け……。


 藤崎宗吾はいつの間にか持っていた刀を抜くと、目の前にいるぼくに大きく振りかぶり……。


 ぼくを縦に真っ二つにすると、眩しい光が室内に爆発した。



 ★



「ああ、びっくりした」


 エキト特製、『光の衝撃』という魔道具だ。


 これを身に着けているぼくが死ぬことによって、その光を浴びた人間は一時間ほど首から下が動かなくなる。


 その代償に、発動者は死の痛みをしっかりと感じるのだった。


「いやあ、まいったまいった。光量の調節を間違えたかなあ、校舎を貫通して学院中の人間が止まっちゃったよ」


 苦笑いをしながら、室内に入ってくるエキトに文句を言う。


「なんでお前は平気なんだよ」


「対抗手段があるからさ、他にも抵抗力が強い奴は数人ぐらいは無事だろうさ」


 まあいい、今はこいつに用はない。


「さあ、こいつらどうしようか?」


 意識はあるのに、無様に止まっている室内の人間たちを見渡す。


「無限、誰だそいつは?」


 体が動かないのに、偉そうにシホがぼくに尋ねる。


「協力者さ、荒事になるのは目に見えていたからね」


「そうか、それならこのわたしたちを治してくれないか?」


 エキトが小さなライトのようなものを当てると、シホ達の体は自由に動くことになった。


 そして……。


「随分と面白そうなことをしているね、わたしも混ぜてくれないかな?」


 ようやくのこと、この学院で一番偉い人物と相成った。

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