幕間14

 


「で? 説明をしてくれないかな?」


 怒っている、学院長がかなり本気で怒っている。


 そのあまりのオーラに、決して体が動かないはずの二人の男は、強制的に床に跪いた。


「なに、まったく事情は知らないのか?」


「いや、大体は知っているよ。わたしが聞きたいのは誰の許可を得て、この学院で無限君を殺そうとしているのかってことさ」


 少しだけ、プレッシャーを和らげてぼくの質問に答えるが、その代わりに二人の男への圧は何倍にもなっているらしい。


「お、お言葉ですがこれは身内の話です。学院長には関係ありませんので」


「なんだと?」


 おお、この状態の学院長に反論できるなんて。


「我が神崎家と貴方は、初代から続く盟友のはずです。その立場は対等で、一方的に攻撃される由来はない!」


「ふ、ふはははははは!」


 男の言葉に学院長は狂ったように笑いだす。


「そっか、長い年月がそこまで神崎家の人間を勘違いさせてしまったのか」


 学院長は憐れんだ眼をして、男を見下ろす。


「神埼の家では、わたしと初代はどんな関係だったと伝えられているんだい?」


「それは、英雄と呼ばれたあなたに初代が非力ながらお力添えをしたと。そして、現代まで続く友誼を結んだのだと」


「表面的には間違っていないね。でも実際には大分違う、魔力が少なくて、弱い異種族に殺されそうになってた初代をわたしが助けたんだ。そのあとは少ない魔力でも出来ることを教えてあげて、守ってあげてたんだよ」


「え?」


 それでは対等とは程遠いのではないだろうか?


「それからは、少ない魔力の魔法使い同士が協力できるオリジナル魔法を生み出して、現代まで続くように一流と呼ばれる発展をしたみたいだけど、三代目ぐらいから色々とおかしいなあと思ってたんだ。でもまさかそんな風に曲がっていったとはね」


「そんな……」


「まあわたしもそうだけど、人間は血筋じゃないさ。優秀なやつだけが優秀だ、無限くんのようにね。……だから魔法使いの至宝になる、無限くんを殺そうとしたことは許せないかなあ」


 そうしてまた、学院長のプレッシャーが跳ね上がる。


「でもまあ、わたしと無限くんを引き合わせてくれたことは感謝しているし、初代との縁もある。今回は見逃してあげよう」


 学院長の言葉に二人の男は安堵する。


「あとね、無限くんはわたしの養子にすることにしたから。もう手出しは許さないよ」


「そんな勝手な!」


「君にそんなことを言う資格はないよ、その行動は少々目に余るからね。無限くん、いいよね? 正式に決定しちゃうよ?」


「ああ」


 そんなことは別にどうでもいい。


「この学院で生きるも死ぬも、自己責任だ。強いて言うのなら送った親たちに責任があるかもね。文句があるのならわたしを倒しなさい。いつでも相手になるよ」



 ★



 こうして、一連の騒動は終わりを告げた。


 今にして思うと、学院長はあの二人の男を庇ったのだろう。


 あそこで乱入してこなければ、動かない二人にぼくとエキトでなにをしたか。


 殺す気は全くなかったが、死んだほうがましだと思うよな魔道具を色々と用意してもらっていたからな。


 それらは用意したのが無駄になってしまったので、意図的にどこかの一室に放り込んでおいた。



 ★



 次の日に、大きなニュースが学院中を巡った。


 なんでも学院内で、貴族派のトップたちの会合をする部屋に、凶悪なトラップが仕掛けられていたらしい。


 幸いなことに死者はゼロだったが、人間ではなくなってしまい、二度と元に戻れなくなった奴らがいたらしい。


 二十名近くが再起不能になり、学院内の貴族派は衰退した。


 それでもまだ、学院内派閥では最大らしいが、その権力は半減したと言ってもいい。


 この結果に対して、誰が何かを思うのかは定かではないが……。


 それでも一つの魂が安らかに眠ってくれる一助になってくれることを、ぼくは願った。


 さよなら、それでも、もしかしたらもう一度会えたりするのかと。


 この異常極まりない、魔法で溢れる世界に尋ねてみた。

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