幕間6

 


 今度は一週間がたった。


 ルシルはどんどんと悩んでいき、宗次は焦りを見せるようになり、フルーツは調子が振るわないようで通院したりしている。


 ぼくはと言えば、エキトと二人で街を探索して、色々な魔道具を探索するのがブームになっていたりする。


 だが、結構な量を見てきたつもりだが、その価値が一切分からない。


 エキトなどの商人は、目利きにも魔力を使うとか言っているので、ぼくに分からないのが仕方がないと慰めてくるのも腹が立つ。



 ★



 今日のお遊びも終わり、エキトの家に向かう途中不審者に出会った。


「やあ、久しぶりだねむーくん。お茶でもしないかい?」


 相変わらずの目を覆う布と、陽気な言葉でぼくに声をかけてくる。


「悪いが、エキトがいるから」


「どこに?」


 後ろを振り向くと、いつの間にかエキトが消えている。


「……逃げたか」


 自分でも言っていたが、あいつは危機意識が高いようだ。


 ヴィーの危険度に気づいたのだろう。


「さあ、行こうか」


 ぼくらは直ぐ近くあった喫茶店に入り、飲み物を注文する。すると、早速口を開いた。


「随分と愉快なことになっているんだねえ?」


 ヴィーはにやにやとしながら、ぼくに話しかけた。


 全て、知っているのだろう。


「愉快と言えば、愉快だな。だけど、ちょっと焦りすぎだと思っているよ」


 宗次が弟子になり、半月がたった。


 まだまだ、満足のいく教育をされてはいないようだが、魔法使いの修行は長いらしいのに、目に見えて焦っている気がする。


「それは仕方がないよ、あの子へのプレッシャーは凄いからね」


 何か知っているな、こいつは。


「色々と、突然だったからねえ。貴族派の連中とかは裏切り者だって怒り狂っているし、実家の家族とは縁を切られちゃったみたいだよ。このままじゃ次期当主は次男になっちゃうぐらいに」


 それを聞くと本当に、追い詰められているな。


「藤崎の家は貴族派との縁が深すぎるんだ、日本の貴族と言ってもいい家だしね。家族たちも色々な縁や仲を切られちゃって大変みたいだから、一方的に同情は出来ないけどね。もうちょっと段階を踏めばよかったのにね」


「本当に焦りすぎだよな」


 何でだろうか。


「言ってなかった? むーくんの火事事件が原因だよ」


「どういうふうに?」


「ただでさえ、一緒にイギリスに来てライバル視しながら見下しているような感じだったのに。魔力がないまま色々な結果を出しちゃったからね、凄い嫉妬してたんだけどむーくんが死ぬかと思ったことで爆発しちゃったんだ」


「爆発?」


「そうだよ。そもそも伸び悩んでいたし、実家からの色々な期待が重荷だったからむーくんに複雑な気持ちを持っていたんだけど、むーくんが死んじゃったら永遠に負けたままだって結論になっちゃったんだ」


 まあ、その通りかもしれないが、そもそもぼくと何かを比べる立場ではない。


「傍にいればむーくんを守れるし、いつかは勝てるかもしれない。それに世界最高の魔法使いから鍛えてもらえるから一石二鳥だ。って夢いっぱい、希望がいっぱいだったんだよねえ」


 都合のいい考え、都合のいい理想だな。


「結局のところ、あいつはぼくが好きなのか? 嫌いなのか?」


「複雑なところだよ、愛憎半ばだろうね。結局のところは、既に自分の底が見えているから焦っているのさ。無自覚だし、認めたくなくて頑張っているけどね」


 既に、自分の底が見えてしまっている。なんて冷たい事実だろう。


「まだわたしとむーくんしか知らない事実だけど、教えてあげるかい? 別に止めないけど」


「……、いや関わる気はないよ」


 ぼくが何かをすることはない。


 そう思っていると、ヴィーが笑みを深めてこっちを見る。


「意固地だねえ、いつもと比べても。ねえ、むーくんはいつも自己責任だ、自分には関係がないっていうけどさあ。今回は特に強く思っているよねえ? それは一体、何でかなあ?」


 わかっているはずの質問を、わざとぼくにぶつけてくる。


「ルーシーにも、学院長にも、クイーンやわたしにももうちょっと優しいよね? 少しぐらいは助言をしてくれるぐらいにはさあ? なんであの子には、違うか。今回はこんなに冷たいのかなあ?」


「そりゃ、今回は命に関わるからだよ」


 どう思ってるかと言う感情とは別でぼくが口を出さない理由、出せない理由は明白だ。


「わかっているとは思うが、ぼくはお前たちの感情を理屈の上でしかわからない。だが、人間は理屈を超えた動きをするだろう?」


「勿論さ」


「わからない以上は、不用意なことは出来ない。特に今回の場合はぼくの言葉によって、生き死にが左右されかねないからな」


 特に宗次は感情の動きが激しすぎて、想定が難しい。


「う~ん、それは誰でも思うことだよ。でも、その人への思いやりとか、優しさが何かを言わずにはおれないって流れになるけど。むーくんには、他人に対して何かを思うことなんてないか」


 その通りだ。相変わらずのことだが、ぼくはルシルにも宗次にも思うことはない。


「人がわからないから助けてあげられない、普通は付き合いを深めることでお互いに理解していくものだけど、むーくんにはそれが出来ない。成程ね、納得したよ」


 ヴィーは満足したように、席から立ち上がる。


「この話の肝はさ、誰かを好きな気持ち、誰かを助けてあげたいという感情が、理屈を上回るってことだけど。むーくんにはそれがないってことだよね」


 その通りだろう、誰に対しても。


「このままでは三対七。むーくんが関われば九対一ってところかな? 決着がつく日はそんなに遠くないよ?」


 ヴィーは会計をして、店から出て行った。ぼくも出ることにしよ。


「……確かにな」


 ヴィーの言葉は、一つだけ間違っていて……。


 この話の肝は、結局のところぼくにとって宗次やルシルが死んでも、別に構わないと言うことだと思った。


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