幕間3

 


 あれからまた数日がたった。


 結局ルシルは何も決めることが出来ず、毎日毎日悩みながら宗次に修行をつけている。


 この時点でぼくは、この話がろくな結末にならないと言うことを悟った。


 命が残るかは、運次第だろうが。


「今日は面白いものを見たな」


 シホの研究室で暇そうにしていたキイチを捕まえて、色々と魔術を見せてもらった。


 まだ魔術しか覚えていなくて、魔法は覚えていないので迫力不足だったが、それでも楽しめた。


 どうせ忘れそうだが、大したことがないはずの魔術があれだけ多彩な種類を内包していることに、感心したものだ。


 それに、いいことを聞いた。


 世界には明確に劣っている魔術だけで、一流の魔法使いたちを倒して回っている男がいるのだと。


 是非会ってみたいものだ。そして師匠連中のプライドを叩き折ってぼくを楽しませてほしい。


「うん?」


 未来への期待を膨らませながら、一人では行動するなと厳重に言われている学院内を歩いていると。


 学院からルシルの家に戻る途中で、一人で修行をしている宗次を見つける。


「……」


 だから、ぼくは息をひそめて決して見つからないようにすることにした。


 関わると面倒な気配が濃厚だからだ。


「あれ? 無限じゃないか?」


 だが、一瞬で見つかった、さてどうするか。


「ああ、頑張っているみたいだな。それじゃあ」


 とりあえず返事をして、即座に退散することに決めたのだが……。


「まあ待てよ、おれの話を聞いてくれ」


 あっという間に距離を詰められて、右腕を掴まれてしまった。


 抵抗を試みるが。くっ、こいつも魔法使いなので筋力ではどうあがいても勝てない。


「どうした? ……ああ、すまない。お前は魔法使いじゃなかったな」


 そう言って宗次は慌ててぼくの腕を開放する。


「最近は周りの人間が全て魔力を持っているから、力加減を間違えたのかな? 痛かったか?」


 殺されたいのか、こいつは。


 まるで、赤子に接するような態度をとる。まるでぼくと言う存在が、少しでも力をこめればつぶれてしまうかのように。


 そこまでひ弱じゃあない。……つもりだ。


「大丈夫だよ、じゃあな」


「だから、待てって。そこに座っておれの話を聞いてくれよ」


 宗次は近くに設置してあるベンチを指さす。


 この場で踵を返して逃亡しても、捕まるのは明白なので諦める。


 この学院は危険だとかいいつつも、こういう設備をちゃんと設置しているのが驚く。


 直ぐに壊されるだろうに。


「で?」


「先生が何も教えてくれないんだ」


 単刀直入に尋ねると、簡潔な答えが返ってきた。


「毎日教えてくれるのはいいんだが、もう弟子入りしてから一週間もたつのに、本当に初心者用の授業しかしてくれない」


「なにやってんの?」


「だから、魔力量を増やす訓練だよ」


 へえ、そんなのがあるんだ。


「これじゃあ、今までの方が身になる修行が出来ていた。先生はどういうつもりなんだ?」


「知るか」


 あいつの考えなんて聞いたこともないし、聞く気もない。


「そうなのか? 無限はどんな授業をしてもらっているんだ?」


「あいつに何かを教えてもらったことなんてない。弟子なんて名前だけみたいなものだからな」


 時々使えない魔法を覚えさせられるだけだ。面倒なので早くルシルの全部魔法を教えろと言っても、何故か嫌がるし。


「そうなのか、おれはどうすればいいんだろう?」


「不満ならルシルに教わるのをやめればいい」


 そもそもだが、あいつは人にものを教えるのが上手くない。


 魔法だけではなく、全ての面で。


 根本的に、不器用な奴なのだ。


「そういうわけにいくかよ、おれは全部を捨てて先生と元に来たんだ。戻る場所なんてない」


「お前は一体、何を捨てたんだ?」


「なにって、色々だよ。所属していた派閥からも抜けたし、実家ともちょっと仲が悪くなっちまった」


「派閥?」


 どこにでもあるな、そういう話は。


「藤崎家は貴族派と縁があるんだ、だからそこに所属しろって言われて。両親に先生の所に行くって言ったら本気でキレられた。成果を出さなきゃ帰れなくなっちまったよ」


「自分で決めたことだろう?」


「そうだよ、その通りだ。だから早く実力をつけて一流の魔法使いになるんだよ。それなのに……」


 なんか深刻に悩んでいるみたいだが、こいつのことよりも気になることがある。


「なあ、ルシルは何派なんだ?」


 それが気になる。


「先生は学院長派だよ。単独行動が多いみたいだけど、まあ同じ一族なんだから順当だろう?」


 そういえば、ルシルはあの男の子孫だったな。


 可哀そうに、性格は真反対なのにあんなのと血がつながっているなんて。


「よし、落ち込むのはやめよう。おれには才能があるんだから、先生のことを信じて突っ走ればいい!」


 宗次は自らの両頬を叩くと、やる気を出した。


 赤くなっているせいで格好がつかないが。


「なあ、お前に才能があるって誰が言ったんだ?」


「誰とか関係ない、おれがそう信じているんだよ!」


 そうか、そうだろうなあ。


 う~ん、色々な意味で才能、なさそうなんだよなあ。


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