幕間2
あれから数日がたった。
まだまだフルーツは戻ってくる気配もないし、ルシルは毎日宗次に会いに行っている。
何をしているか具体的には何も知らないが、とにかくぼくは平和だった。
「あー、楽だ」
今のルシルは、ぼくの世話と仕事以外は宗次の所に行っている。
何故かは知らないが、宗次がこの家に来ることを拒絶しているように感じるのだ。
「このまま帰ってこないといいのになあ」
おかげでぼくは自由だ。今日も朝から学院をさぼって寝ている。
「ただいま帰りましたよお」
玄関から忌々しい声が聞こえる、窓から外を見ると既に日は落ちていた。
別に出迎えをするわけでもなく、ぼーっとしているとノックもせずにルシルが部屋に入ってきた。
「いつも言っていることですが、返事ぐらいしてくださいよ」
「断る」
出来るだけそっとしておいてもらいたい。
ただでさえいつもいつも、鬱陶しいぐらいに絡んでくるのだから。
「ふう」
ルシルは人の部屋でため息を吐く。
幸福が逃げるなどと言う迷信は信じていないが、どこかに行ってくれないだろうか。
ぼくがため息を吐いているわけではないとしても、いい気分にはならない。
「出てってくれ」
「なんですかなんですか、冷たいじゃないですか」
「いつもだ」
ぼくの態度が変わったことなど一度たりともない。
「……わかったよ、何か言いたいのだろう?」
一切関わりたくはないのだが、目の前でぐだぐだとされるのも嫌なので水を向ける。
「え~、今更何ですか~」
「フルーツの見舞いに行くよ、しばらく帰らないから」
「ごめんなさい! 調子に乗りました、話を聞いてくださいお願いします!」
最初からそう言えばいいものを。
「実は、悩んでいるんです」
「頑張れ」
「そうじゃないでしょう! 内容を聞いてください!」
我儘だな。
「ここ数日、藤崎くんに修行をつけてみたのですが……。才能がないんです」
おっと、重たい言葉だ。
「それはまた……」
そんな気がしていたが。
「いえ、一般的な魔法使いよりは少々上ぐらいの才能は有ります。でもとてもじゃないですが、私の弟子になるほどの才能なんてないです」
「そっか」
「初めて見た時から、薄々感じてはいたんですけどね。実際に教えてみたらよくわかりました」
「成程、何て言って弟子をやめろっていうか悩んでいるんだな」
それは確かに、なかなか難しいかもしれない。
ぼくならはっきりと言ってやるが。
「違いますよ、彼ならきっと長い修行を積めば私の魔法を覚えることも出来ると思います。……少しですが」
「へえ」
少しでも十分だろう。なにせ世界最高の魔法使いのオリジナル魔法だ。
ぼくもそこそこの魔法を覚えてきたが、やはり他の師匠共よりは凄い魔法ばかりだと感じている。
なにせ、大したことがない魔法も多いのだ。
「でも、あの子はいつでも焦っている。その姿を見ると思い出してしまうんです」
「……ああ、お前が壊してきた奴らのこと?」
そういえばたくさんいたなあ。
「まあ、そうですけどその言い方はやめてくれます? これでもトラウマなんですから」
「トラウマってなにが?」
弟子候補たちを再起不能にしてきたことで、何かを思ったのだろうか?
でもそれだけのリスクがあるのは当たり前だって、ぼくは何度も聞かされた。
師匠は壊す覚悟を、弟子は壊される覚悟を持っていて当たり前だろう。
それなのに、何か思うことがあるのだろうか?
「確かに、そうなんですが割り切れませんよ。私が壊してしまった弟子の数は、あまりにも多いですから。おまけに私情も挟んでしまい、色々と急いでしまいましたから」
ちなみに魔法使いの修行では、壊されるようなことはまずないらしい。
あくまでも魔法を覚えようとして、色々と壊れるのだ。
「で、結局何を悩んでいるの? それとも昔を思い出して辛いって、泣き言を言いたいだけなの?」
だったら、どこかに行ってほしいのだが。
そんなつまらない話なんて聞きたくもない。
「気ばかりが逸ってしまうあの子に、どうやったら長い目で見て修行をしてもらえますかね」
成程、それを聞いてほしかったのか。
「自分で考えな」
「なっ!」
「甘えるなよ、そんなものは自己責任だろう? 宗次の師匠になるのを決めたのはルシルで、ルシルの弟子になることを決めたのは宗次だ」
そう、ぼくが入る余地などどこにもない。その過程にも、その結果にも。
「あいつが焦ることが嫌だっていうなら、教えるのをやめればいい。説得することも拒否することも出来ないのなら、あいつが死んでしまうことを受け入れるしかない」
ルシルの考えも、宗次の考えもどうでもいい。
自分が何を優先して、何を捨てるかと言うことに口出しすることが間違っている。
「それでいいと思うなら、結果を受け入れろ。それで駄目だと思うのなら、すぐにでも拒絶してやれ。ぼくが言えるのはそれだけだよ」
悩むだけ面倒だ。
「ぐだぐだと悩んで時間を使うのが一番よくない。……お腹空いた」
ぼくはルシルを置いてリビングに向かう。
結局は自分たちで決めるしかないのだ。
もし何かがあったとしても、ぼくにはそれを止める力なんてないのだから。
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