外伝 テレビを見る話2

 


「相変わらずよくわからないなあ」


 いくつかのお宝をエキトの店に売りに行き、高そうなナイフが安く売れ、安そうな石ころが高く売れた。


 言い訳をさせてもらえるならぼくに目利きの腕がないのではなく、意味不明なものが多すぎるのだと主張したい。


 午後四時ぐらいに街に出かけ、今は七時ごろ。


 ぼくはぐちぐちと不満を口にしながら、お土産に弁当を買って帰宅する。



 ★



「帰った」


「おかえりなさい、あれ? 何を持っているんですか?」


 ぼくを出迎えたルシルが、目ざとくも持ち物に気づく。


「弁当、お腹が空いたんだ」


 そう口にすると、ルシルの表情がわかりやすく変わる。


「夕飯があるって、言っておきましたよね?」


「そうだっけ?」


 よく覚えていないし、興味もない。


「これは没収です。あとでヴィーにでもあげますね」


「こら! それはぼくのだぞ」


「だからなんですか! そもそも外食は体に悪いんですから出来るだけ控えなさいとあれほど……」


 説教が始まりそうだったので、ぼくはルシルをスルーして中に入っていく。


「ああ、お腹空いた。フルーツ、今日の夕飯は?」


「自家製ピザだそうです」


「待ちなさい!」


 ルシルがうるさいので、ぼくはテレビをつけた。



 ★



『……というわけで、今日は有名な魔法学校の紹介をですね』


『なるほど、それではトップスリーの発表です!」


 既に番組は中盤で、タイトル名すらわからないが、どうやら学校紹介をするらしい。


「まだ話は終わっていませんよ!」


「静かにしてくれ、音が聞こえないし、マナー違反だ」


 ルシルは礼儀やマナーを気にする人間なので、こういう言い方が覿面に聞く。


 おとなしくなり、ぼくの隣に座り込んだ。


「料理の支度は?」


「ピザが焼きあがるまで時間がありますから」


『第三位は、魔法学院太平洋東分校です』


 おっと、よくわからない言葉が出てきたぞ。


『太平洋にある、魔法社会側が隠蔽している島国にある学校ですね』


「あれ? それってあの長男が滅ぼしたんじゃ?」


「当然、その後に再建したんですよ。人の命は無理ですが、島や大陸ぐらいなら無理をすれば作れますからね」


 ルシルが恐ろしいことを口にする。


「そもそも、太平洋に島なんてなかったのに昔の魔法使いが作ったんですよ?」


「昔の魔法使いは、本当に万能だねえ」


 それがなぜ、こんなにも衰退したのか。


『太平洋東分校と、太平洋西分校はもう何十年も軽い戦争をしています。もちろんその理由は学生の質を上げるためであり、戦争こそが魔法使いの実力を上げるとの学院長の思想により……』


『何故、第三位が東分校かというと、現在は東側が優勢だからだそうです』


「ここも学院長か……」


「まあ、どこの魔法学院も学院長の色に染まっているものですよ?」


 嫌なことを聞いた。つまり、その学院の学院長次第でどうにでも変わると言うこと。


『第二位は、魔法学院北アメリカ分校です!』


『アメリカはダンジョン学が有名ですよね。魔法学院もとても力を入れているそうです』


「どういうこと?」


「もう何千年も前に、現アメリカの辺りでダンジョン作りが流行ったんですよ。当時の魔法使いたちが大陸中にダンジョンを作ってしまって。現代ではそのダンジョンに潜らせて、魔法使いの評価を決めているらしいです」


 学院によって色々とあるんだねえ。


「第一位はどこかな?」


「そんなのは、語るまでもないってやつですよ」


 今まで本を読んでいたフルーツが、会話に割り込んできた。


「というと?」


「世界中のどこを探したって、この学院の学院長ほど頭のおかしい人はいないでしょう」


 ぼくはなるほどと思い、ルシルも苦笑している。


『栄えある第一位は、魔法学院イギリス分校です!』


『この学院は洒落になりません。視聴者のみなさんは決してイギリス分校だけは受験しないことをおススメします!』


『そんなことを言ってしまってもいいんですか?』


『大丈夫です、イギリス分校の理事長は来るもの拒まず去るもの追わずです。希望者がいないのなら新入学生がいなくなってしまったり、廃校になってしまっても問題がないと公に発表している人ですし』


 凄いことを言っているな。


『ですが、現実問題としてそのようなことは決してありません。今でも受験者人数は魔法学院の中でトップですし、在校生徒の成績や卒業生の実績なども世界一位ですから』


『凄いですね、では何故受験をおススメできないのでしょうか?』


『危険だからです。毎年百名を楽に超える犠牲者がいますし、闇に落ちた魔法使いへの対処もないに等しく、敷地内には他種族の化け物たちの自治が認められています。なにより、生徒たちに決闘や殺し合いが推奨されているという噂すらもあります』


 こうやって並べられると有り得ないことばかりが……。


『何故そのようなことが認められているのですか? 倫理的に許されないことばかりでは?』


『全ては成果です。魔法社会そのものが減衰している現在では実力がすべてに優先されてしまいます。生徒たちの保護者を筆頭に政府の要望すら、イギリス分校の理事長は簡単に跳ね除けてしまえるのですから。圧倒的な実力によって』


『政府よりも上の権力を持っていると言うことですか?』


『権力ではなく、実力ですね。一騎当千の実力者で学院長のインフェルノ・ホワイミルト。そしてルー……』


 その時、テレビの画面が真っ黒に染まる。


「さあ、夕飯にしましょうか」


「今さあ、ルー……って」


「ピザですよ」


「いま……」


「美味しいですよ!」


 こうして、強引に押し切られてぼくらは夕飯を食べる。


 それはとても美味しかったと思うことにした。

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