外伝 テレビを見る話1

 


『今夜も始まりました! 世界異常存在シリーズ、第三弾。今回は世界に存在しない場所に迫っていきます!』


 なんか、面白そうな番組が始まろうとしていた。



 ★



 今日は休日で昼までずっと寝ていたのだが、突然ルシルとフルーツに叩き起こされた。


「何の真似だ?」


 そう尋ねると、今日は甘えたい日だと抜かした。


 人間と言うものにそんなものがあるのかは知らないが、だったら二人で遊んでいろと言うと腕を極められ、首を極められそのままおもちゃにされてしまい。


 とても眠れる状況ではないので、諦めてリビングに移動した。


 朝食と言う名の昼食を食べて落ち着くと、ぼくはようやく口を開く。


「それで、なにをするんだ?」


 特に予定はなく、じゃれつきたいのだ!


 二人して自慢げにそう言うので、力を込めた拳骨を二人の頭に落とすと、ぼくはテレビをつける。


 そして……。



 ★



「あれ、まだやってたんですねこの番組」


 痛みから立ち直ったルシルが、ぼくの隣にやってきた。


「知っているのか?」


「昔、見てましたねえ。これは再放送ですが魔法使い専門チャンネルでやっている、教育番組みたいなものですよ。基本的な情報を教えてくれるんです」


 国営放送みたいなものか。


「まあ中学生ぐらいになれば、知っていて当たり前のことばかりですけど。ムゲンくんには面白いかもしれませんね」


 なんだこいつは、ぼくが小学生レベルだとでも言いたいのか。


「いい機会だから、見ましょう。フルーツはお兄ちゃんにはこういうものが必要だと常々思っていました」


 常々思っていたのか……。


『先人たちが残してくれた知識や魔道具には、明らかに他世界のが存在することを示唆するものがあります。例を挙げると『地獄の炎』や『天の祈り』などがあります』


『これらは、地獄や天国などの存在を表しているんですよね?』


『はい、この地球上にはそれらが絶対に存在しないことは証明されていますが、どこかには存在するということも証明されているんです。それは……』


 テレビの司会者共が、聞き逃せないことを言っている。


「地獄って本当にあるの?」


「あるそうですね、私は行ったことないですけど」


 そうなんだ、驚いた。


 つまり、それは死後の世界があるということか?


『とは言っても、我々が想像しているものとは別物ですけどね』


『そうなんですか?』


『はい。地獄や天国と言うものは、死者の行きつく場所ではなく……』


 なんだつまらない。


 でも地獄の炎って、どこかで聞いたことがあるような、ないような。


『ありがとうございます。それでは、教授には地獄の炎と天の祈りについて、解説をお願いします』


『はい。そもそも地獄の炎とは、単純に地獄と言う異界に存在する炎です』


『そのままですね』


 全くだ。


『地獄の炎は三つの段階に分かれていて、下段の末端なら魔法で召喚したり、魔道具で呼び出すことも出来ます。その威力は精々が一つの街を滅ぼす程度ですね』


「……地獄の炎には、嫌な思い出があります」


「そうですね、末端でよかったとはいえ。あなたたちはほんの一月前に、酷い目に遭いましたから」


 ルシルが苦笑しているが、フルーツになにかがあったのだろうか。


 全然知らなかった。


『中段になりますと、一つの国を挙げて対処しなければならないレベルです。三日も気付かないと、その国は滅んでしまうほど致命的な強さになります。そしてこのレベルになると人類には扱うことが出来ず、自然発生するものしか観測されません』


 そんなものが自然発生するとは、迷惑な話だ。


『上段は地球上では観測された記憶がありません。ですが過去のある高名な魔法使いの方が、世界を滅ぼす威力だったと証言しています』


『え? 世界ですか、滅んでないですよね?』


『ええ、ですからそれも、他世界が存在するという一つの根拠に……』


 面白い番組だ。


 ぼくから見ると現実と非現実が交じり合って、まるで漫画や小説の内容を、真面目に語り合っているようにすら見える。


 やっぱり常識なんてものは、致命的に違うほうが面白い。


「他世界ね、本当にあるのかな?」


「ありますよ」


 ぼくの呟きに、ルシルがあっけなく返した。


 フルーツに目配せをしてみる。


「フルーツは知りません。まだ生まれて間もないので」


 その割には生意気だが。


 ぼくは視線をルシルに戻す。


「学院長に聞いたことがあります。魔法使いの頂点と呼べる人たちは、全員がこの世界を出て他世界に行っていると」


「へえ」


 ならあの男は、魔法使いの頂点からは遠い存在なのだろうか。


『では、次は天の祈りですが……』


 ぼくはテレビを消すと立ち上がる。


「楽しかったけど飽きた。ぼくはまた、宝探しをする」


「またですか? 飽きませんねえ」


 宝探しとは、二人目の師匠から奪った財産の中から、面白いものを見つけることだ。


 よくわからないものが多すぎて、高そうなものを発掘してエキトのところに持っていくのが、最近の流行りだったりする。


「夕飯までには、戻ってくるんですよ」


「覚えてたらな」


 ぼくは今日も宝を探す。


 問題は、どれだけ高く売れても全額ルシルに奪われることだった。


 所詮退屈凌ぎなので、別にいいのだがなんとかしたい。

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