火事の中での人助け

 


 思ったより『不思議の実』の中は視界が悪くない。


 あの夜の闇のような煙は、ある程度『地獄の炎』に焼かれているらしい。


 命以外には厳しいと言うのは本当らしいな。


 それでも建物が燃え尽きることがなく、かなり原型が残っているところを見ると、ちゃんと危険なものに用心をして建てたのだろうと伺える。


「えっと、名前は……。どこだ、バカ息子!」


 どうやら、はっきりと名前を忘れたようだ。


 そんなことよりも、熱くてたまらない。


 でも、死ぬほど熱いがそれだけで、結構大丈夫だったりする。


 一瞬で体が燃え尽きたりしないところを考えると、地獄の炎なんてのは言い過ぎだと思った。


「でも、呼吸ができるな」


 普通の炎と違い、酸素を消費して燃やしているのではないのかもしれない。


 外と変わらず呼吸ができる。


「外から見た感じ、二階建て程度だったが結構広いな」


 多少マシとはいえ、煙と炎のせいで周りが良く見えないのは確かだ。


「数分しか体は持たないと言ってたな。つまり、バカ息子はもう死んでいるのか?」


 爆音がしてからずっと店の中にいたと言うのなら、最低でも十分は経っている。


 全速力で走ってきたつもりだが、それが限界だった。


「……それでも、探そう」


 ぼくはこの炎について、詳しいことは知らない。だから、もしかしたらまだバカ息子は生きているかもしれない。


「まだ、ぼくは大丈夫だと思う」


 本当に危険だと思うまでは、頑張ろう。


 せめて、諦めがつくような何かが欲しい。



 ★



「おーい、いるか!」


 一階は大体調べた、そして何も見つからなかった。


 今は二階を半分ほど探し終えている。


「くそ、どれだけ経ったかな?」


 時間の感覚なんて、全くわからない。


 まだ二、三分だと嬉しいが……。現実って甘くないんだよなあ。


 だが、思ったより体が大丈夫だということも事実だ。


 でも熱くてたまらないので、どれだけの火傷を負っているのかよくわからない。両手を見ると、焼け爛れてはいるが、原型は十分に保っている。


 感覚だって、ちゃんとある。ただ、痛いだけだ。


 地獄の炎とやらが、命を苦しめたいと言うのは本当なんだろう。


 もし死ぬことがあったら、是非とも天国に行きたいものだ。


 出来る事ならこの痛みは、最初で最後にしたいから。


「どこだ?」


 今、何かの音がした。


 周りが燃えている音かとも思ったが、確かに人の声だと思う。


 周りを見渡すが、何もわからない。


「バカ息子、いるのか?」


 ぼくの声に、反応があった。


 近くにある商品を置くための机らしきものの下に、人間がいた。


「おい、こら!」


 元気は全くないようだが、五体満足でろくに火傷もしていない。


 ぼくの方が遥かに酷い姿だと思うほどに。


「なんで無傷なんだよ!」


「……無傷じゃないよ、店の商品を使って体の形を保っているんだ。そうしなければ誰かに見つけてもらえないから」


 確かにたとえ消し炭を見つけても、何もできることはないだろう。


「原型を保っておけば、魔法による治癒は可能だ。その代わり、中身はボロボロでね。ちゃんと体に地獄の炎に対する耐性をつけておいたのに、もう数分も持たない」


「そうか、だったら直ぐにここから出よう」


 自分も、このバカ息子も限界はすぐそこだ。一秒でも早く外に出る必要がある。


「でも、どうやって? あんたがここに来るまでに何分かけたかは知らないが、人ひとり抱えてしまったら外に出る前に燃え尽きるよ」


「そんなことはないさ」


「あるよ、見たところ魔力もない一般人じゃないか。一体、ここに何をしに来たんだよ」


「お前を助けに来たんだよ」


 ぼくは確かに一般人だが、別に魔力がなくても超人くらいの力を持っている。


 壁を貫ける威力で殴れたり、オリンピック選手を凌駕するスピードで走れたり。


 ぼくは魔法使いでもなんでもないが、人ひとり抱えて外に飛び出すぐらい簡単だ。


「行くぞ」


 床に横たわっているバカ息子を抱えると、ぼくは近くの窓を割って外に飛び出す。


 なに、二階程度の高さなら、足を挫くこともない。


 ぼくは外に止めてあった消防車の上を目掛けて、二階から飛び降り、消防車をクッションにして無事に着地をした。


「な、大丈夫だったろ?」


「……、ああ、助けてくれてありがとう」


 バカ息子はそのまま気絶した。


 ぼくも直ぐにそうしたかったが、やはり頑丈な体のおかげで……。


 近くに来ていたヴィーに、ちゃんと後を頼んでから意識を飛ばした。

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