危機を知らせる音

 


「話はある程度わかった。あんたらにとって家の魔法は自分たちの立場を守るために、どうしても必要だってことも」


 魔法を継承する人間が、どれだけ重要かも。


 これからはもっと足元を見て行こう、本当に一財産が稼げそうだ。


「それで、ぼくに覚えてほしい魔法ってのはどんなものなんだ?」


 魔法を覚えると言うことは、莫大な魔法量が必要だがそれはあくまでも大前提に過ぎない。


 そのうえで覚える才能があるか、あったとして覚える条件をクリアできるかどうか。


 毒の魔法の時は、本来なら大変だったらしい。……なんかぼくは大丈夫だったが。


「そう身構えなくてもいい。そこまで大した魔法じゃない。我が家に伝わるオリジナル魔法だが普通の魔法の尺度で言うと、Cランクといったところだ」


 いつも思うのだが、オリジナル魔法って大したことがないものが多すぎるぞ。


「だが、あまりにも人を選ぶ。今までに一万人に届くほどの人間に打診をしたが、全員が失敗している。魔法のランクが低いがゆえに死ぬことはなかったが、昏睡状態ぐらいにはなっている」


 基本的に、魔法を覚えることに失敗すると死ぬと言うあまりにも厳しい最低条件だが、時々こういうふうに優しいケースもある。


 同時に、気に食わない人間だと魔法を覚えようと考えただけで殺されてしまうほどに、危険な魔法もあるらしい。


「安心していい、どっちかと言うとそのほうが得意分野だ」


 基本的にぼくは誰か、何かに嫌われた経験がないと言ってもいい。


 そこまでその対象と深く関わらないせいだろうが。


「これも疑問なんだが、ぼくが社長の家の正当後継者になってしまうのか?」


 ずっと思っていた。


 ぼくが誰かの家の魔法を継ぐと言うことは、その家をぼくが引き継ぐと言うことでは?


 もしそうなら、どうにかして辞退するか……。


 あるいは財産を食いつぶして、家を潰してしまおう。


「いや、これまでもそうだったと思うがあくまでも保険としてだよ。その証拠に君に家紋を刻んでもらう気なんてない」


「家紋?」


「知らなかったのか? 家で継ぐような魔法を正式に継ぐ人間は、その体のどこかに家紋が刻まれるんだ」


 知らなかった。


 でもぼくの体には、変な模様なんて一切ないはずなので大丈夫だろう。


「とりあえず誰か一人でも魔法を覚えていれば、家が潰される恐れはないし、君が亡くなってしまう前に新しい誰かに正式に継いでもらうことにするよ。一応聞いておくけど、君は嫌だよね?」


「当然だ」


 面倒だし、ぼくの場合色々と問題がある。


 自分も嫌だし、他の誰かも決して許すことはないだろう。


 もしかしたら、エレメント商会よりも大きな何かに殺されかねない。


 誰が、とは言わないが。


「そうだろうさ、でも安心してくれ。魔法を継いでいなくても魔法を教えることは出来る。君に余計な注文をつけたりはしないさ」


「そうなのか?」


「ああ。もちろん自分で体感しなければ、他人に教えることが出来ない魔法が普通なのだが。我が家の場合は、しっかりとした魔法の習得方法が確立している」


 本当に家によって、個人によって魔法と言うのは千差万別だ。


 それは、人間と同じ。似たようなものに見えても、しっかりと違いがある。


「では、報酬の話をしようか」


 正直、面白い話をたくさん聞けたので、報酬には拘るつもりはないが……。


 こういう重大な情報を、何故あいつらはぼくに教えないのだろうか?


 いつも偉そうに師匠だと言っているのに。


「君は魔法使いが、身内を大事にすると言う話を知っているかな? 弟子なども、家族も同然の存在だと感じるようになると」


「聞いたことがあるような?」


 どうだっけ?」


「その点を前提として、君にはエレメント商会の権力と財産を、一族の人間と同じだけ使っても構わないと言うことにする」


「……は?」


 なにやら凄いことを言っている気がするが、なんかよくわからない。


 隣に座っている、フルーツに聞こうと思ったが、……どうやら寝ているようだ。


 どうりで会話にも入ってこずに、静かだと思った。


「度が過ぎた行いをされては困るがね。少なくても社会の中で生活するのなら、不可能はなくなると思ってくれていい」


 殴って起こそうかとも思ったが、その前に社長が説明してくれる。


「一族には、君のことを俺の息子と同じ立場だと説明しておく。なに魔法を継いでくれた人間だと説明すれば、反論もなくなるだろう」


「随分と気前がいいな」


 まだ、魔法を覚えることが出来ると確定してもいないのに。


「まるで、既に魔法を継いだような会話をしているけど、まだぼくはなにもしていないが?」


「確かにな、これが成功報酬なのは当然だが。俺は確信しているんだ、君ならばあっけなくエレメントの魔法を継いでくれると」


「それは、何故?」


「さあ、それはわからない。だが、俺の商人としての直感が訴えてくるのさ、君ならば大丈夫だと」


 ……胡散臭い、それが本当だとしても直感が間違っていたらどうするのか。


「なら、こう言おうか? 君のその眼に惹かれたのさ」


 眼?


「俺はこれでも三十年以上、人間というものを見てきた。その中でも君の眼はとびっきりだよ。穏やかさと恐ろしさが同居している。その上で、まるでこの世の全てのものは、自分とは違うのだと言わんばかりに冷たい眼をしている」


 ……。


「俺は君のその眼、その纏った気配に心から惹かれているんだよ」


 それは、いつか誰かがぼくに語ったことに近くて……。


「な、なんだ!」


 何かを想いだしそうになった時、体が震えるほどの爆音が外から響いてきた。その衝撃にフルーツも飛び起きる。


「まさか、この方向は……。あのバカが!」


 そして、何かに気づいたように社長が部屋から飛び出していった。

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