魔法と家系

 


「大前提としてだが、君に魔法を覚えてほしいと言う趣旨に間違いはない」


 まず初めに、社長はそう言った。


「だが、君に伏せている情報はあまりにも多い。それにはちゃんとした理由がある。それは我がエレメント商会にとってあまりにも致命的なものだからだ」


 いまさら何を言っている、だからこそ社長は今まで警戒心を含んだ前置きを語っていたと言うのに。


「そんなことはわかっている。……まずは何故ぼくに頼んだのかを聞きたい。さっきも言ったようにあんたの家族、一族なり優秀な魔法使いなりに頼めばいいだろう」


 はっきり言って、ぼくという存在は無名に近いだろうさ。


 それに、ぼくが色々な魔法を覚えているという情報があったとしても、こうやって直接会っても魔力なんて全く感じないはずだ。


 それで失望していないとでもいうつもりか? 自分の集めた情報が、間違いだったと考えるのが自然だろうに。


「俺の息子は、……いやあいつの話はやめよう。とにかく、エレメントの一族に受け継がれているオリジナル魔法を継承できる人間はいない。そして、一族の権力が及ぶ範囲の魔法使いにもだ」


「え?」


 それは、なかなかに凄い話だ。


 それは、世界全てに影響力がある人間でも不可能なことだと言うことだ。


「勘違いをしないでほしい、この魔法社会には可能性があると思われる化け物なんてたくさんいるだろう。だが、俺の力、つまり金や圧力などで動く人間には可能性がないと言うことだ」


 つまり、学院長のような奴には、声をかけていないと言うことだ。


「そういう連中には、気軽に接触することもできなくてね、対応を間違えると一族どころか、世界そのものに影響があるようなことをされかねないからな」


 そうだろうなあ、一度怒らせたら世界なんて簡単に滅びるのではないだろうか?


 学院長やルシルの話を聞いて思うのだが、この世界には人の姿をした化け物が多すぎると思う。


 それ以外の化け物だって、たくさんいるみたいなのに。


「正直、藁にも縋る気持ちでね。君が依頼を受けてくれなければ、一族が滅んでしまうかもしれないほどの瀬戸際なのだ」


「何故、社長は魔法使いと言っても商人だろう、魔法がそんなに重要なのか? それとも物を売る仕事にも魔法が必須なのか?」


「しゃ、社長? いや、間違ってはないが……」


「その話は今はいい。それより質問に答えてくれ」


 呼び方なんてものは些細な問題だし、変更する気は一切ない。


 既に決まってしまったことだ、ぼくの中で。


「はあ、わかった。……ゴホン、その通りだよ。魔法社会の商品には、魔法を使わなければ扱えないものも多い、でも確かにそこまで重要なことではない」


 社長は咳払いをして、気持ちを落ち着かせると滑らかに話す。


「重要なのは信頼なのだ、はっきり言うと魔法社会で商売をするには、しっかりと魔法を継承している名家でなければ絶対に大成することは出来ない」


「なんで?」


「魔法使いはプライドが高く、名誉を大事にする。見下している普通の人間が経営している商会など、それだけで魔法社会では見向きもされないのだ」


「そんなことはないだろう」


 この街でも、普通の街にあるような店はたくさんみた。


 それこそ娯楽からデパート、服屋なんかもそうだ。


「普通の社会にある有名な店舗は、大体が魔法社会の会社が経営しているよ」


「そうなの?」


「ああ、君が知っている大企業などは、大体が我々の子会社だ」


 本当に、普通社会と魔法社会では上下関係があるんだなあ。


 少し感心してしまうほどに。


 そこまでしっかりと首元を抑えられていれば、逆らえるわけもないか。


「勘違いをしてほしくはないのだが、俺たち魔法社会の商人には、一般社会を支配しようと言う欲望など持っていない。あくまでも一商人として、儲けて、店舗を一店でも多く開拓したいと言う気持ちに過ぎないよ」


 いつか聞いたと思うが、ぼくたち魔法を使えない人間が済む一般社会と魔法使いたちの魔法社会には、はっきりとした上下関係が出来ている。


 当然、一般社会が下だ。何故なら本当に強い魔法使いなら、一般社会なんて一日で滅ぼせてしまうほどに弱いから。


 だからこそ、一般社会の重要な立場には魔法使いが名を連ねているらしく、子飼いにしているので滅ぼしたりするほうが大損になる。


 ようは、眼中に入っていないのだ。故に支配される恐れなど抱くほうが傲慢だ。


 もし、本当にその気なら、一般社会がいまだに残っているなんておかしい。


「例え一度成功を収めた商会だとしても、継承している魔法が途切れてしまえば一気に堕落してしまうのだ。それだけは絶対に避けなければならない」


「そんなのは黙っていればバレないだろう?」


 その点はずっと疑問に感じていた。


 この社長に限らず、ルシルたちも含めてだ。


 別に自分の家の魔法が途切れても、黙っていればいい。


 そんな重要な魔法ならば、他の奴らに詳しいことなんて知られてないだろうし、いくらでも言い訳が出来るだろう。


 そして、新しく魔法を作っておけばいいのだ。


「世界中の魔法を継承するほどの名家は、その全てが政府が所持している「証明の石板」というものに登録していてね。誰が魔法を引き継いでいるかはわからないが、何人が魔法を覚えているのかはわかってしまうんだよ」


「……便利だねえ」


 と言うしかないだろう!


「なんでそんなものに登録するんだよ?」


「秘匿性と平等は確かに守られるというのが一つ、そして魔法社会が一丸であると言う証明をするために、わかりやすい結束が求められているのだよ」


 ま、まあ確かに何人の人間が魔法を覚えているかなんて、誰に知られてもマイナスはないだろう。


「そして、登録をしなければどれだけの名家だとしても、決して魔法社会に認められることがないのだ。否が応もないし、なにより決断をしたのは初代だ。我々に選択権など存在しない」


 それは、初代の勝手な決断か?


 いや、別に実害はないのだから正しい選択だったのだろう。


 この件で言えば、子孫が不甲斐ないと言うことだと思う。


 自分の家の魔法一つぐらい覚える実力は持っとけよ。

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