魔力というものの価値
荒れてしまった教室を頑張って修復している生徒たちを眺めながら、ぼくは遊びに行った二つの命を想う。
「なあ、もしフルーツが死んだらぼくが文句を言われるのかなあ」
教室に残っているグリムとギースに質問をしてみる。
正確な答えを期待していたわけではなかったが、しっかりとした答えを返してくれる。
「責任の所在は流石にわからないけど、心配することはないと思うよ」
「ええ、確かにフルーツちゃんの才能は凄まじいですけどね。その精神はまだ子供です、ベイカーくんには勝てませんよ。そしてベイカー君は子供と遊んであげるぐらいにしか思っていませんから」
「そうだよね、シナモンは子供相手に本気で戦えるような男じゃないよ。英国紳士だから」
成程、ぼくにはあの二人の強さなんて全然わからないが。
この二人にはある程度わかるのか。
「便利だなあ」
「無限君にもそのうちわかるようになりますよ。今でも少しぐらいはわかるんじゃないですか?」
残念ながら、ちっともわからない。
強さというものは、真っ当な魔法使いなら見習いでも少しはわかるものなのだろうか。
「しかし、なんだねえ。ホムンクルスってのは短気なのか?」
だとしたら欠陥生物と言いたい。
ぼくの護衛のくせに、勝手に怒って勝手に戦いに行ってしまった。
これがどっかの戦場だったら何の役にも立たない。
ぼくは殺されているんじゃないか?
「そうだね、ホムンクルスに限らず人が創った生物は全般的に忠誠心が高いよ」
「そうですね。それは魔法でも科学でも変わらないでしょう。ロボットだって三原則があるでしょう?」
ロボット三原則は忠誠心とは関係がないと思うが。
まあ人間に逆らえないのは一緒か。
「それに、なんか剣みたいなの持ってたよね。あれは?」
ホムンクルスの特技か?
「あれはただの創造魔法ですよ。人間だって使えます」
「効率は凄く悪いけどね。創造魔法は種族や立場によって作れるもののレベルが変わるし、必要な魔力も多い。まあ人間向きの魔法じゃないよね」
「分類も多いですしね。物質創造魔法、自然創造魔法、人体創造魔法など様々に分岐します」
面倒なことこの上ないな。
「じゃあ、あれは? なんか主席くんの手が赤く光ってた」
「あれは単純に手に魔力を纏わせていただけですよ」
「そうそう、赤かったのは単純にシナモンの属性が火だっただけだよ」
「属性?」
また新しいことが。
「全ての生物は先天的に属性を持っているだけですよ。まあ修行をすれば複数の属性を持てますが、この話は長くなりますからやめましょう。そのうちルーシー先生にでも教えてもらってください」
教えてもらう前に忘れそうだな。
「成程、素手で真剣を受け止めるなんてすごいと思ったがそんな仕組みが」
「まあ、魔力は根本的なものだからねえ。究極的に言うと凄い魔力があれば、魔法なんて一切いらないぐらいだよ」
「なんで?」
「魔力は全ての源だからさ。体に纏わせればあらゆるものを壊せたり、あるいは空を飛んだり傷を治せたりもできる」
それが本当なら確かに魔法なんていらない。
一々、危険を冒してまで魔法を覚える必要がない。
「じゃあ、なんで魔法を覚えるんだ?」
「そりゃ、そんなものはただの理想論だからだよ」
「魔力だけで事をなすには、莫大な魔力が必要なんですよ。確かに命の危険を冒すこともなく、長い呪文も必要ないですが」
「ああ。とても必要な魔力なんて賄えない。学院長でも無理だし、ドラゴンの長でも絶対に無理だと既に証明されているよ」
学院長は知らないが、ドラゴンの長でも無理ってのはその理不尽さを証明している気がする。
どんな物語でもドラゴンは凄いものだし。
「まあ、そんな奇跡を成し遂げたいなら、この世に存在しない無限の魔力を持たないと無理だろうね」
「それこそ不可能ですよ。やっぱり地道に修行して命の危険を冒してでも、魔法を覚えるのが一番の成長につながると思いますよ」
「確かにね、無限の魔力なんて追い求める価値はないだろうさ。絶対に手に入らないだろうから」
グリムとギースは勝手に会話を進めて、勝手に結論を出して話を終わらせた。
まあ普通なら無限の魔力なんて、夢物語なのだろうが……。
学院長はぼくに無限の魔力がある、みたいなことを言っていた気がする。
ただ、ぼくには魔法を使う才能が一切ないから魔法を使えないだけだと。
それなら魔力を直接使うことなら出来るのだろうか。
ぼくは右手を前に出し、力を込めてみる。
だが、魔力なんてものはちっとも感じないし、別に変な色に光ったりもしない。
今度、学院長にもう少し詳しく話を聞こうと思うが……。
なんとなく、これも無理なんだろうなって思った。
まあいいか。
ないものねだりは趣味じゃないし、戦えるようになるのも面倒だ。
本当に危なくなったら考えるけど、今みたいに適当に生きることが出来ている間は、いつまでも無力な一般人でいたいと思う。
「戦うのって、楽しそうだけど痛そうだし」
痛いのは嫌いなのだ。
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