魔獣の種類

 


「さて、おれたちはどうしようか? シナモンが行ってしまった以上、追いかけても……」


「あいつのことはどうでもいい。それより話の続きを聞かせてくれ」


 どれだけ頑張ってもぼくには魔法も使えないし、武器も使えない。


 残念ながらこんなに面白そうな話に参加できない以上、話だけでももっと聞きたい。


「続き? 必要なことは大体話したと思うけど」


「なら襲ってきている奴らの話をしてくれ。どんなのがいるんだ?」


 この学院にはどれだけ面白い生物がいるのか、ぼくの興味は尽きない。


 場合によっては、ぼくの今後に関わる。


「この学院には七大種族というトップレベルで強い魔物がいるんだよ、あくまでも学院の中での括りだけどね。ゴーレム種、妖精種、鬼種、幻獣種、キメラ種、不死種、精霊種。まあ世界規模で言うともっと強い種族なんてゴロゴロいるんだけど学院の中では……」


 そうだろうな、ぼくのような一般人からしてももっと強そうな魔物はいそうだし。


 なんていうかドラゴンとか、天使とか悪魔とか他にも色々。


「何故その七つの種族が強いと言われているかというと、一族を治めている長が桁外れに強いからだよ。鬼種のグラドリアスや不死種のドグリギスなど、名前も判明しているほどに有名だ」


「じゃあ今襲ってきているゴーレムは?」


「おれは名前を知らなかったな。下っ端、いやこの校舎を襲うことが出来ているから期待の新人かもしれないね」


 そんなところなのか。


「でも、それじゃあそいつらみたいな本当に強い奴らが襲ってきたら全滅するんじゃないか?」


「ああ、それは大丈夫だよ。本当に手に負えないような強い魔物が襲ってきたら学院長が戦ってくれるから」


 ……成程。そういえばあの男は妖精の偉い奴が戦いを避けるほどだったな。


「学院長がこれまでに単独で討伐した魔物の数と、その名前を調べてみるといい。安心するからね」


 相当、暴れまわっているようだな。


「けど学院長は教師や生徒の手に負えないような魔物が現れないと、絶対に助けてはくれないんだ。……そう、どれだけの犠牲が出ても自分たちで倒せるのなら助けてはくれない」


 まあ、確かにそういう奴だったな。


「この学院には学院長がいるから、どれだけ危険な場所でも安全だと勘違いして来た教師や生徒が毎年たくさん死んでいるって授業で聞かされたよ」


 うーん、納得だ。


「だからまあ、死にたくなかったら過信をせずに安全な場所で暮らすのが正しい判断なのさ。君も気をつけるといい」


 気をつけるもなにも戦う手段が全くないぼくだと、おそらくはこの学院に住んでいる最弱の魔物が相手でも殺されると思うのだが。


 まあ、それを理由に自分の行動を制限する気も全くないが。


「さて、それでは帰りましょうか」


 外を眺めて楽しんでいたグリンがそんなことを言い出した。


「帰る?」


「ええ、この校舎を襲うことが出来るほどの魔物です。いつも通り一日や二日では倒すことも追い払うことも出来ませんよ。毎回移動魔法が得意な教師が家や寮に送ってくれますから帰れるんです。その間は休校になります」


 成程、思いもがけずまた休みになったようだ。



 ☆



「なんでいるの?」


 ぼくたち生徒は魔物の襲来により学校が休みになった。


 だが、何故教師であるはずのヴィーが家でゆっくりしているのだろうか。


「そりゃあ、わたしは戦力にならないからねえ」


 なんでもヴィーは必殺の手段を持っていてもその効率は著しく悪いし、それ以外の魔法の腕で言うと二流から三流がいいところなので帰っていいと言われているらしい。


 その代わり本当に危なくなったら協力するのだと。



 ☆



 あれから三日が経った。


 未だにルシルは帰ってくる気配の欠片もないが、ゴーレムを追い払うことが出来たらしい。


 ヴィーに聞いたところ、最近は例え学院長が助けてくれなくても世界最高の魔法使いであるルシルがいたので、魔物に怯えるような人間は一人もいなかったらしい。


 いつも一撃で魔物を追い払うルシルの存在のせいで、この学院の教師も生徒も平和ボケをしていたのだと。


 そのせいで、本来はそこまで強いレベルではない今回のゴーレムにも苦戦をしたし、重傷者もかなりの数が出てしまったようだ。


 そんな話を聞くと学院長が簡単には教師や生徒を助けてやらないことも納得できてしまう。


 つまりはこの学院を卒業した後、学院長やルシルなどの最強レベルの存在が味方にいないときに絶望しないようにしているのだろう。


 自分たちのことは自分たちでなんとかしなければならないというのが、あの学院長の教育方針だと思った。


……当然、その裏には面倒だから自分に頼るなという意思も伝わってくるのだが。

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