校舎への攻撃
この俺が教師になど怯えるわけがない。
そんな強がりを言いながら、休憩時間になると主席くんはぼくを引き連れて教室の最後尾に移動する。
釣られるように、魔法使いたちもぼくらの近くに移動した。
「成程、学年主席の貴族様でも教師の怒りには勝てないようだな」
「何を言っている! 俺は貴族として庶民共の声には常に耳を傾けているに過ぎない!」
どうしても素直になれない主席くんを見下した目で見ているぼくと、苦笑している魔法使いくんとグリムだった。
☆
いつまでもグズグズと鬱陶しい主席くんを無視して、魔法使いくんの師匠の話を聞いていると……。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
突然の立っていられないほどの振動と、耳障りな咆哮が校舎中に響き渡る。
ぼくは地震かと思い身を低くするが、周りの人間の様子を窺うと全く違うらしい。
クラス中の人間が窓の外を見ていることから、この現象は外に原因があることが分かった。
もうこの時点である程度の想像が出来てしまい、とても嫌になる。
あの黒犬の咆哮も、同じような威圧感を持っていたから。
「何をしている! 貴様もこっちにこい!」
主席くんの誘いに乗り、ぼくも近くに寄って外を眺める。
そこには石で出来た巨大な怪物がいた。
簡単に言えばこの五階建ての校舎よりも少し大きいサイズの化け物だ。
その化け物は右腕を振りかぶると、大体三階の部分をぶん殴った。
「グオオオオオオオオ!」
もう一度起こった振動で、成程最初の振動も校舎を殴られていたのだと理解する。
だが、あんなに巨大な生物がこれだけ近くにいるのに何故誰も気付かなかったのだろう。
「あれは、ゴーレム種だね。それも若い、おそらくはまだ名前もないのだろうさ」
「なんか、詳しそうだ」
ぼくは隣で何かを呟いている魔法使いくんに注目する。
「そうか、君は授業に出ていなかったから知らないのか。魔物学の授業で習った事さ」
「説明してくれ」
ぼくは物知りそうな魔法使いに、とっとと話せと言った。
「この学院は様々な種族と共生している。ゴーレム種はそのうちの一つさ」
「ちゃんと共生できているなら何故、この学院を襲う?」
「この学院の他種族との共生の方法は、そうだね。住みたければ住んでもいいよ、自分たちの住処と繋げたいのなら好きにすればいいという感じなのさ」
「ルールはないのか?」
それではあまりにも無法すぎるだろう。
ただの人間では生きるのに厳しすぎる。
「ないね、どんなことも自由さ。人間を殺すのも、連れ去るのも」
おいおい。
「その代わり、こちらの自由も約束されている。この学院、山の中に存在する全ての種族は殺されても文句は言えない。それで強くなるために他種族狩りをしている生徒がたくさんいるよ」
お互いさまというわけか。
「校舎や、寮のような最低限の建物には優秀な結界が張ってあるから安全だけどね。能力の低い魔法使いには安全が約束されている」
そういえば、外に出るときは必ず複数で行動すること。
危なくなったら教師が助けに来ると聞いたことがある。でも、教師にも死傷者が出ているのも事実だ。
「なんでそんな風になってんだ?」
「勿論、生徒を強くするためさ。平和の中では優秀な人材は現れないというのが学院長の思想だからね。世界で最高の魔法使いの学院を維持するために、このやり方は継続されている」
やはりあの男が全ての元凶なのか?
とっとと誰かに滅ぼされればいいのに。
「あ、出てきましたね」
魔法使いに話を聞いていると、外を見ながらグリムが嬉しそうな声をあげる。
そこにはこの学院の教師が数を揃え、ゴーレムに攻撃を仕掛けていた。
「校舎や寮には優秀な結界が張られているって言ったよね? でもその種類は他種族に認識されないというもので、どれだけ攻撃されても決して壊れないというものじゃない。そして、一定以上の強さを持つ魔物には発見されてしまう」
なんだ、それ。
それでは強い奴に見つけてもらって襲ってきてほしいみたいだ。
「その通りだよ、強い魔物に襲ってもらって戦って倒すためにそういう仕組みになっているのさ。教師や生徒を強くするためにね」
戦闘狂にもほどがある。そう考えていると放送が流れた。
「いま校舎を攻撃しているのはゴーレム種、個体名メリオロンだと判明しました。自身がある生徒は防衛に参加してください。最低条件は三年生以上です」
「なんだ、個体名があるのか。それは楽しそうだな、俺も参加しよう」
「待ってください、今回の最低条件は三年生以上ですよ?」
「なに、学院の防衛に当たるのだから正しい行為だ。それに自分が強くするためなら何でも許されるのがこの学院の校風だろう? 戦って生き残れば文句などあるまい!」
主席くんがバカみたいなことを言いながら窓から飛び降りて、嬉々としてゴーレムに向かっていく。
ぼくはとりあえず、形として両手を合わせご冥福を祈った。
「「まだ死んでないから!」」
すると二人のツッコミが綺麗に合わさっていた。
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