うるさい
「……結局学院長ですか。でもそんなものは魔法で治せばいいのでは?」
「建物ごと消滅しちゃったからねえ。一応、正義は私にあったからかなりの減額をしてもらったんだけど。それでも高かった。それと、やっぱり優秀な復元魔法を使える人は少ない。町や、重要な物品を破壊したときにそういう専門家に依頼するんだけど、超高額なんだよ?」
「そうなんですね」
「うん、君は天才だから使えない魔法はないだろうけど。普通の魔法使いは大した魔法を使えないんだから。まあ、もっぱら壊す魔法は得意な人が多いんだけど」
それはそうだろう。
火を出す魔法では人を傷つけることが出来ても、治すことは出来ないと思う。
きっと何かを治す魔法とは、もっと専門的なものだろう。
「まあ、いいや。こんなつまらない話は。それより無限くんはどのくらいで魔法を覚える予定なんだい? 依頼なんだからそこまでは出発を延ばせないだろう? 君は覚えるのに二週間かかったよね?」
ルシルは二週間も苦しんだのか。それは大変だったな。
ぼくはなんともないけど。
「どれだけ時間がかかろうと、魔法を覚えるまでは出発しません。それと、魔法を覚える期間は精神力次第ですから」
「いつまでも待つか。いや、無限くんには怨まれていそうだね」
「仕方ないです。死なれてはたまりませんから」
それだけ話すと、ルシルと学院長が部屋を出ていく音が聞こえた。
ぼくも退屈なので、寝ることにした。
☆
また、誰かが入ってきた。
「へえ、むーくんが元気そうで良かったね」
「はい。本当に強い子だと思います」
今度は、ルシルとヴィーらしい。
どうでもいいが、どいつもこいつも一々ぼくの顔を見にくるな。
奴らは感覚的にすぐ近くまで来て、顔を覗き込んでいる。
鬱陶しくて、迷惑だ。
リビングで話してくれ。
「それで、どうですか?ムゲンくんはどのぐらいで魔法を覚えますか?」
「あと二十秒だね」
ヴィーは本当に何かを見通しているらしく、きっちり二十秒後に目蓋越しでも分かるほどの、緑色の光が枕元の辺りから感じられた。
ちなみに、ぼくは学生証を制服に入れっぱなしなので、ルシルが取り出し、枕元に置いたのだろう。
「流石ですね、アイマスクも外していないのに。でもこれで、ムゲン君が目を覚ましたら魔法を覚えています。でも常時魔法はちゃんと発動するんでしょうか? ムゲン君のことだから、やはり使えないのでは?」
「それはないよ。大まかに言ってむーくんは魔法を使うのが下手なだけだからね。魔法が勝手に発動してくれれば、問題はないさ」
「そうですか。……なら、魔道具や使い魔の類ならムゲン君にも使えそうですね」
魔法を覚えたことにより、自動的に体の毒が消えたらしく、体は自由に動きそうだ。
「そうだね。その辺りは色々と複雑だろうけど、少しは期待できるかもね。……いやあ、それにしてもルーシーは本当にむーくんが大事なんだね」
「な、なんですか急に」
だが、面白そうなので暫くこのままでいることにする。
「だってさあ、むーくんが心配で心配でわたしを呼び出したんでしょう?体を診て欲しいって」
「う、うるさいですよ! 初めての愛弟子なんですから可愛いに決まっているじゃないですか! あなただって弟子は可愛いでしょう!」
「うーん? 可愛いは可愛いけど、何かあっても別に心配とかはしたことないな。わたしは放任主義だからね。ルーシーみたいにべったりはしないよ」
「確かに、私はあなたには絶対に師匠になって欲しくないと思いますが、それにしては無限くんのことを随分気にかけていませんか? むーくんとか呼んでますし」
「口を尖らせちゃって。嫉妬かい? 可愛いなあ。いや、なに。なんとなく波長が会うんだよね。似た者同士みたいだから」
「確かに。学生時代を思い出します。あなたも私の手を焼かせてくれましたからね」
目を開けなくても、苦々しい表情のルシルが脳裏に浮かぶ。
「まあ、いい友達。あるいは弟みたいなものだよ。心配しなくても取らないよ。わたしにはむーくんに覚えて欲しい魔法なんてないからね。師匠にはなれない」
「そうですか? それならいいですけど」
「おや? ルーシーは弟子が大事なだけかい? むーくん自身はどうでもいいのかい?」
「どうでしょう。正直よくわかりません。仲良くしたいとは思っているんです。でも、はっきりと言ってしまえば、私たちはお互いを必要としてはいない気がします」
「へえ」
「私は弟子が欲しい。……そして、ムゲンくんは誰も必要とはしていませんよ。最近理解しましたが、私たちの間にある溝は深いと思います」
当然と言えば当然の話しだが、ぼくとルシルは利害関係が一致しているだけに過ぎない。
ルシルは弟子が欲しい。ぼくはワールドバンドのメンバーに会いたい。
別に、仲良くする必要はない。
「もうこの話しはいいです。ところで、ムゲンくんはどのぐらいで目覚めるんですか?」
「いや? むーくんはずっと意識があるよ? 単純に君が飲ませた睡眠薬で数時間は眠っていたけど、効果が切れてからはずっと起きているよ。ねえ?」
「ああ、学院長との会話もバッチリ聞いていたよ」
ぼくは目を開けてそう答えた。
「もう!!!!」
顔を真っ赤にして、ルシルは叫ぶ。
つまるところ、ぼくに意識があることに気づかなかったのはルシルだけだった。
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