魔法使いの将来

 


「まあ、ぶっちゃけ、魔法使いを目指すの止めろって言わなきゃなんねえレベルだな」


 お菓子教師ははっきりとそう言った。もう少し柔らかく言って貰いたいものだ。


「だが、お前ほどじゃなくても、魔力がほとんどねえのに色々な目的を持って魔法使いを目指す奴は結構いんだよ。そういう奴にはいつも同じことを進めてる」


 同じ事、同じ道。


「魔法使いが倒さなきゃならねえ奴ってのは魔法以外の方法でも倒せる奴も結構いるからな。よっぽど上手くやれば近代兵器で幻想を砕けたりもするんだぜ?」


 どうやらとことん、ファンタジーと言うものはリアリティに溢れているらしい。


「まあ、それはあくまでもすげえ未来の話だ。そんなこととは関係なく、お前がこの学院にいたいのなら強くなる必要がある。何故なら、この学院には死が溢れているからだ」


 死が、溢れている。


 それは、この世界のどこにいても同じなのではないか。


「もっと言えば、死が身近にあり過ぎる、と言ってもいい。この学院、いやこの山の全てで危険ではない場所なんかないし、学院の中だって危険しかない、生徒同士の決闘や危険生物なんて話をする以前に、ただ授業を受けるだけでも一般人には厳しいんだぜ。てめえがこの学院にいたいのならとっとと強くならなきゃ死んじまうのさ。だから……」


「なんでぼくに親切にしてくれるんですか?ぼく以外にも弱い奴なんていくらでもいるでしょ?」


 これは明確な特別扱いにしか思えない。


 ルシルとは縁がなさそうな教師なのに。


「まあ、俺はお前みたいに弱い奴を見つけると全員に同じ話を振るが、それでも確かにお前を特別扱いしているな」


 それは、どういう意図で。どういう理由で。


「だっててめえは弱すぎる。この学院にいる以上は、どれだけ弱い奴でも少しは魔力があるもんだ。特にお前がいる1組はな」


 まあ優秀なクラスらしいから。


「どうやら世界最高の魔法使いはてめえを強くする気がねえみたいだから、俺が贔屓ぐらいしてやらねえとあっと言う間に死んじまうんだよ。はっきり言っておくが、てめえは新入生の中で一番弱いんだからな」


 まあ、ルシルがぼくを強くする気がないのは明白だ。


 あいつはぼくが魔法を覚えればそれ以上に何かを求める気はないのだから。


 いざとなれば自分が助ければいいとでも思っているのだろう。


 ぼくにはそれだけの価値はあるつもりだし。


「魔力=生命力って言葉を知ってるか?偉い魔法学者が公式に発表した定説でな。魔力量が多い奴ほど長生きしたり、怪我や病気がすぐ治るんだと。お前みたいに魔力が全くないやつだとあっという間に死ぬってことだ」


 なるほど、言われてみれば小さいころからあまり病気になったこともないし、怪我もすぐ治って医者に驚かれたりしたものだ。


「だから、お前を強くしてやる」


「どうやって?」


「決まってるだろう。魔法が使えないんだったら武術でも習えや」



 ★



 空手、柔道、剣道、合気道、剣術、その他いろいろ、夕方になるまでとりあえず触りだけ習ってみた。


 なんでもそれだけで、ぼくに才能があるのかないのかわかるらしいからだ。


 ……結論から言うと、ぼくには何一つ才能がないらしい。


「……やべえな、まさか仙術まで出来ねえとは」


 仙術とは、体の外にある魔力を使うものらしい。


 なんでも魔力と言うものには二種類あり、自分の中にあるものと、世界のどこにでもあるものだ。


 ぼくの中には魔力がない、と思っているので外にある魔力を使えばどうかという結論になったのだ。


 だが、外の魔力を使うにも一度自分の内側に入れる、あくまでも自分を通して魔力を使うらしく、ぼくの内側に一度入れてしまった時点で、外の魔力は消えてしまうらしい。


「なんなんだこれは、魔力が増えたり減ったりするならともかく、完全に消えるなんてことがあるのか?」


 お菓子教師は疑問が尽きないようだが、ぼくは一つの結論に達した。


「先生、ぼくは決めたよ」


「あん、なにを?」


「もう、強くなることはきっぱりと諦めて誰か強い人に守ってもらうことにする」


 そう、始める前と何も変わらないという結論だ。


「……じゃあ、一人きりの時はどうすんだよ。教師に助けてくれって言う時間がない時だぜ?」


「そのときは潔く諦めるよ」


「こ、の。大馬鹿が!!俺の話を聞いてたのか!なんにもわかってねえじゃねえか!!


 怒鳴られてしまったが、人間というものは本当にどうしようもない時には、諦めるしかないと思う。


 散々に説教されたが、このお菓子教師がいい人であることに疑いの余地はなく。


 何故か結局最後まで、ぼくにはたくさんの魔力があることを言い出せなかった。



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