妖精に悪戯された
「こうなったらもう、魔道具に頼るしかねえな」
お菓子教師は覚悟を決めたようにそう言った。
「専門じゃねえし、お前に楽をさせるみたいで嫌なんだが、命には代えられねえしな。……全く、普通どんなに弱い奴でも、一つぐらいは武術の才能があるもんだがな」
呆れたように言われたが、そんなことはほっといて欲しい。
才能が有るとか、無いとかまで責められる筋合いはない。それはそういう形に産んだぼくの親に言ってくれ。
「よし、切り替えるぞ。今から魔道具の専門家である、ヒューゴの所に行ってくる」
お菓子教師はどこかに行こうとするが、室内に入ってきたぼくの知らない教師に呼び止められてしまう。
「ああ、パーカー先生。ここにいたんですね?教頭先生がお呼びですよ。まったく、いつでも連絡がつくようにしておいてくださいって言っておいたでしょう?」
「あ?悪いな。スマホの充電が切れてる。……しゃあねえな。おい無限。明日、また来いよ」
「はあ」
おそらく、二度と来ることはないだろう。
「一人だが、電灯がついている道を歩けば危険は少ない。寄り道するなよ」
「わかった」
★
校舎の外に出たが、外は既に暗い。
大体が、ここはどこかわからない。お菓子教師に無理矢理連れてこられたせいだ。
初めて来た場所はよくわからない。
「まあ、適当に歩けばいいか」
とりあえず、言われたとおりに明るい場所を歩く。
夜の暗闇に普通の人間は恐怖を感じるらしいが、ぼくは心地よさを感じる。
「ぼくは、実は吸血鬼なのかもしれない。なんて」
冗談にならないことを口にする。
最近、ぼくの中で現実と非現実が入り混じり過ぎて、どんなことでも有り得るような気がしているのだ。
そう、例えばぼくが人間ではなく、本当は化け物だっとしても今ならそんなに驚かない。
「まあ、魔法使いなんてものが普通の人間なのかは知らないが」
物事を考えていると、時間はあっという間に過ぎるものだ。
いつの間にかぼくは、見覚えがある道を歩いているようだった。
もう少し歩けばルシルの家に帰れるかもしれない。
……だが。
「あははははははは」
さっきからぼくの周りを妖精たちが飛んでいる。
どうやら懐かれたようだが、これだけ幻想的な風景なら嫌な気分はしない。
妖精と言うものは夜には光る物らしい、まるで蛍だ。
「ムゲン」
「ムゲンムゲン」
「ムゲンムゲンムゲン」
妖精たちはさっきから人の名前を連呼している。
不用意に名前を教えたのは失敗だったかもしれない。鬱陶しいにも程がある。
見ている分には綺麗なのだから、ただ飛び回っていればいいものを。
心の中で不満を抱えていると、ぼくの肩に座っていた他のと比べて少し格上っぽい妖精が話しかけてきた。
「ねえ、無限。あたしたちの所に来ない?」
「お前たちのところ?」
「そう、妖精郷よ。一緒に行こう」
「面倒だ」
「そんなことないよ。直ぐ行ける」
「学校の中にあるのか?」
「知らないの?この学院は色んな他種族と契約しているから、ほんの少し位相をずらすだけで様々な世界と繋がるの。あたしたちが案内すればすぐだよ」
「ふーん」
「一緒に行こう?」
「でも、お腹がすいたし」
今日はたくさんお菓子を食べたが、所詮は繋ぎ。
やはり普通の料理も食べたい。
「でも、実はもう無限は妖精郷に向かっているんだよ。この辺りは見たことがないでしょ?」
言われてみれば、妖精たちを見るのに夢中で、今ではよくわからない場所を歩いているようだ。
「ふふふ、大体、今から元の場所になって戻れないよ。無限はあたしたちについてくるしかないの」
成る程、いつの間にかぼくは、惑わされたということか。
「まあ、いいよ。それで、あとどのぐらいで着くの?」
「……随分とあっさりしてるね、もう着くよ。無限が納得したからね。移動するってことは、納得するってことなの。行きたいところには行けるし、行きたくないところには行けない。無限は今、妖精郷に行きたいって思ったから……」
妖精がそこまで語ると、急に周りが眩しく光り。
「ほら、着いたよ」
そこは確かに幻想的な風景だった。
「来たかいがあったな」
ぼくは、納得した。
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