弱者の歩く道
かくして、二人の決闘は終わった。金髪の生徒に殴られることによって。
「よし、じゃあ今から逃げてった生徒たちを呼び戻して、修繕班を呼ぶ。お前らは隅の方で大人しくしてろ、すぐに終わるからよ」
お菓子教師はそう言うと、どこかに連絡を始めた。
金髪の生徒は気にせずに席に座っていたが、それ以外の教室に残っている生徒は後ろの方にまとまった。
ぼくはお菓子教師の言葉を完全に無視して、教壇に置いてあるお菓子を追加で食べる。
じろっと睨まれたが、お菓子教師は忙しいようで文句は言われなかった。
「ふむ、飲み物が欲しいな」
さっきからクッキーを食べているので、口の中がパサパサになった。
ぼくは鞄に入れておいたお茶のペットボトルを取り出し、口に含む。
学校に来るまでに買っておいてよかった。
いや、買ってもらっておいてよかった、と言うべきか。
寛ぎながらぼんやりとしていると、教師っぽい人たちが三人ほど教室に入り、魔法を唱える。
すると、みるみる内に決闘で壊れてしまっていた備品やガラスが元通りになる。
なるほど、こういう魔法を覚えれば楽だな。
だが、どれだけ便利な魔法でも、覚えるのに命をかけるのであれば、それは果たして得になるのだろうか?
そんな風になんとなく真面目なことを考えていると、逃げて行った生徒が全員戻ってきて、クラス中にお菓子教師が宣言する。
「ちっ、授業を再開したいところだが、時間がない。それどころか次の先生が来ちまってるな!しょうがねえ、授業は終わりだ。次からは真面目にやるからよ!」
いつの間にか教室に来ていた、次の授業の担当らしき男性教師が苦笑している。
その余裕の表情から、おそらく授業が途中で終わることはよくあることなのだろうと伺える。
「おう、無限。お前ちょっと俺について来いよ」
お菓子教師は、とっとと職員室にでも帰ると思ったがぼくに声をかけてきた。
「いや、授業があるんで」
面倒な予感がひしひしとするので、その誘いを素っ気なく断る。
「てめえなんか、どうせ寝て過ごすんだろう。だったら俺についてこい。お菓子やるからよ」
「行く」
だが、まだ物足りないのでお菓子の誘惑に負けてしまう。
「おい、頼むぞ」
お菓子教師は次の授業の教師に声をかける。
「了解です、いつものですね。彼は出席扱いにしておきます」
なにやら意味が分からないが、授業は出席扱いでお菓子が食べ放題。
……これは素晴らしいと言うしかないな。
教師公認で授業中に遊び放題ということだろうか?
ここはそんなに甘い学院なのか?
★
「おう、まあ寛げや」
ここに来るまでに、またもふらふらしていたら首根っこを掴まれて連れてこられた。
だから、ここがどこにあるのかは知らない。わかるのは、とっても誰かの部屋だという雰囲気があるということだ。
無機質な印象など、全く感じない。
乱雑した漫画や、様々な種類のお菓子、私服などもあちこちに散らばっている。
「なんだ、ここは?」
「俺の部屋だよ。研究室だと言ってもいい。この学院の教師は、学院内に一部屋与えられているんだぜ?世界最高の魔法使いだって持ってんだろう?」
「そういえば、ありましたね」
ぼくにとって何の役にも立たなかった部屋が。
一度行っただけだが。
「まあ、お菓子でもつまみながら俺の話を聞けよ。お前には魔法を使う才能がない。何故なら魔法を使うための魔力が全くねえからだ」
急に真面目な話が始まった。
うーん、お菓子教師の中でぼくは魔力が全くないことになっているらしい。
が、話の腰を折るのは止めておこう。
ぼくが魔法を使えないのは間違いないらしいのだから。
お菓子教師が言いたいことは何も変わらないだろう。
「だからお前の生きる道は、魔法を使わない戦い方を身に着けるしかねえ」
「なんで、戦うことが前提なんですか?魔法使いだからって絶対戦う必要はないでしょう?」
「確かにな、基本的に魔法使いって職業がすることは大まかに分けて三つだ。一つは戦う道。魔法をたくさん覚えて戦争に行ったり、異種族なんかの危険な奴らと戦うこと」
うん、あらゆる意味でぼくがその道を歩くことはないな。
「二つ目は魔法を作る道。てめえが魔法を作ってオリジナル魔法から一般魔法にすることだ、魔法社会に認めてもらってな」
無理だって。魔法が使えないんだから。
「三つめは、俺らみたいに後進を育てる教師や師匠になって弟子を育てたりすることだ。他の道も色々あるにはある。だがな、魔法を使えねえ魔法使いには一つ目の道を選ぶしかねえんだよ。魔力を使えなきゃ、二つ目の道も三つ目の道も選べるわきゃねえんだから」
……まあ、そうだ。
魔法が使えないのに新しい魔法を作れるわけないし、誰かに教えることもできないだろう。
だが、戦うことは誰にでも出来る。
魔法が使えなくても、どれだけ弱くても戦える。
お菓子教師はそう言いたいのだろう。
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