ムゲンとヴィーは仲良しになれそう

 


 ルシルの家を飛び出したはいいが、ヴィーの家が分からなかった。


 ぼくの後ろから付いてきていたルシルに道を尋ねると、本当に勘弁してくださいと言われてしまったので、諦めて家に帰ることにした。残念だ。


 ☆


 ベッドで心安らかにすやすやと眠ったおかげか、今朝の目覚めはよかった。


 何が気にくわなかったかは知らないが、朝からこのぼくに説教を始めたルシルをスルーして朝食を食べ、そろそろ登校するかなあと考えていると、来客を示すベルの音が鳴った。


 ルシルがちらりとぼくの方を見たので、ぼくは手で行ってこいと合図をする。


「私が師匠のはずなんですけど?」


 ぼくにはよく聞こえなかったが、なにやら小さく呟きながらルシルが玄関のドアを開けると、騒がしい客の声がした。


「やあ、ルーシー。おはよう」


「ヴィ、ヴィーですか?おはようございます。でも、何の用ですか?」


 うーん、仲のいい友人が会いに来ているはずなのに、明らかにルシルの声からは嫌そうな感じが伝わる。


 見られたくない所を見られたとでも思っているのだろうか。


 ルシルがヴィーと、その弟子達を連れて、家の中の寛いでいるぼくの所まで入ってきた。


「なに、むーくんがわたしに見てもらいたいものがあるんじゃないかと思ってね」


 ヴィーはぼくの顔を見て、にっこりと笑った。


「む、むーくん?あなたたちはいつの間にそこまで親しくなったんですか!」


 ヴィーの言葉に、ルシルがとても驚く。


 だが、うん、ぼくも驚いた。


 だが、見てもらいたいもの?


 ピンときた。ぼくは急いで自室に戻り、着替える。


「ヴィー、どうだろうか?」


 ぼくは魔法使いの格好をヴィーに見せびらかした。


 すると、ぼくの望み通りにあらゆる言葉でヴィーはぼくを褒め称えた。



 ★



 いや、とてもすっきりした。やはり褒められるのはいい気分になれる。


 ぼくはこの三十分で、ヴィーに対する評価を八段階ぐらい上げた。


「でも、なんでぼくが誰かに魔法使いの服を見せたかったって知ってたの?右目で見たのか?」


「それにはおよばないよ。これでもわたしはとても鋭い。それにわたしはむーくんと似ているからね。私ならこうするだろうな、と思ったんだ」


 成る程、凄い説得力だ。


 なんとなく、ぼくもヴィーとは通じるところがあると思っていた。


「ところで、むーくん。今日からわたしの弟子たちと一緒に登下校をしてもらうよ」


「なんで?」


 むーくんは聞き逃せてもそれは聞き逃せない。ぼくは誰かと一緒に何かをするとか、予定を勝手に決められたりするのが大嫌いなのだ。


「これはルーシーとも話し合った結果なんだけどね、むーくんが一人で行動するのはとても危ないんだ、ねえルーシー」


「はい。絶対にダメです。出来れば四六時中、誰かにムゲンくんの傍にいてほしいです」


「むう、いくらぼくが魔法を使えないからって子ども扱いをし過ぎじゃないか?」


「ダメです。お願いしますね」


「むう」


 納得がいかない。全然納得がいかない。


「それとアイラとジェスは、むーくんのことを色々と助けてあげてね」


「ええ!なんで?」


 ヴィーの突然の言葉に、弟子達は大きな声を上げるほど驚いた。


「なんでって、むーくんは魔法学院で魔法が使えないんだ。それがどれだけ不便で危険なことが君たちにもわかるよね?」


「で、でもそれは自己責任でしょ?」


「まあ、確かに色々と事情があるからって自己責任なのは変わらないかもね。でも可哀そうでしょ?助けてあげてね」


 ヴィーの優しい言葉に双子の弟子共が反発している。だが、なんとなく押されてこの話は終わったようだ。


「でも別に、ルシルがぼくの傍にいればいいだろう?」


 なにしろ世界最高の魔法使いなんだ。一番ぼくの安全を保障できるだろうに。


「なんだかんだ言っても私とヴィーは教師ですからね。いつもムゲンくんの傍にはいられません。時々、とても速い時間に学院に行かなければならない日もありますけど、一緒に早起きしてくれますか?残業がある日には遅くまで学校に残ってくれますか?」


「断る」


「そういうことです。よろしくお願いしますね」


 ルシルはわかっていたと言わんばかりに苦笑しながら、ぼくたちにお願いをする。


「うー、わかったよ。じゃあ学校に行くよ。無限くん、ジェス」


「ああ」


「はいはい」

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