弟子になる理由
「どういうことだい?」
ぼくとルーシー先生の答えが違うことに、学院長は困惑しているようだ。
「最初に、ルーシー先生に弟子にして欲しいって言ったんだけど、ぼくには無理だって断られた。でも、それなら魔力量だけでも調べてほしいって言ったんだよ」
そしてぼくらは、この研究室に来たのだ。
「それでぼくには魔力量の多さから、おそらくルーシー先生のオリジナル魔法を覚えることが出来ることがわかったんだけど。一度ルーシー先生に断られたんで、もう弟子にはならないって言ったんだよ」
どんな理由だったとしても、あれだけハッキリと断られたのに、まだ弟子になろうとは思えない。
いつだって、チャンスは一度きりだ。
「だったらせめて、本当に自分の魔法が覚えることができるか試してほしいって言われたんだけど。しっかりと覚えることが出来たんだ。でもどうやら覚えるだけで、ぼくには魔法を使うことが出来ないってわかったところだったのさ」
それで学院長に声をかけられたのだ。
「成る程ね、それで話がつながるのか。でも確かに魔法使いにとっては、魔法を使えることではなく、魔法を覚えてもらうことにこそ一番の価値があるから弟子になってもらうことには、何の問題もないと言えるね」
そうなんだ。つまり、究極的には魔法使いは魔法を使う必要などないと言うことか。
「それで、ルーシー先生は無限くんを弟子にしたいのかな?」
学院長は、改めてルーシーに質問をした。
「はい! 確かに色々と思うところがありますが、私は絶対に学園長にならなければなりません。そのためには、自分の魔法を覚えてくれる弟子がどうしても必要なんです! ムゲンくん、お願いします。私の弟子になってください!」
「……いや、やめとくよ」
ルーシー先生は、元気よくもう一度ぼくを弟子に誘うが、どうしても乗り気になれない。
ぼくの中では、この話はもう終わっているのだから。
「炊事、洗濯、掃除。その他の身の回りの世話の全てをします! 他にも無限くんの願いを全て叶えます!」
「どっちが弟子になるのかわからないなあ」
学院長がぼくの隣で苦笑している。
「私の弟子になってくれるなら、ムゲンくんのどんな願いでも叶えてみせます!」
「ワールド・バンドのメンバーに会いたい!!」
ぼくは大きな声を出した!
「は、はい?」
「音楽の神様に会いたいんだ!!!!」
ワールド・バンド。
世界一の記録を持つバンドを作る。
そんな確固たる目的を持ち、世界にある五つの大国がスポンサーになって、結成されたメンバーたちのバンドだ。
各国で一番の音楽の才能を持った人間が五人集まってデビューし、CD売り上げ枚数、コンサート回数、ギネスなどの世界一の記録を山のように築き上げた伝説のバンドだ。
メンバーは全員同い年で十五歳でデビューし、二十五歳まで世界を騒がせた。
そしてバンドは引退、解散し、全員国に保護され現在の状況の全てが不明だ。
一般人になると宣言して、国はともかく、ファンにとっては突然バンドをやめてしまったことになるので、ファンへの影響は莫大だった。
自殺者が続出したり、大なり小なり戦争が起こりそうになったり、解散から三十年が過ぎた今でも彼らへの情報には莫大な賞金がかかっているらしい。
ファンサイトなどでは、未だに熱狂的な信者が募っているらしい。
「知らないと言うなら、ワールド・バンドの歴史を懇切丁寧に三日ほどかけて説明するけど?」
「し、知ってます! はい! 当然ですよね!」
ルーシー先生はなにやら慌てているけど、そんなことは当然に決まっている!
「ワールド・バンドと言えば、なんで解散できたのかって疑問があるよね。国が記録を作るためにバンドを作ったんだから、引退した後でも一般人に戻れるわけがないんだけど……」
学院長はある程度詳しいようだ。もしかして、ファンなのだろうか。
「ファンの間では、音楽の世界ではバンドを辞めることによって新しい伝説が生まれたりするから、このまま普通に年を取るまで働かせるよりも、若いうちに世間から完全に姿を消すことによって、彼らをただのバンドマンから音楽の神様にしたって話ですよ」
その証拠に彼らは、引退後あらゆるマスコミにすら公に誰一人顔を出さない。どんな国際行事にもだ。
ちなみに、ぼくはワールド・バンドの、あらゆる音楽媒体を全て持っていて、手に入る限りのグッズをコンプリートしている。
「それで、本当に、ぼくをワールド・バンドに会わせてくれるの?」
「はい! 時間はかかりますが、必ず!」
「わかった、ぼくは今日からルーシー先生の弟子になることにする!」
こうして話は決まった。
それも、割とあっさりと。
……これでいい。
ぼくは、この人たちの中ではワールド・バンドの熱狂的なファンと言うことなっただろう。
実際のところは、親戚の兄弟がワールド・バンドの熱狂的なファンであり、ぼくはそいつに色々と付き合ったことで詳しくなっただけに過ぎない。
確かに優れたアーティストだと思うが、ぼくの評価はその程度に過ぎない。
……だが、ぼくには絶対にワールド・バンドのメンバー全員に会わなければならない、理由がある。
でもぼくはまだ、ルーシー先生たちを本当には信用してはいない。
当然だろう、彼女たちとは、ついさっき出会ったばかりなのだから。
熱狂的なファンということにしておけば、ワールド・バンドのメンバーに絶対に会いたいという強い理由になるだろう。
ルーシー先生たちの納得も得られるはずだ。
何故、ルーシー先生に本当の理由を語らないかというと、その事情はぼくだけの問題ではないからだ。
そう、……これはもう忘れてしまった誰かとの最後に残った約束なのだから。
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