第18話 精霊の力


 精霊が宿る石


 石は七つあって、それぞれに精霊が宿っている。石の適正がないと、その石の精霊が体に宿ることはない。


 赤の石の効果は、空気のように馴染んでそこにある魔素を操れるようになる。魔素とは、外気に溢れる魔力であり、魔物は魔素を体に取り込んで魔力とする事ができるが、普通の人間では魔素を取り込む事は出来ない。


 黄色の石の効果は、五感が研ぎ澄まされる。それ以外に、他の石が何処にあるのかも分かるようになる。


 緑の石の効果は、回復魔法が使えるようになる。それは人はだけではなく、物にも同じように作用する。自分の体も常に少しずつ回復させている。


 青の石の効果は、第六感が得られる。これにより、霊や精霊が見えるようになる。


 紫の石の効果は、空間移動が出来るようになる。自分だけではなく、触れているものも移動が可能。また場所だけではなく、人物を思い浮かべるだけでも、その場所まで移動する事ができる。


 その石を嵌める事ができる短剣。柄の部分に窪みがあり、嵌める事によって力がより大きくなるが、適正の無い者には短剣に石を嵌める事はできない。


 石を短剣に嵌める事ができた時、石に宿った精霊が体に宿る。そうなってから、自分でも石の効果を操る事ができるようになる。適正が高い場合、石のみでも精霊を体に宿す事ができる。


 大精霊ユグドラシルが人間と愛し合い、交わって存在する事となった部族。その部族の特徴となるのは、銀の髪と言うことと、常人よりも魔力が多く、その能力に優れている、ということ。


 その銀髪の部族同士での婚姻であれば何の問題もないが、他の者の血が入った場合、宿った子供には異常な力を持つのだという。


 しかし母体にいる間に、その力に耐えきれずに亡くなってしまうか、生まれてすぐに亡くなるか……又は、その力が暴発して、自身とそばにいる者達を巻き込んで亡くなるか……


 いずれにせよ、銀髪の部族と他者との子供が生まれて生きていく事がほぼできない、とされているなかで、俺とアシュリー、ディルクは珍しく生き残った訳だ。


 アシュリーとディルクは双子として生まれた。けれど元は一つの命だった。母体の中で、その力に体が耐えきれなくなるとなった時、その命を守るために体が二つに分かれた。だから、ディルクとアシュリーは同じ命を持つ者だった。


 一つの命で二人分の時間を生きていたから、その分寿命が短くなった。それなのに、俺との子を宿し、その体力や魔力を多く奪われてしまったが為に、更に寿命を縮めてしまった。一つの命だったから、同じ時に生まれ、そして死する時も同じ時だった。


 あの石は、大精霊ユグドラシルが人間界へ来る時に、それを心配して一緒に人間界へ来た精霊達だ。ユグドラシルの子供を守るために、石という媒体を使って、ユグドラシルの子を守っていたのだ。


 異常な力を持つユグドラシルの子孫。精霊が守ろうとしていたのは、その異常な力を制御する為なんだろう。


 黒の石に宿る闇の精霊テネブレ。その力は大きく、争いを好み、魅了の力を持ち相手を翻弄する。見た者に恐怖を与え、正常な判断を失わせる。


 白の石に宿る生死を司る精霊セームルグ。あらゆる者の生と死を操ることができる、心優しい精霊。


 その二人の精霊が、リュカに宿っているのだという。


 

「ゾランも知っていたこともあるだろうが、こんな経緯だ。」


「ある程度は……しかし、精霊が石に宿っているとは知りませんでした。そういう事だったんですね……」


「まぁな。リュカにテネブレとセームルグが宿ってるなら、まぁちょっとは安心だ。とにかくテネブレは強力な精霊だからな。俺はアイツに殺されかけたこともある位だしな。それと、セームルグは生死を司る精霊だ。簡単にリュカを見殺しにするとは思えねぇ。リュカを守ってくれると思う。」


「そうなんですね……いやぁ、凄いです……」


「ん?何がだ?」


「あ、いえ……普通では考えられない事でしたので……」


「まぁ……そうかもな。俺とかはほら、銀髪の部族の血をひく者だからな。精霊とかと会いやすいんだろうな。」


「それ以外にも、エリアスさんは精霊と契約されてるんでしたよね?」


「あぁ。水の精霊と風の精霊、それから炎の精霊だな。」


「凄いです……」


「最近はその力を借りることは無かったけどな。いや……そうか……風の精霊の力を借りてみるか……」


「え……?」


「ストラス!」



 俺が呼ぶと、窓も空いてない部屋の中の空気が動きだし、それが風を生み出して俺の周りをまとわりつくようにして、風の精霊ストラスが現れた。

 淡い水色の短い髪をはためかせ、嬉しそうに俺の周りを回り、後ろから抱きついてくる。



「エリアス!久しぶり!全然呼んでくれなかったのね!寂しかったんだから!」


「すまねぇ。ちょっと力を貸して欲しくてな。」


「うん。なぁに?」


「俺の子供が何処かに行ってな。ストラスが見かけたら教えて欲しいんだ。」


「へぇー。エリアスの子!どんな子なの?!」


「アシュリーって覚えてっか?俺と戦ってた……」


「あぁ!闇の精霊付きの!おっかないよねー。テネブレはすっごい強いからねー。」


「そうだ。そのアシュリーに似てて、髪と瞳は黒なんだ。そして、テネブレとセームルグを体に宿してる。」


「え!?そうなの?!それって強力じゃないよ!」


「そうかも知んねぇけど、まだ子供なんだ。……7歳位か……一人でどっかにいると思うんだ。」


「そっか。それは心配だね。分かったよ!」


「ありがとな、ストラス。」


「うん!でも、また呼んでよ?!エリアスと一緒に戦うの、私好きなんだから!」


「あぁ、分かった。じゃあ、頼んだぞ!」


「了解っ!」



 にこやかにそう言うと、ストラスはまた俺の周りをグルグル回って、それから風と共に消えていった。



「……風がやみましたね。もう何処かへ?」


「あぁ。こうやって精霊に頼ることも気づかなかったくらい、俺は冷静になれてなかったんだよな……」


「それは仕方のなかった事です。でも、落ち着いて下さって良かったです!」


「そうだな。アシュリーにテネブレとセームルグが宿ってるって教えて貰えて良かった。じゃなかったら、気が気じゃなかったからな。」


「そうですね。でも、通常は力が覚醒するのは、人にもよりますが10歳過ぎた頃からでしょう?その頃から魔法が使えるようになったり、自分にあった力に覚醒していくんです。しかし、リュカはまだ7歳……精霊を操ることも出来ないんじゃないでしょうか?」


「そうだな、普通はな。けど、リュカは魔法を操ってたぜ?」


「え?!そうなんですか?!」


「あぁ。たまに手から火を出してた。龍なら口から出すって思ってたのに、手から出したから変わってんなぁって思ってたんだ。それに、パンチしたり掌底を食らわしてたんだけど、そこに魔力を這わせてたんだ。多分、雷魔法だな。それで内臓を感電させてたんじゃねぇかな?」


「それが本当なら、凄いですね!」


「嘘じゃねぇよ。リュカは体力や魔力を奪うだろ?じゃあ、奪ったのは何処へいくんだ?あんな小さな体に、どうやって溜め込むんだ?」


「……そうですよね……それが魔力となっていたんじゃないでしょうかね……けど、それだけでは……」


「黒龍の命を奪う位の体力や魔力を奪って、リュカの体にどう変換されたんだ?一つは龍の姿を得たとして……けど、それだけじゃねぇだろうな……」


「最高ランクの黒龍ですからね……アーテノワ国を加護し、魔物から守っていたんです。その力は強大だったでしょうから……」


「あぁ。……もしかしたらその力の制御を、セームルグがしてくれてっかも知んねぇな……」


「普通で考えれば、あんな小さな体に黒龍の大きな力は耐えられそうにありませんからね……」


「とにかく、俺は石を探す事にする。体に宿っている場合石が放つ光は微弱になるから、近くに行かなきゃその存在は分からねぇ……けど、前よりも見つけられる可能性が見えてきたからな。」


「そうですね!良かったです!」


「あぁ。けど、ゾランも引き続き頼むな?アーテノワ国だけじゃなくて、魔物が多く出没する場所とか、高ランクの魔物が出たって所とか、フェンリルを見たって事を聞いたりしたら教えて欲しいんだ。」


「はい、それは勿論です!アーテノワ国も落ち着いてきましたし、魔物を討伐してくださるのであれば喜んでお知らせします!」


「それが俺の役目だしな。」


「はい!Sランク冒険者ですから!」


「ハハハ、そうだな。」



 闇雲に探しているよりも希望が見えてきた。それに、テネブレとセームルグがついてくれてる。こんなに頼もしい事はない。


 だからと言って安心はできねぇ。あれからもう半年は経っている。リュカの身が心配なのは変わらねぇ。


 リュカ、無事か?


 飯は食えてるか?


 寂しくないか?


 また泣いてんじゃねぇのか?


 俺が必ず探し出すからな。


 それまで待っててくれな?


 頼むから生きててくれよな……?


 




 

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