第15話 あの夢は


 なんだ?!


 どういうことだ?!


 リュカが……!


 龍じゃなくなってる?!



 フェンリルと喋ってるっぽいリュカが、いきなり攻撃しだした。けれど結界でも張ってあったのか、リュカは簡単に弾かれて転がって木にぶつかった。


 無事か?!と思って見ると、リュカが龍から人間の姿へ変わっていってた……!


 驚いて、何が起きてそうなってんのか全く分かってなくて、ついマジマジと見つめちまう!


 しかもそれは……アシュリーを幼くしたような顔立ちで、黒い髪と黒い瞳をしていた……


 嘘だろ?


 マジか……?


 なんだこれ……


 龍のリュカは……俺の探していた、俺の子のリュカだったのか……?!


 けど、じゃあなんで龍になってるんだ?!どういうことなんだ?!訳が分かんねぇ!なんだよこれ!!


 混乱する頭で考えっけど、その考えが全然纏まんねぇ!


 けど、そうこうしてる間にリュカがまたフェンリルに攻撃しに行く!ダメだ!アイツはヤバい!リュカじゃ敵わねぇ!


 俺が代わりに……と思ったところで、急にフェンリルが眩しく光りだした。その眩しさに、思わず目を閉じてしまった……!

 次に目を開けると、そこにはフェンリルとリュカの姿はなかった。



「リュカ?!リュカっ!!」



 必死になって探すけど、フェンリルの気配は全く無くなっていて、何処にもリュカの姿がなかった。


 なんだよ、どうなってんだよ?!リュカ!


 リュカを思って空間移動で行こうとするけど、何かに阻まれているようで、リュカの元には行けなかった。くそ……!なんでだよっ!


 辺りを探しまくる!出てきた魔物は全て即座に倒していく!ガンガンに倒していく!けれど、リュカはどこにもいなかった……!

 日が暮れて、辺りが暗くなっても、構わずに魔物を倒しながらリュカを探す。


 そして倒しながら考える……


 考える……ひとしきり考える……


 けれど纏まった答えが全く出てこねぇ……!


 そう言えば、朝、ルーナの言ってた事はおかしくなかったか……?俺は龍のリュカを見られたと思っていた。けどルーナは……髪も目も黒いから……俺の子供と思ったって……?


 急いで家まで空間移動で飛んで行く。キッチンにいたルーナに駆け寄っていく……!



「な、なに?!エリアス!どうしたのっ!そんな怖い顔して!装備も血塗れで!怪我とか……」


「ルーナ、今朝、俺の部屋で見たのは龍じゃなかったのか?!」


「えっ?!龍?!何それ?!」


「ルーナは何を見たんだ?!」


「えっ!だから、そのっ!小さな女の子だよ!アシュリーにすごく似た!髪と目が黒かったから、あたしアシュリーとエリアスの子供なのかって思って!でも二人の子供なら、よそにやる訳もないから変だなって!それにアシュリーは子供を産んだ形跡とかなかったし……!」


「ルーナが見たのは人間なんだな?!」


「当たり前じゃん!それ以外、何がいるってのよ!」


「マジか……っ!」


「えっ?!なんなの?!どうしたの?エリアス?!」



 ルーナの言葉が耳に入らなくなって、それからすぐにオルギアン帝国の帝城のゾランの元まで飛んでいく。



「あ、エリアスさん、おかえりなさい。今日は遅かったですね。あれ?リュカは……」


「ゾラン!リュカは龍だったよな?!」


「え?何を言ってるんです?」


「ゾランにも、リュカは龍に見えてたよな?!」


「え、はい、もちろん、リュカは龍ですが……」


「なんだ?!なんで龍にっ?!」


「どうしたんですか?エリアスさん?」


「リュカは……!俺の子だ!」


「はい?!エリアスさん?!」


「龍だったけど……リュカは人間だった……!」


「ちょっと落ち着いてください、エリアスさん!訳が分かりません!最初から話して貰えませんか?!」



 ゾランに落ち着くように言われて、なんとか気持ちを静めようと大きく息を吸って、それからゆっくり息を吐き出していく……


 ゾランが魔物の返り血だらけの俺に、光魔法で浄化して、その汚れを全て取り除いてくれた。こんなことも忘れてたくらい、俺は気が動転していたんだ……


 ソファーに座るように促され、腰を下ろしてから、もう一度深呼吸をする。それから、さっき起きた事をゾランに言って聞かせた。ゾランは、信じられない、とでも言い出しそうな顔をして俺を見て、ゾランも深呼吸をしてからゆっくりと話し出す。



「エリアスさんの話は分かりました。しかし……本当に人間の姿だったんですか?」


「ゾランが信じられないのも無理はねぇ……俺も幻覚でも見たのかと思ったくらいだ……けど違う。俺はこの目で見た。アシュリーにそっくりな顔立ちで、黒い髪と黒い瞳で……その髪は艶やかで……忘れらんねぇ……俺をエリアスって呼んで……それから消えて行ったリュカの姿が忘れらんねぇんだよ……!」


「エリアスさん……」


「今朝、ルーナ……俺の孤児院で働いて貰ってる子なんだけど、俺の部屋で人の姿のリュカを見てたんだよ。俺がいない間に。アシュリーに似てたから、俺たちの子供かと思ったって。けどもしそうなら、俺たちが自分の子供をよそにする筈がないから変だって思ったって。そう言ってたんだ……」


「エリアスさんの言うことはにわかには信じられないことですが……」


「俺は嘘は言ってねぇ!」


「分かってます!エリアスさんは嘘を言いませんから!……分かっています。落ち着いてください。」


「……分かった。」


「すみません、仮定の話をします。僕の勝手な憶測だけです。」


「あぁ……」


「アシュリーさんから精霊セームルグが取り出したリュカの魂は、天に還らずに現世にとどまった。その魂が人として生まれるのであれば、母体となる体が必要となる筈です。」


「……そうだな……」


「しかし、あれだけ魔力が多いアシュリーさんでさえ、その命が危ぶまれる程に魔力と体力を奪った魂です。人を母体とするには魔力も体力も足りなかったのでしょう。」


「……アシュリーでそうだったからな……他の人じゃ一日と持たねぇよ……」


「えぇ。だから、それよりも大きな魔力と体力を持つ存在の元へと行ったのでは……」


「それが黒龍?!」


「……仮定の話です。リュカは触れた人から魔力と体力を奪ってましたよね。けれど、エリアスさんは触れても問題なかった。」


「……俺の子だったからか……!」


「そして、もし黒龍の魔力と体力を生まれてからも奪い続けていたとしたら……」


「だから黒龍は死んだってのか?リュカは魔物に殺されたって言ってたぞ?!」


「黒龍は最高ランクに位置付けられる、強大な力を持つな存在なんです。そんな黒龍がその界隈にいる魔物に殺されるでしょうか?」


「じゃあ……リュカが黒龍の母親と父親の魔力とかを奪って……その命を奪ったってのか?!」


「その可能性はあるのではないかと……もちろん、リュカ自身がそうしようとした訳では無いんでしょうが……」


「黒龍の魔力とかを奪ったから……龍の姿になれたってのか?!」


「分かりません。僕のただの憶測です。ですが、今ある情報で考えられる事はこれが限度かと……」


「……そう、だな……今はそうしか考えらんねぇか……そっか……リュカ……」


「……どうされますか?」


「探す……探し出す……!俺の子なんだ!俺のリュカなんだ!フェンリルなんかにくれてやるかよっ!!」


「そう……ですよね……」


「すまねぇ、ゾラン。街へは当分行かねぇ。俺は魔物の討伐に専念する。そうさせてくんねぇか?」


「今まで街の復興に尽力してくださいました。それで構いません。しかし、もしもの時は力を貸して貰えませんか?」


「あぁ、分かった。……ゾランも……」


「はい、僕からもリュカについて調べて探してみます。僕にだって、リュカは可愛いと思える存在だったんです!このまま放っておけませんよ!」


「ありがとう……マジでありがとな、ゾラン……」


「まだお礼を言われる事は何もしてませんよ!頑張って探しましょう!」


「あぁ、そうだな!」



 ゾランと話してるうちに冷静になってきた。相談できて良かった。


 しかし……


 朝俺が見てた夢は、夢じゃなかったんだな……人に戻ったリュカを、俺はそうと知らずに抱きしめてたのか……だからやけにリアルな感じがしたんだな。ってか、なんでその時に気づかなかったんだよ、俺!夢なら覚めて欲しくねぇって、そんな思いから現実を見ようとしねぇで……自分のバカさ加減に腹が立つ……!


 龍になって攻撃されて……そのせいで人間が怖いリュカ……あんなに小さいのに傷だらけにされて、いっぱい怖い思いをしてきて……俺は何も知らずに龍の癖に泣くなって……!


 情けねぇ……!我が子も守ってやれねぇなんて……!


 街に入れなくて、外で待ってるリュカの元へ帰る度に、いつもリュカは泣いていた。一人で不安で仕方なかったんだ、きっと。それでも「待っててくれな」って言ったら、行くなとも言わずに大人しく待っててくれていた。


 アシュリー……


 俺たちの子は優しい子だったよ。そして強い子だ。


 アシュリーを守る為に俺がその命を奪ってしまった。けれど、生きていてくれたんだ。


 だから、今度は絶対に救う!


 必ず見つけてみせる!

 

 リュカ、待っててくれ!


 必ず迎えに行くからな!






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