第14話 黒龍の子

 朝、エリアスに起こされて目を覚ます。


 本当は朝方目が覚めて人間になってたから龍に戻ってたんだけど、それからまた少し眠ったんだ。


 こんな感じで毎日エリアスと一緒に寝てて、それがすごく安心できて、すごく心地いい。こうやってエリアスとずっと一緒にいたいな。ううん、一緒にいるんだ。私がそう決めたんだ!


 エリアスが着替えてる時に扉がドンドンして、急いでエリアスが私に布団を被せた。起きたばっかりだし、まだ少し眠かったからついそのままウトウトしてたら、知らずに人間の姿に戻ってたみたいだった。


 扉がバタンって閉まったから、エリアスが出ていったんだって思ってたら、被ってた布団がゆっくりめくられた。見ると、知らない人間が私を見て驚いた顔をしていた。もちろん私も驚いた!


 ドキドキしたけど、最近は少しずつ人間に慣れてきたから、逃げたりはしなかった。私、エライぞ!



「え……なんでこんな所にいるの……?」


「リュカ……」


「なに?リュカって言うの?」


「うん……」


「似てる……」


「え?」


「アシュリーに……似てる……」


「にてる?」


「似てる子を連れてきて隠してたって事なの……?」


「あしゅりー?」


「なにそれ……」



 その人間は思い詰めた顔をして部屋から出ていった。良かった、人間の姿で……龍だったら攻撃されてたかも知れない。あ、でも、エリアスがまたすぐ帰ってくるかもしれないから、また龍になっておかなくちゃ。


 龍の姿になったら、エリアスが帰ってきた。良かった!それからエリアスがゾランのいる部屋へ送ってくれて、ゾランと一緒に朝食を食べる。ゾランは優しくて、言葉も丁寧に教えてくれるけど、食べ方もちゃんと教えてくれる。今、ナイフとフォークの使い方を教えて貰ってる。何度もナイフで肉と一緒にお皿を割ってしまうけれど、ゾランは笑って許してくれる。ミーシャって人間もいい人間だった。


 エリアスのまわりにいる人間は、みんな良い人間だ。あ、人間って言うんじゃなくて、ひとって言えばいいって。それと生き物は大体が性別があって、男と女がいるんだって。お母さんは女の人で、お父さんは男の人。エリアスとゾランは男の人で、ミーシャは女の人。女の人は大体小さくて、柔らかそうな感じで、男の人は大きくで強そうな感じ。リュカはどっちだ?って聞かれたけど、よく分からない。そんなこと、気にした事がなかったから。でも、お父さんは私を娘って言ってた。それをどう伝えればいいのかな……


 ゾランに、アシュリーの事を聞いてみる。今日部屋に来た人は私を見て、アシュリーに似てるって言ってた。エリアスは、たまにアシュリーって人の事を言う。だから少し気になったんだ。


 そうしたら、ミーシャがこっそり教えてくれた。寝室のベッド脇にある小さな棚に、アシュリーの肖像画が立ててあるって。肖像画って、絵なんだって。そう言われてもよく分からなかった。


 ゾランが少し席を外すねって言って部屋から出ていったのを見て、ミーシャが、「本当はプライベートな事だからいけないんだけどね……」って言って、こっそり寝室へ連れて行ってくれた。


 そこにはアシュリーと思われる人の、絵、というのがあった。


 その絵を見た時、水に映った人間の時の自分の顔に似てる、そんなふうに思った。


 なんでだろう?


 あ、でも、人間の顔の違いはあまりまだよく分からないから、思ったより似てないのかも知れない。


 このアシュリーって女の人が、エリアスの好きだった人なんだな……なんか、懐かしいような、知ってる人のような気がした。それはエリアスの話を聞いてたからかな……


 少しの間見ていて、それからすぐに寝室から出て席に戻る。ミーシャが「内緒だよ」と言って、指を立てて口に当てたので、私も「ないしょ」って言って、同じように指を口に当ててみた。そしたら、自分の爪で自分の鼻を突いてしまった。痛かった!ちょっと血が出ちゃって、それをミーシャに拭いて貰って、ふたりで思わず笑ってしまった。


 ゾランも戻って来て、三人で一緒にお茶を飲んでる時にエリアスがやって来た。やっぱりエリアスがいると安心する。嬉しくなる。今日は魔物討伐ばっかりなんだって。だから、ずっとエリアスと一緒にいれる。良かった!


 空間移動で、エリアスと一緒にやって来た所は、大きくて高い山の麓の森。この辺りは……知ってる……この山の上が私が住んでいた所だ……!



「エリアス!エリアス!ここ!」


「どうした?」


「ここ、リュカ、いた!」


「そうか、ここに住んでたんだな。」


「ここ、おとうさん!」


「ここにリュカのお父さんがいたんだな。……帰りたいか?」


「…………」


「リュカ?」

 

「まもの、おとうさん、やっつけた……」


「そっか……」


「おとうさん、もう、とぶ、ない、うごく、ない……」


「リュカ……悲しいよな……」


「おとうさん、つよい、でも、まもの、おとうさん……やっつけ……」


「もういい、リュカ、もういいから……」



 お父さんの事を思い出すと、涙がポロポロ溢れてくる。エリアスが私を抱き上げてくれる。私はエリアスにしがみついて、少しの間お父さんを思って泣いちゃったんだ……

 

 エリアスはそんな私の頭を撫でてくれる。エリアスは優しい。凄く優しい。


 そうしていたら、魔物の気配がしてきた。エリアスもそれに気づいて、私とエリアスは一気に戦闘モードに変わった。泣いている場合じゃない。お父さんをやっつけた魔物を、私がやっつけてやるんだ!


 エリアスと一緒に戦っていく。この辺りの魔物は強い。それに、数が多い。エリアスは人間の中でも強いんだと思う。強い魔物にも怯むことなく、ドンドン倒していく。私も目で睨み付けて動けなくしてから、パンチをしたり、掌に魔力を這わせてドンって胸辺りを突いて、心臓辺りの機能を無くすようにしていく。


 何度もそうやって魔物を倒し続ける。それにしてもさすがに多い……魔力が少なくなってきてる……



「エリアス!エリアス!」


「どうした、リュカ?」


「ニレのき、いく!」


「え?もう腹へったのか?まだ昼前だぞ?」


「いく!」


「分かった。じゃあ、この魔物を解体し終わったら行こうか。」



 早くエリアスにニレの木まで連れて行って貰わないと……!魔力がなくなったら、私は龍の姿でいられなくなってしまう!


 ようやく解体が終わって、エリアスは素材を空間収納へ片付けて、それから「じゃあ行くか」って、私を見て言ったところで、また魔物の気配がした。この強烈な魔物の気配は……



「すげぇ強い魔物が来る……リュカ、俺の後ろにいろよ?」


「エリアス……」



 エリアスが剣を構えて魔物を待ち伏せする。この気配は、前に私と話した狼の魔物の気配だ……嫌な予感がする……


 ドキドキしながらエリアスの後ろに隠れるようにしていると、ゆっくりとした歩みで狼の魔物は私たちの前に姿を現した。



「でけぇ……フェンリルか……こんな魔物もここにはいんだな……」


『黒龍の子よ。お前はなぜ人間と共にいる?』


「……なんだ?なんか喋ってるのか……?」


『魔物はやっつける。だからエリアスと一緒にいる!』


「リュカ?!フェンリルと喋ってんのか?!」


『お前のいる場所はそこではない。』


『私はエリアスといる!エリアスは魔物を私と一緒にやっつけてくれる!』


『その人間といるのは、お前が人間の子だからか?』


『なんて……?私は黒龍の……お父さんの子供!』


『自分のことも分かっておらず、か。やはりお前は龍ではなかったのだ。その姿は黒龍である両親から奪った力で得たものだ。』


『え……何の事を言ってるの……?私は黒龍のお母さんから生まれたって、お父さんが……!』


『龍の腹を媒体にするとは……恐ろしい魂だな。お前は力を奪う。黒龍の母の力を……生命力を奪い生まれ落ち、それからは黒龍の父の生命力を奪った。そうしてようやく龍の姿を手に入れたのだな。』


『違う!違う!違うっ!お父さんは魔物に引き裂かれた!お父さんはっ!』


『あの黒龍がこの界隈におる魔物に殺される事等なかったのだ。よく考えれば分かった事だった。……現実を受け止めよ。そして、奪った力でお前がすることは、魔物を人間と共に討伐することではない。』


『分からない!何言ってるか分からない!お前も私がやっつけてやるんだから!』


「リュカ?!」



 思わずエリアスの前に出て、エリアスがフェンリルと言った狼の魔物を睨み付ける。けれど、やっぱりフェンリルの動きは止まらなかった。勢いよく飛んで行って、フェンリルの上から頭上目掛けて掌に魔力を這わせて掌底を食らわそうとした……!けれど!


 バチンって音がして、私自身が弾き飛ばされた……!


 コロコロと転がって、木にドンってぶつかって止まった。なんとかヨロヨロと起き上がる。



「リュカ!大丈夫、か、……え……?」



 エリアスがフェンリルに向かって行こうとした所で、私を見てピタリと足を止める。驚いたその顔を見て、自分の姿を見てみると、私は龍の姿じゃなくなっていた。



「エリアス……」


「なに……なんだ……リュカ……なのか……?」


『魔力がないと龍にもなれぬ。それが龍である訳がない。』


『違う!私は!黒龍の子!』



 走ってフェンリルに向かって、その足にグーで殴り付ける!けれど、それは何の効果もないみたいだった。



「もう止めろ!敵う相手じゃねぇ!」


「でも……!」


「リュカなのか?!なんで人間に……!龍じゃなかったのか?!」


「エリアス……!」



 振り返ってエリアスを見た所で、辺りが光りだして眩しくなって、その眩しさに思わず目をギュッて閉じて……


 光が弱くなってきたみたいだから、ゆっくり目を開ける……すると、そこはさっきいた場所とは全然違う場所で、暗い洞窟のような場所だった。


 私はエリアスと離れ離れになってしまった……





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