第13話 似てる


 最近、よくアシュリーの夢を見る。


 それがなんかすっげぇリアルで、俺と一緒に寝てる夢なんだ。けど、なんか抱き心地が小さくて、もしかしたら俺はアシュリーじゃなくて、俺の子のリュカの夢を見てるのかも知んねぇ。


 それがどっちでも、その夢を見れる事が嬉しくて、すっげぇ幸せな気持ちになるから、俺はこのままずっと眠っておきたいって、そんなふうに思っちまうんだ。


 そんな夢を見てまた少し寝て、それから目が覚めると横には龍のリュカがいた。最近はずっとこうやって二人で眠ってて、リュカも俺にくっついて眠っているから、それがなんかすげぇ可愛いんだよな。



「リュカ、朝だぞ。起きろ?」


「……あさ……おきる……」


「ハハ、そうだ。おはよう、リュカ。」


「おはよう、エリアス」


「ちょっと待っててくれな。用意したらオルギアンの帝城まで送って行くから。」


「うん、まつ」



 着替えをしてたら、扉が勢いよくドンドンって叩かれた。何事かと思ってすぐに開けようとして思い止まって、リュカの存在を知られねぇように、リュカを布団の中に急いで隠して、そうしてから扉を開く。



「エリアス!……きゃっ!」


「ルーナか……あ、着替えてるとこだったから上が裸だったな、すまねぇ。」


「ううんっ!こっちこそ朝からごめん!あ、あのね、クリスがね、ベッドから落ちて頭打っちゃって、ちょっと血が出ちゃってるんだ!診てあげて欲しくって!」


「分かった、すぐ行く。」



 すぐにシャツだけ着て、クリスの寝室へ向かう。クリスは泣いていて、頭から少しだけ出血してるだけだった。頭に手を当てて、魔法で治癒させる。するとすぐにそのキズは無くなってクリスも泣き止んだ。「気を付けろよ」って言って頭を撫でて、それから自分の部屋へと戻ってきた。


 部屋に戻ると、リュカがベッドに座っていた。



「あ、ごめんな。ちょっと怪我した子がいてて治して来たんだ。待たせたな。」


「リュカ、にてる」


「ん?どうした?何がだ?」



 その時、リュカのお腹が鳴った。その音を聞いたら、可愛くて思わず笑っちまう。



「腹、減ったよな!すぐに送って行くから!」


「にてる……」



 リュカが何か言ってたみてぇだけど、それよりも先に飯食わしてやらなきゃな。すぐにリュカを連れてオルギアン帝国の帝城にある俺の部屋まで送って行った。そこでは既に食事の用意がされてあって、ゾランは既に待っていた。



「おはようございます!エリアスさん!リュカ!」


「おはよう、ゾラン」


「よう、ゾラン!良い天気だな!お?!今日も旨そうな朝食だな!じゃあ、ゆっくり食っててくれな!ゾラン、頼んだぞ!」


「はい!ではまた後程!」



 リュカをゾランに任せて、すぐにまた空間移動で帰って来た。支度を済ませて一階に降りる。そこには既に子供達もいて朝食を摂っていた。クリスの元まで行って、「大丈夫か?」って声を掛ける。笑いながら「うん!」って答えるクリスを見て、問題なさそうだなって安心して、俺がいつも座るカウンターの席まで行く。すると、俺の前にルーナが朝食の用意をしてくれた。



「エリアス、さっきはありがとう。朝からごめんね?」


「あ、いや、それは全然。クリスも軽い怪我だったみてぇだし、すぐに治したから問題ねぇだろうしな。」


「うん……」


「ん?どうした?気になる事でもあんのか?」


「あ、うん……その、連れて来たんならさ、ちゃんと教えて欲しいって言うか、なんで何も言わないのかなって……」


「え?」


「そりゃあさ、すっごい可愛い子だったし、その……凄く似てたし……だから一緒にいたいんだろうけどさ……」


「え、何?なんの事を言ってんだ?」


「だから!なんで隠すんだよ!隠さなくていいじゃん!」


「えっ!もしかして、ルーナ、見たのか!?」


「……うん。」


「そっか……ビックリしただろ?けどな、可愛いんだ!なんも悪い事しねぇし、大人しいんだよ!」


「そうなんだ。へぇー。……で、なんで一緒の部屋なの?」


「え?……それは……リュカ……、あ、リュカって名前なんだけどな、リュカは前にちょっと怖い思いをして、人間が怖いって思ってたりすんだよ。けど俺にはなついてるから、俺と一緒にいる事にしてるんだ。」


「人間不信……ってヤツ?」


「え……っと……まぁ、そうだな。だから仕方ねぇんだ。それに、皆が見たらビックリするだろうしな。」


「え?……あぁ……あれだけ似てたらそうかも……髪も目も黒いしさ。もしかしたらエリアスの子供かな、とか……」


「まぁ、なんかそんな気もすっけどな。あ、でも、もちろんそうじゃねぇぞ!」


「……やっぱりアシュリーだけなんだね……」


「え?」


「もういいよ!なんかあたし、バカみたい!」


「ルーナ?なんだ?どうした?」



 ルーナがいきなり走り出して外へ出ていった。どうしたんだ?何でだ?……さっぱり分かんねぇ……俺、何か悪い事でも言っちまったのかな?ルーナが出ていった後を見つめながらそんな事を思ってると、俺の横にカイルが座ってきた。



「エリアスって鈍感だよなー。」


「え?なんだ?カイル?」


「ルーナの事、本当に気付いてないの?」


「何を気づくってんだよ?」


「マジで鈍感過ぎだよな。ルーナが可哀想だぞ?」


「なんでだ?なんでルーナが可哀想なんだよ?!」


「それは俺が言うことじゃねぇからさ。早く気づいてやれよ。」


「だからなんの事だよ?!」



 ここにいる孤児の中で最年長のカイルに、なんか意味深な事を言われた。カイルは言うだけ言って、自分の席に戻って行った。


 わっかんねぇなぁ。何が言いたいんだか。言いたい事があれば何でも言えば良いじゃねぇか。問題があるなら考えて改善するようにしていくぜ?そのつもりがなけりゃ、孤児院なんて運営出来ねぇからな。


 ルーナが用意してくれた朝食を食いながら、人手が足りてねぇのか、とか、金が足りてねぇのか、とかを考えてた。月に一度程、運営に関しては、ここで働いてる職員と、子供達から代表で一人選出して意見を言って貰うようにしてる。そこでは何も問題無かった筈なんだけどなぁ……


 ダメだ、考えても分かんねぇ。またルーナが落ち着いたら聞いてみる事にしよう。


 さっさと飯食って、すぐにリュカの元へ行ってやらなきゃな。


 出る前に、一人一人子供をギュッてして一言声を掛けて、職員にも一人ずつ言葉を掛けていってから出ていくようにしている。今日もそうしたけど、ルーナはまだ帰って来なかった。仕方なく出ていく事にする。


 帝城の俺の部屋へ空間移動で行くと、リュカが食後のお茶を飲んでいた。カップから飲むのも上手くなったなぁ。


 俺も座ると、ゾランの奥さんのミーシャがお茶を入れてくれる。ミーシャにもリュカの事はテイムした従魔だと話していて、口外しないようにも伝えている。はじめはミーシャとリュカとふたりしてビクビクしてて、それを見るのが不謹慎かも知んねぇけど面白かった。今は慣れて、リュカはミーシャからも言葉を教えて貰ってるようだ。こうやって少しずつ人に慣れていってくれたら良いんだけどな。



「おかえりなさい、エリアスさん。」


「あぁ、ゾラン、アーテノワ国の情勢はどうなっている?」


「エリアスさんのお陰で、かなり早くに復興できてますよ!凄いです!ストリア商会からも多くの物資を無償で貰えましたから、食料や生活用品に困ることはありません。」


「そっか。で、孤児や仕事が無くなった奴なんかはどうなっている?」


「それはイオニアス国王が手を打ってくれています。対応が早くて助かりました。」


「ちゃんとしてくれてんだな。良かったよ。」


「各国から人員も派遣しております。急いで外壁を設置していて、思ったより人員が集まったので、こちらもすぐに完成するでしょう。ただやはり被害者は多く、今後の生活や税収等にも影響が表れそうですね。」


「それは当分の間は仕方ねぇな……魔物もピンからキリまでだ。高レベルの魔物の場所は地図に書いておくから、そこには近づかねぇように注意が必要だな。それと、その近くにあった村は出来れば無くした方が良いな。住人は他の街や村へ移動させた方が良い。それから、冒険者の育成も必要だな。明らかに不足してるしな。」


「そうですね。でもすぐには育ちませんから、アーテノワ国内の魔物討伐は、暫くの間依頼の金額を多く設定しておきます。そうすれば他国からも冒険者がやって来てくれるでしょうからね。」


「そうだな。それで住み着いてくれりゃあ良いんだけどな。」


「そうですね。閉鎖的な国でしたからね。それをリドディルク様が友好的に交渉して、なんとか属国となったんですから。しかし今回の事で、アーテノワ国はオルギアン帝国の属国となっていた事に感謝したことでしょうね。」


「だろうな。じゃなきゃ、自国だけじゃ今回の事は何も対応出来なかっただろうからな。」


「これを機に、もっと他国と交流を持って頂きたいですね。」


「まぁな。山に囲まれた国だったからな。閉鎖的になんのも仕方ねぇ事だったのかもな。さて、そろそろ行くとするか。」


「今日は北側へ行かれるんでしたね。」


「あぁ。あの辺りが一番魔物が多い。討伐してっけど追い付いてねぇ。街の方は一段落ついたし、今日は一日そこで魔物を狩る事にする。」


「助かります。ありがとうございます。」


「こんな時の為に俺がいるんだろ?」


「ですね!ここぞとばかりに役立って下さい!」


「言い方!ったく……じゃ、行ってくる。リュカ、行くぞ?」


「うん、ゾラン、ミーシャ、バイバイ」


「リュカ、頑張ってきてね。バイバイ!」


「リュカちゃん、頑張ってね!バイバイ!」

 


 今日もリュカと魔物討伐だ。街へは行かねぇから、ずっと一緒にいてやれるな。リュカを見ると、俺を見てニッコリ笑う。……たまんねぇな……


 少しずつこの生活に慣れてきた。リュカが言葉を覚えてきて、言ってることも理解してくれるし、言いたいことも少しは分かってきた。


 一緒に眠る相手がいるってのは良いな。人間じゃねぇけど、一人じゃねぇって思えんのが良いよな。


 リュカがデカくなるまでどれくらいか分かんねぇけど、それまではずっと一緒に寝よう。


 そういや、ルーナにリュカの事、バレちまったんだった。それで怒ったんだろうか。なら謝んなきゃな。ルーナにもリュカの可愛いところ、分かって貰えたら良いんだけどな。


 帰ったらちゃんと話そう。それから、皆にもちょっとずつ知らせていくか。皆にリュカを可愛がって貰いてぇしな。


 そうだな、そうしよう。


 今日、帰ったら話しをしよう。


 リュカはもう、家族みてぇなもんだからな。






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