第8話 友達


 朝日が目にしみる。


 寝ぼけたまま無意識に、温かな存在をギュッと抱きしめる。


 髪が頬に当たってくすぐってぇ……


 ゆっくり目を開けると、そこにはアシュリーがいた。嬉しくなって、また抱きしめてから額に口づけをして、再び目を閉じる。


 幸せだ……


 こうやって愛する人が俺の腕の中で眠ってるって事が幸せすぎてたまんねぇ……

 そう感じながら、俺はまた眠りに落ちていった。



「エィアス……エィアス……!」


「ん……アシュリー……?」


「エィアス!リュカ!」


「え?あれ?……あぁ、そっか……そうだったな……あれは夢だったか……やけにリアルだったな……」


「エィアス……」


「ん?どうした?リュカ、腹へったのか?」


「はらへったのか」


「ハハ……またパン食いてぇのか?」


「パン!エィアス、パン!」


「パンが美味しかったのか?」


「パン、おいしかった!」


「ハハハ、龍の癖に変わってんなぁ。ちょっと待っててくれな。持ってくるから。」



 すぐに起きて着替えを済ませ、一階へと降りる。俺の部屋は四階の一番奥にあって、二階と三階の部屋に他の人達がいる。一階には食堂、風呂、居間等があって、今日も朝からルーナが食事の用意をしてくれている。



「おはよう!エリアス!」


「あぁ、ルーナ、朝から元気だな!」


「今日はなんかスッキリした感じだね。よく眠れた?」


「あぁ。そうだな。久しぶりにグッスリ眠れた気がするな。」


「それは良かった!昨日ここでご飯食べないで、大量に晩御飯を自分の部屋に持って行ったじゃない?どうしたのかって思ったけど、部屋でゆっくりしたかったの?」


「あぁ……まぁな。」


「あたしはちょっと寂しかったけど……」


「え?」


「あ、その、エリアスがさ、今日はこんな事があったんだって、他国のことを話してくれるの、いつも楽しみにしてたからさ!」


「そっか。ごめんな?」


「ううん、そんな事は良いんだけどさ!あ、待ってね、すぐに朝食の用意するから!」


「いや、良いよ。自分でする。それと、また部屋で食いてぇんだ。」


「え……?なんで……?」


「あ、いや、その……仕事の資料とか見ながら食おうかって思ってな!」


「そっか……大変なんだね。」


「まぁな!行儀の良いことじゃねぇから、子供達に見せたくねぇしな!」


「そう、だね……分かった……」


「じゃあ貰って行くな。」


「うん、良いけど……また凄く多く持って行くんだね。食べれるんなら良いんだけどさ……」


「最近大食いになっちまってな!よく腹へるんだよ!ハハハ!」


「そうなんだ……」


「じゃあな!」


「あ、うん……」



 やべぇな……なんか感づかれたかな……けど、まさか部屋に龍がいるなんて思わねぇだろうな。親に隠れてペットを飼うって、こんな気持ちなのかな?ってか、リュカはペットじゃねぇけどな。なんつぅか、子供みてぇな感じだな……あ、いや、俺にはリュカがいる!龍じゃねぇ方の!だから龍のリュカは……そうだ、友達だ!俺の小さな友達なんだ!



「リュカ、食いもん持ってきたぞ!」


「エリアス!」


「お!エリアスって言えたな!すげぇぞ!」


「リュカ、すげぇ!」


「ハハハ!いっぱい持ってきたからな!いっぱい食え!」


「いっぱい、くえ」


「そうだな、言葉使い正さないとな……食べる。」


「たべる」


「そうだ。パン、食べる。」


「パンたべる」


「パン、美味しい。」


「パン、おいしい!」


「ハハ、そうだな。パン、好き。」


「パン、すき」


「そう、美味しいって事は、好きって事だな。」


「パン、すき、エリアス、すき」


「……っ!マジかっ!」


「まじ……だ」


「ダメだ、すっげぇ可愛い!リュカ、可愛いっ!!」


「リュカ、かぁいい」


「ハハ、そうだな!リュカ可愛い!俺もリュカが好きだぞ!」


「すき、だぞ、エリアス、すき」



 マジでリュカが可愛いくて仕方ねぇ!やべぇな、これ!


 ……けど、どうしようか……今日もこれからアーテノワ国へ行く。リュカを部屋に置いていく訳にもいかねぇな。けど龍なんて連れて回ったら、魔物に襲われたばっかの人達は驚くだろうしな……


 そんな事を考えてると、リュカはテーブルに向かって行って椅子に座った。昨日もそうだったけど、リュカはちゃんとテーブルについて飯を食う。下に食べ物を置こうとしたら、テーブルの方へ自ら行って、椅子に座ったんだ。すげぇんだな、龍って!


 リュカはパンをバクバク食べる。野菜スープも、スプーンを上手に持って、掬ってからちゃんと冷まして食べてる。すっげぇ賢い!卵もサラダも肉も、美味しそうに食べてる。フォークの使い方を知らないようだったから、使い方を教えると、頑張って真似して食べようとする。まだ上手く使えなくてボロボロ落としてっけど、マジですげぇ!マジ、龍リスペクト!けど、龍って何でも食べんだな。


 さて、まずは……ニレの木の元まで行くか……


 一人で「行ってくる!」と言って玄関を出てから、空間移動で部屋に帰って、リュカと一緒にベリナリス国にあるニレの木の元まで空間移動でやって来た。



「リュカ、俺はこれから仕事に行かなきゃなんねぇんだ。」


「なんねぇんだ」


「だから、ここで待っててくんねぇか?」


「まってて……」


「昼になったら一旦戻ってくる。……分かるかな……」


「エリアス、いっしょ」


「あぁ、うん、そうなんだけどな。仕事にリュカを連れてけねぇんだ……」


「エリアス!いっしょ!いっしょ!」


「えっと、あ、そうだ!リュカ、すぐ戻って来る!だから、ちょっとだけ待っててくれ!」


「エリアスー!」



 リュカの声を聞きながら、まずは空間移動でオルギアン帝国に来た。そこで大量に食料を貰う。パンもいっぱい貰った。


 それから昨日の報告をして現況報告を受けてから、後で相談したいことがある、とだけゾランに告げて、急いでニレの木の場所まで戻ってきた。


 そこにはちゃんとリュカがいて、俺を見つけて駆け寄って来た。



「エリアス!あぅぅ……!エリアス!」


「ごめん、リュカ、またすぐ行かなきゃダメなんだ。」



 俺に抱きついて離れないリュカに諭すように言うけれど、リュカは目に涙をいっぱい浮かべて俺にしがみつく。頭を撫でて、ゆっくり屈んでリュカを抱きしめる。リュカに微笑んで、それから大量に貰ってきた食料を出す。



「ほら、リュカの好きなパンもいっぱい貰ってきたぞ!これ全部食べて良いからな!ここで待っててくれな?俺は必ず戻って来るから……」



 リュカがパンに夢中になっている間に、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。


 すぐにアーテノワ国まで行って、昨日と同じように被害のあった村や街を巡って行って、魔物もガンガンに討伐していく。


 リュカ、寂しがってるかな。


 早く帰ってやらねぇとな。


 ちゃんと待っててくれてっかな。


 飯は足りてっかな?龍がどれくらい食うのか分かんねぇな……


 またひとりで泣いてねぇかな。


 置いてったリュカの事が気になって気になって、どうしようもなかった。だからといって、仕事に手抜きはできねぇ。世の中の親って、皆こんな気持ちなのかも知んねぇな。あ、いや、リュカは友達だけど!


 とにかく急いで仕事をこなし、昼を大きく回っちまったけど、ニレの木の元まで空間移動で戻ってきた。


 けど、そこにはリュカの姿は無かった。


 置いてったパンやらの食料が手付かずのままだ。なんでだ?何処にいった?


 どうしよう?!あんなちっちぇ子供の龍が、ひとりでちゃんとやっていけんのか?!もしかして魔物に襲われたか?!……いや、普通の魔物じゃこの木の周りにも来れねぇ。普通の人と一緒で、魔力にあてられるからだ。


 だから、リュカがそこにいた時は驚いた。そう思うと、龍ってやっぱすげぇんだな。俺がいなくても問題なく生きていけるかも知んねぇ。けど、昨日とさっきの寂しそうなリュカの姿を思い浮かべると、どうしようもねぇ感情が胸を襲う……


 俺の瞳には色んな効果がある。これは異能の力で得た。今は能力制御の腕輪があるから平気で人にも触れられるけど、これがなけりゃ俺は簡単に人に触れらんねぇ。左手で触れると、触れた人から光を奪う。奪った光が、俺に特別な能力となって目に宿る。よくよく考えると、バケモンみてぇな力だよな……


 神経を集中して千里眼を発動させる。すると、遠くからフラフラしながら飛んでくる物体が見えた。


 あれは……リュカだ!


 急いで駆けて行く!


 どうしたんだ?!


 何があった!


 昨日会ったばっかで、相手は龍で……けど、なんか守らなきゃいけねぇ存在に思えてなんねぇんだよ!


 龍だろうが何だろうが、リュカは俺の友達だ!そうだ、だから気になるんだ!


 



 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る